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暴走女子

 朝になった。どうやら考え事をしながら寝ていたらしい。頭がボーっとする。クラクラする。熱が平熱より少し高い。だが、これは知恵熱の一種であり、この程度なら学校に行くのも苦ではない。咳も出ないし、感染病の疑いも無いので登校は可能だ。


 ___ドンドン!ドンドン!扉を叩く音が聞こえてくる……。


「起きてよ!ねぇ!聞こえないの?早くしてね!」

「早くしろよ……」

 何かの訪問販売か何かか?女と、男のコンビセールスとか、あんまり知らないし、もしかして借金取り!?……いやいや、そんなこと関わった覚えがない。

 近くに引っ越してきた夫婦か何かか?

そう思った俺は眠たい目をこすりながら玄関に向かった。

(ちなみに、俺は、一人暮らしだから家族に迷惑かけてないっす・・・)


 ともかく玄関のカギを開けた。ガチャンと、カギを開けた瞬間……ドーン!っと蹴破る勢いでドアが開いた。

「訪問販売ならお断りですよ~……」と、言いながら顔をあげると、

「誰が訪問販売の人だって?!」

 目の前には真下がいた。後ろには少しおびえた射太子がいた。(いつものアイツは強気なのに……)

「何があったんだ?射太子」

つい気になった俺は聞いてしまった……この後に起こる悲劇を知らずに……

「私が教えてあげようか?」

「俺が言うよ……」

(何だか本当に夫婦みたいな会話してるから夫婦に見えるんだけど!(笑))

「口に出てるよ!いとこだって知ってて言ってるでしょ!」

 朝っぱらから真下に怒られた。横暴だとおもう。

「と、とにかく、何があったんだ?」

 俺は怒りを逸らすために話を戻した。

「今は、とりあえず学校に行くときだ……学校で俺が説明するから……な?」

 かなり弱めに射太子が言った。まるで蛇に睨まれた蛙のように怯えながら。

「ちょ、ちょっと!まってよ!学校で話すの?おじ……射太子に昨日言ったでしょ!―――学校はダメ……だって……。その話をするために授業の二時間前に来たんでしょう!」

 照れながら怒る真下であったが、そんな話は無かったかのようにスルーした射太子が、学校に行く準備を早々にしてくれと言った。

(学校に何か特別な物があるのか?)

 俺は五分で準備をして家を出た。もちろん弁当も朝食も無い。昼食は購買部で買えるが、朝食はあきらめるしかないようだ。

「早く、行くぞ!」

 言いながら射太子は走り出した。蛙が豹に変わる瞬間を見たようだった。

 真下がその後ろを追って走った。

 もちろん俺も走って行ったのだが、射太子は将棋部のくせに足が陸上部よりも速い。昨年の文化部対抗リレーとかは射太子の功績でトップは余裕だったほど。

 そんな射太子に真下が、追いついたと思ったら、追い抜いていた……超人の上の超人。スーパーサ〇ヤ人2みたいな感じだろうか。挙句フュージョンでもしてしまうのではないだろうか。

 二人に必死についていく(目視出来るギリギリの距離)と、学校に着いてしまった。

(普段なら学校までは10分は絶対かかるのだが、今日はなんと3分で着いちゃたよ)

「明日からもこうなるよ!」

 なんて、真下に言われた。

(何であんなに走ったのに、息切れなしだろ?スゴすぎるだろ!あの射太子でも息切れしてんのにな……)

 学校に着いたが、まだ7時なんだな……肩で息をしていたが、授業まで余裕で体力は戻るだろう。―――あ。今日体育だ。幸いにもハンドボール投げで良かったよ。マラソンとかだったら不毛の大地。砂漠の中の幻。選挙の時の公約等のように絶望の淵に追いやられていたことだろう。

「こ、これが……はぁ。……はぁ。ま、毎日、つ……続く、のか?」 

 生きて来たなかで一番速く走ったから、俺は予想以上に息切れしていたようだ。もしかしたら体力回復が授業に間に合わないかもしれない。

「そうだよ、まぁ~もう少し起きる時間は遅くなるけどね」

 と、スゴイ楽しそうに真下が俺と射太子に言った。

 俺達二人は、顔を見合せて、同時に大きなため息をした。毎日の苦行を思って。

「この時間じゃぁ誰も居ないだろうな」

 ってな話をしながら教室に行くと、平子場が居た!

 こちらに気づいたのだろう。7時に学校とか何事だよ。

「お!今日は早いねぇ~♪」

 楽しそうに俺達に駆け寄って来た。

「お前いつも、こんなに早いのか?」

 との射太子からの問いに

「平子場さんは静かな学校が好きなのさ♪」

 なんて、平子場に似合わない返答だった。普段はクラスのムードメーカーで、落ち着きの無いことこの上ない。サーカスのピエロや夜中に走り回るネズミ。幼稚園児や国会議員のように落ち着きが無い。そんな平子場のさらっとした言葉。まるでそこだけ時が止まったように別世界だった。そう。別世界。

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