第12話 記録者の意見は、却下された
渓谷の入口に設けられた臨時拠点は、簡素だった。
岩陰を利用した陣地。
各隊が円状に配置され、中央で作戦会議が行われる。
地図が広げられ、指揮官が説明を始めた。
「前衛三隊は、渓谷内部へ進入。
魔獣を外へ追い出す」
指で、地図をなぞる。
「後衛は高所を確保。
支援隊は後方で回復と補助」
よく練られた、王道の布陣。
だが――
「……すみません」
気づけば、俺は、口を開いていた。
場の視線が、一斉に集まる。
「記録者?」
指揮官が、わずかに眉をひそめる。
「何か?」
喉が、ひりつく。
それでも、言葉を選びながら続けた。
「過去の記録と照合すると、
この時間帯、魔獣の動きが早まる傾向があります」
「根拠は?」
「気温と風向き、
それから魔力濃度です」
魔導板を示す。
「前回失敗した依頼と、
条件が似ている部分が多い」
ざわり、と小さく空気が動く。
だが。
「参考にはする」
指揮官は、即座に切った。
「しかし、作戦は変更しない」
胸が、少しだけ沈む。
「理由を聞いても?」
リナが、代わりに聞く。
指揮官は、静かに答えた。
「前例がない。
そして、これは大規模討伐だ」
俺を見る。
「一個人の予測で、
全体を動かすわけにはいかない」
正論だった。
誰も、反論しない。
「記録者」
指揮官が、はっきり言う。
「お前は、
記録に専念しろ」
それで、終わりだった。
会議は解散。
各隊が持ち場に散っていく。
俺は、立ち尽くしていた。
「……すみません」
リナに、小さく言う。
「謝るな」
彼女は、短く言った。
「言うべきことは、言った」
それでも――
胸の奥に、重たいものが残る。
――もし、外れたら。
いや。
――もし、当たったら。
どちらに転んでも、
今の俺には、何も出来ない。
渓谷の奥から、
低い唸り声が響いた。
魔獣の気配。
隊列が、動く。
予定通り、
作戦通りに。
俺は、魔導板を握りしめた。
――違う。
何かが、
確実に、
ズレている。
だが――
ここでは、
記録者の声は、
まだ、届かない。
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