第13話 最初のズレは、小さな音だった
異変は、音から始まった。
――カン。
岩に何かが当たる、乾いた音。
前衛が渓谷内部へ進んで、まだ十分も経っていない頃だった。
「……早くないか?」
後衛の一人が、小さく呟く。
本来、魔獣が動き出すのは、
もう少し奥へ踏み込んでからのはずだ。
俺は、魔導板に視線を落とした。
時間。
距離。
反応速度。
――一致しない。
「……来るのが、早い」
独り言のように呟く。
魔導板に表示される予測線が、
過去ログよりも前倒しで交差していた。
前方で、前衛の一隊が立ち止まる。
「魔獣発見! 数、二――いや、三!」
報告が飛ぶ。
指揮官の声が、すぐに返る。
「予定通り対処しろ。
他隊は持ち場を維持!」
指示は冷静だった。
だが。
――おかしい。
俺の中で、警鐘が鳴る。
「……違う」
魔獣の動きが、速い。
それだけじゃない。
間隔が、短い。
「次が、来る……」
俺は、息を呑んだ。
――同時だ。
「前衛二隊目、注意しろ!」
声が、思わず漏れた。
一瞬、場が静まる。
「記録者、発言は控えろ!」
指揮官の声が飛ぶ。
次の瞬間だった。
岩陰から、魔獣が飛び出す。
「なっ――」
前衛二隊目が、完全に挟まれた。
「回避! 下がれ!」
混乱。
剣と爪がぶつかる音。
怒号。
「支援、前へ!」
「回復が追いつかない!」
被害は、まだ小さい。
だが。
――この展開。
過去ログの中で、
何度も見た。
「……このままだと」
次は、後衛。
そうなる。
魔導板の予測線が、
はっきりと“崩壊ルート”を描いていた。
俺は、唇を噛む。
言うな、と言われている。
でも――
「リナ」
低く、名前を呼ぶ。
「……聞いてる」
彼女は、前を見据えたまま答えた。
「来るの、早すぎる」
「分かってる」
前衛の一隊が、なんとか体勢を立て直す。
小さな怪我。
大きな損失は、まだない。
だが。
指揮官が、地図を見つめる表情が、
わずかに硬くなったのを、俺は見逃さなかった。
――ズレ始めている。
それは、
まだ誰も口にしない、
小さな違和感。
だが。
記録者だけは、
はっきりと分かっていた。
この討伐は、
予定通りには進まない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




