第10話 記録者を、連れてこい
その呼び出しは、突然だった。
「アオイ――いや、コウイチだったな」
ギルドの中でも、普段は姿を見せない人物が、俺の前に立っていた。
上位幹部。
それだけで、周囲の空気が変わる。
「少し、時間をもらえるか」
ざわり、と視線が集まる。
記録者が、
幹部に呼ばれる。
それだけで、異常だった。
「……はい」
会議室に通されると、そこには数名のギルド関係者が集まっていた。
壁には、あの渓谷の地図が貼られている。
「座ってくれ」
促され、椅子に腰を下ろす。
心臓の音が、やけに大きい。
「状況は、把握しているな?」
「……失敗が続いている件、ですね」
「そうだ」
幹部は、資料を机に置く。
「同条件の依頼で、
成功率が極端に下がっている」
紙をめくる。
「だが、例外がある」
俺たちの成功報告。
その一枚だけが、
まるで異物のように混ざっていた。
「なぜだと思う?」
問いかけ。
俺は、少し考えてから答えた。
「……記録を使ったからです」
幹部は、頷いた。
「その“記録”を、
もう一度、詳しく説明してもらいたい」
魔導板を起動する。
過去のログ。
失敗例。
条件一致率。
淡々と説明するうちに、
部屋の空気が変わっていくのを感じた。
「……成功だけでなく、
失敗を前提に組んでいる、か」
「はい。
失敗しない戦い方は、
失敗を知らなければ組めません」
沈黙。
やがて、幹部の一人が口を開く。
「……危険だな」
一瞬、身構える。
「だが」
続く言葉は、予想外だった。
「今の状況では、
無視できない」
視線が、俺に集まる。
「記録者」
はっきりと呼ばれる。
「次の大規模討伐に、
同行してもらう」
息を呑む。
「もちろん、
評価やランクは変わらない」
現実的な言葉。
「だが――」
一拍。
「お前の記録が必要だ」
胸の奥で、何かが音を立てて動いた。
「拒否は、しないか?」
俺は、少しだけ迷ってから答えた。
「……やります」
即答ではなかった。
でも、逃げる選択肢はなかった。
「よろしい」
幹部は、立ち上がる。
「準備が整い次第、呼ぶ。
――記録者を、連れてこい」
その言葉は、
命令だった。
同時に――
宣言だった。
会議室を出ると、リナが待っていた。
「顔、見られてたよ」
「……そうですね」
「怖い?」
少し考える。
「正直、はい」
「でも、行くんでしょ」
「はい」
リナは、満足そうに笑った。
「じゃあ、準備しよ」
ギルドのロビーを歩く。
すれ違う冒険者たちの視線が、
今までと違う。
好奇。
警戒。
そして――期待。
最弱職《記録者》。
評価は、まだ変わらない。
ランクも、Eのまま。
それでも――
俺は、
“呼ばれる側”になった。
この記録が、
どこまで届くのか。
それは、
次の戦場で証明される。
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