第7話 コウイチがいない戦い
その依頼の話を聞いたのは、ギルドの掲示板の前だった。
「中型魔獣、渓谷南部。
……あ」
条件を見た瞬間、胸の奥がわずかに反応した。
――似ている。
地形。
数。
行動パターン。
つい数日前、俺たちが受けた依頼と、ほとんど同じだ。
「……リナ」
「ん?」
「この依頼……」
言いかけて、やめた。
もう、関係ない。
掲示板の前で、見覚えのある顔を見つけた。
元パーティの連中だ。
「今回は楽勝だな」
「前と同じ規模だろ?」
リーダーが笑いながら言う。
「記録者がいなくなって、余計な指示もないしな」
胸が、少しだけ締め付けられた。
リナは、何も言わなかった。
ただ、俺の横に立つ。
――行くな。
そう言いたくなる自分が、嫌だった。
依頼は、昼過ぎに出発。
俺とリナは、別の仕事を受けていた。
だが、夕方になって、ギルドがざわつき始める。
「……戻ってきたらしい」
「負傷者が出たって」
嫌な予感が、確信に変わった。
ほどなくして、担架が運び込まれる。
「う……」
元パーティの前衛だ。
腕から血が流れている。
「何があった?」
職員の声。
「……予想より、来るのが早すぎた」
リーダーが、歯を食いしばる。
「挟まれた。
動きが……読めなかった」
その言葉に、胸が重くなる。
――来る順番が、違った。
俺の中で、過去のログが自然と再生される。
条件が揃った時、
あの魔獣は、必ず同時に動く。
「こんなはずじゃ……」
リーダーは、苛立ちを隠さない。
「前は、もっと楽だった」
前は。
それを言うのか。
ギルド職員が、報告をまとめる。
「被害者二名。
依頼は中断。
評価は――」
言葉が続かない。
リーダーの視線が、ふとこちらを向いた。
一瞬、目が合う。
何か言いたげだったが、すぐに逸らされた。
俺は、何も言わなかった。
言う資格は、もうない。
ギルドを出ると、空が暗くなっていた。
「……気にしてる?」
リナが聞く。
「少しだけ」
「優しいね」
「違います」
首を振る。
「……怖かったんです」
「何が?」
「俺がいないことで、
誰かが怪我をするなら……」
リナは、立ち止まった。
「それは、アンタの責任じゃない」
「でも」
「でも、じゃない」
はっきり言われて、言葉が止まる。
「アンタは、助けられる方法を知ってる。
それだけ」
「……それを使わないと、意味がない」
リナは、少しだけ笑った。
「だから、使えばいい」
その言葉が、胸に残る。
最弱職《記録者》。
評価は、まだ変わらない。
それでも――
俺がいない戦いは、
確かに、
“違っていた”。
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