数週間後
――――――真下が現われてから数週間後。
俺達は部室にいた……
真下は2週間かかって将棋のルールを覚え、次の2週間で一勝し、次の2週間で十勝という驚異の早さで強くなっていった。
今では、部活で二番目の強さになっていた。
獅子奮迅の勢いだ。
俺?俺は……三番目だよ……。
射太子と平子場は……聞かないであげて……
勉強のほうは……将棋とは真逆の結果で射太子と平子場は天才と呼ばれるぐらいに頭が良かった。
勉強出来るからと言って、戦略が達者というわけではないのだ。
実は今、1週間後にある、全国将棋大会の出場チーム三名を決める部内トーナメントをしているところだった……
一回戦の俺達は、射太子以外は勝っていた。
二回戦……勝った。相手は平子場だった。
平子場が二回戦にいけたのは、一回戦の相手が射太子だったからである(笑)
真下も勝っていた。
準々決勝もどうにか二人とも、勝っていた。
準決勝……俺は負けた。
序盤の盤面は優勢に見えたが、53手目辺りで飛車角両取りをされてしまったことが敗因だった。
相手は部長の水谷リク先輩だった。
真下はやはり準決勝も勝った。次はついに決勝戦だ。
大会への参加は決定しているが、勝った方が大将として大会に出場出来る。
試合は二時間も続いた。長いよ!
片や桂馬による特攻を試み、遠方の飛車により奪取され失敗。
片や歩兵・香車・飛車の三直突撃を試み、桂馬に飛車を取られ失敗。
一進一退の攻防戦。雰囲気に負け、嘔吐しそうになる部員も居た。
(大げさだろ)
そんな中、決着がつく。
結果は……
真下の勝利で終わった。
僅差の一手差。リク先輩の金が後一歩でも動いていれば先輩の勝利だった。
惜しい試合にリク先輩は、ガックリ肩を落としていた。
「勝った!?私、勝っちゃった?み、みんなの前で……知らない人と、勝負しないと……ダメなの?」
なんか、勝ってから恥ずかしがってる真下が可愛く見えて来てしまった俺であった。
なんて言ってる場合は実は無く、俺は三位決定戦をしているところであった。
相手も俺も、真下達の試合が気になって、観戦しながらの戦いになってしまっていた。
そのせいで時間はどんどん過ぎる。タイマーなどは部内なので使ってないので時間切れは無い。
だが、伊達に部内三位を誇る俺ではない。相手には悪いがそろそろ決めようかい。
勝負は、俺の圧勝で幕を下ろした。
持ち歩兵の全成り。盤面は『と』だらけ。
飛車角全成り。
となった時点で投了宣告を受けたのだ。
(もう少し、ちゃちゃっと終わらせておけば、観戦に集中できていたのだろうか)
結果、出場者は、
大将 真下ミキ
中堅 千崎リク
先鋒 高須ソラ
と言った三名に決まり、今日の部活は終わった。
学校から出ると、真下はやはりうるさくなり、
「ヤッター!勝ったー!」
楽しそうに喜んでいる真下であった。
「そんなにはしゃいでて、良いのか?」
「ソラ!それはどういうこと!」
「だって、みんなの前で将棋打って、さらに大将ってなると、みんなの視線は少なくとも大将の真下に集まると思う」
「そ、そうだよね……大将だもんね……」
と、二人で話してる時に射太子は爆笑していた。もちろん俺達の会話でである。
笑われた真下はどうなったかというと……
鬼の様な形相で、真下は射太子を怒鳴り付けていた。
「そこ!人の不幸を笑わない!この……最下位!」
なぜトーナメントの将棋大会なのに、射太子が最下位なのかと言うと…
要するに、顧問の先生が最下位をついでに決めてくれと、言ったので最下位決定戦を開催し、30分足らずですべての試合が終わり、射太子は物の見事に惨敗したのだ。
なので、射太子君は最下位になってしまった。
回想シーンを挟むまでも無いのだ。
「あれは事故さ……一種の事故さ…………明日のテストは、何かなーハッハッハッ……」
射太子は、有りもしないテストのことに逃避し、とうとう壊れてしまった。
「おーい、射太子君~帰ってこい~」
俺は必死に、射太子を止めた……。
(死の世界へ行く射太子を)
―――時は流れて大会の日。
各チーム、三名同時に対局が始まる形式だ。
一回戦、俺とリク先輩が勝ち、真下は負け。
二回戦、一回戦と全く同じの結果。
緊張しまくりの真下は負けっぱなしで、俺とリク先輩がギリギリ勝っていたようなものだった。
状況はかなりキツイ状況。
準決勝もなんとか勝ち進み、決勝前には真下の緊張も解けていることを祈るばかり。
ついに決勝の舞台へ。
決勝は一戦ずつ行う特別ルールである
先鋒戦……負けた。
負けてしまった……今日の真下は負けっぱなしで、キツイ状況なのに、俺は負けてしまう。
このままで優勝が出来るのか心配になってきた。
中堅戦……リク先輩があと一手遅れていたら負けるところだったが、勝利した。
大将戦……ついに真下の勝負が始まり、もちろん皆が見つめている中での戦いである。
開始した直後、緊張で手が震える真下に対し、相手の大将が言った。
「何で、あんたみたいな人が大将?あんたのチーム、そこの二人が勝ったお陰で決勝に来れたんだし、あんた負けっぱなしなんだから、今すぐ投了した方が身のためだと思うけど?フフッ」
「そんなことは無い!」
と、真下は怒り、周りが見えなくなるくらい集中し、いつもより一手一手が良くなっていた。
だが拳闘空しく……相手の圧倒的な強さに負けてしまった。
相手は聞くところによると将棋会の重鎮の娘だとか。そりゃ負けるわ。
「優勝は、航路儀学園です!皆さん拍手をお願いします!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
審判の言葉で会場全体に、拍手が響いた。
その中で泣く俺達がいた。
「ご、ゴメン……負けちゃった……ゴメン……」
泣きながら、謝る真下に対して、俺は、今じゃないだろうと思うだろうが、涙を拭き、
「あのさ、真下?俺と付き合ってくれないか?お前が好きなんだ!」と言った
こんなときに何てことを言ってるんだ俺は!と思ったが……。
「良いよ……でもさ、何で?……私なんかで良いの?負けたんだよ?」
「良いさ!ずっと可愛いと思っていたし、不謹慎かとも思ったんだけどさ、泣いてる真下を……いや――ミキを見てるとさ。余計に好きになった!本当は優勝したら告白しようと思っていたんだけどな……」
その後……ミキはつかれたのか、帰り道俺の背中で眠っていた。
リク先輩は、もう少し打っていくってどこかに去っていってしまった。
きっと俺達に気を使ってくれたのだろう。
そういえば射太子の姿をチラッと見たような……まぁいいか。
今はこの幸せな気分を味わっておこう。