第17話 記録者の判断で、戦況は変わった
配置変更の命令が出てから、戦場の空気は一変した。
「前衛、右へ展開!」
「後衛、距離を取れ!」
怒号ではない。
焦りでもない。
――判断に基づいた声だった。
俺は、岩陰に身を寄せながら魔導板を見つめていた。
過去ログ。
現在の動き。
予測線。
重なり合った線が、
一本ずつ“安全側”へずれていく。
「……止まった」
魔獣の進行が、明らかに鈍った。
包囲が、成立していない。
前衛が無理に押し返す必要もなく、
後衛は落ち着いて支援を回している。
さっきまでの混乱が、嘘のようだった。
「……効いてるな」
誰かが、呟いた。
それは歓声でも驚嘆でもなく、
事実を確認するような声だった。
俺は、何も言わない。
ただ、次を見る。
「次は……」
魔導板の予測線が、再び揺れる。
だが、さっきほどの危険色ではない。
「魔獣、散るぞ!」
指揮官の声が飛ぶ。
「追撃は最小限!
深追いするな!」
正しい判断だった。
この状況で欲張れば、
また崩れる。
前衛が踏みとどまり、
後衛が確実に削る。
――戦い方が、変わっていた。
誰も、力任せに突っ込まない。
誰も、無理をしない。
それでも、確実に前に進んでいる。
「……こういう戦場も、あるのか」
小さな声が、どこかで漏れた。
俺は、魔導板から目を離さない。
これは、偶然じゃない。
再現性のある結果だ。
魔獣の数が減り、
動きが乱れる。
それを見て、指揮官が判断を重ねる。
「ここで一段、詰める」
「後衛、角度を維持!」
俺は、頷く。
その判断は、正しい。
――でも。
次の瞬間、
予測線が、わずかに跳ねた。
「……来る」
低く、言う。
聞こえたかどうかは、分からない。
だが、指揮官は一瞬だけ、動きを止めた。
そして。
「全隊、足を止めろ!」
その命令で、
魔獣の奇襲は空振りに終わった。
ほんの数歩。
それだけの差。
だが、その差が、
誰も倒れなかった理由だった。
戦場に、短い静寂が落ちる。
「……記録者」
指揮官が、こちらを見る。
初めて、
命令でも確認でもない目だった。
「次も、頼む」
短い言葉。
それで十分だった。
俺は、答えない。
ただ、次のページを開く。
戦況は、好転している。
だが、まだ終わっていない。
魔導板の奥に、
嫌なログが、ひとつ残っていた。
――全滅まで、あと一手。
それを回避できるかどうか。
次の判断が、
本当の分かれ目になる。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
あと数話で完結になります。
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