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最弱職《記録者》の俺、戦えないけど失敗ログで戦場を支配する  作者: 神崎ユウト


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第16話 責任は、誰が取る

 戦場に、奇妙な静けさが戻っていた。


 剣を握ったまま動かない者。

 肩で息をする者。

 地面に座り込む者。


 誰もが、さっきまでの混乱を、まだ処理しきれていない。


「……状況を報告しろ」


 指揮官の声は低かった。


「前衛一隊、立て直しました」

「後衛、負傷者三名。戦闘不能一名」


 致命傷は、ない。


 それが、すべてだった。


 もし、あのまま続いていたら。

 この数字では、済まなかった。


「……」


 指揮官の視線が、俺に向く。


 周囲の視線も、自然と集まった。


 最弱職。

 権限なし。

 命令違反者。


「記録者」


 名前では呼ばれなかった。


「先ほどの指示、

 誰の命令だ?」


 分かっている。

 分かっていて、聞いている。


「……俺です」


 喉が、乾く。


「独断行動だな」


「はい」


 短く答える。


 言い訳をするつもりは、なかった。


「命令違反は、軍規違反に等しい」


 指揮官の声は、冷静だった。


 怒鳴らない。

 感情を出さない。


 それが、逆に重かった。


「処分対象だ。

 ここで拘束しても、おかしくない」


 空気が、張りつめる。


 誰かが、息を呑む音。


「……異論はあるか?」


 誰も、口を開かない。


 だが。


 誰も、俺を睨んでいなかった。


 視線は、

 戸惑いと、

 判断に迷う色を帯びている。


「俺の判断が、間違っていたなら」


 俺は、静かに言った。


「今すぐ撤退してください。

 次は、止められません」


 一瞬、場が凍る。


「……脅しか?」


「違います」


 魔導板を、差し出す。


「これは、過去の失敗ログです」


 表示される、赤い記録。


「判断が三分遅れた結果、

 前衛二名死亡」


 ページを送る。


「五分遅れた場合、

 支援隊壊滅」


 さらに送る。


「――今の配置のままだと、

 同じ結果になります」


 沈黙。


 指揮官は、しばらく画面を見つめていた。


「……これは、事後のこじつけではないのか」


「違います」


 即答だった。


「同じ条件で、

 同じ結果が出た例が、七件あります」


 数字は、嘘をつかない。


 指揮官は、深く息を吐いた。


「……部隊長」


 前衛の一人が、一歩前に出る。


「現場感覚としても、

 このままは危険です」


 続いて、別の声。


「俺も、そう思う」


 少しずつ、声が増える。


 指揮官は、目を閉じた。


 そして――


「記録者」


 俺を見る。


「お前の判断が正しかったとして」


 一拍。


「その責任を、

 お前は取れるのか」


 重い言葉だった。


 俺は、少しだけ考えてから答えた。


「……取れません」


 ざわり、と空気が揺れる。


「俺は、戦えません。

 指揮権もありません」


 正直な言葉。


「だから」


 続ける。


「判断材料を、

 全部出します」


 魔導板を、強く握る。


「どう動くかは、

 指揮官が決めてください」


 沈黙。


 長い、長い沈黙。


 やがて、指揮官は目を開いた。


「……配置を変更する」


 その一言で、空気が変わった。


「全隊、五十歩後退。

 記録者の示したルートを基準に再編成!」


 号令が、渓谷に響く。


 動き出す隊列。


 誰も、異を唱えない。


 誰も、俺を止めない。


 指揮官が、俺の前に立つ。


「処分は、後回しだ」


 低い声。


「この戦いが終わるまで、

 ――お前の記録を使う」


 それは、命令だった。


 同時に――


 選択だった。


 最弱職《記録者》。


 評価は、まだ変わらない。

 罪も、消えていない。


 それでも――


 この戦場で、

 俺の記録は、

 無視されなくなった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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