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第097話 急な訪問

 校庭へと到着した頃には、全員が整列したあとであった。


「ヤバい……」


 ゆっくりと歩きすぎたみたいだ。

 俺たちは急いで列の先頭へと並ぶ。階級を考慮しない騎士学校ではあったけれど、こういった整列において俺たちは最前列に並ぶものだからだ。


「全員揃ったようだな。それでは始めよう」


 壇上にはグレン校長の姿。入学式以来見ていない人が壇上に立っている。


 まあ、何かしらの報告だろうな。帝都が陥落して一週間。その続報ではないかと思う。


 このあと俺は急な集会の意味について知らされている。カリキュラムを強制的に変更させる強い力が働いていたことを。


「アークライト殿下、どうぞ……」


 グレン校長に促されて、壇上へと上がったのは我が兄アークライトだった。


(ちょっと待て。あいつはスノール前線基地にいるはずじゃ……?)


 サンクティア侯爵領スノールには大規模な基地があった。アークライトはスノール前線基地にて西部エリアの指揮を執っていたはずだ。


「あー候補生諸君、訓練ご苦労。私が西部司令官のアークライトだ。今日は報告と通達があって足を運んでいる」


 偉そうなのは変わらないな。かといって、俺の記憶はシリウスのものだ。実際に俺はそれらを経験していないが、思い出すのも反吐が出る記憶に他ならない。


「バリウス帝国の都が陥落して一週間。寄せられる続報は色好いものではない。魔族の侵攻速度は考えているよりも速く、もう既に帝国全土を掌握したといっても間違いではないようだ」


 アークライトが告げたのは北に陣取るバリウス帝国の惨状だった。


 細長いその国土は魔国の侵略からシルヴェスタ王国とイステリア皇国を守っていたのだが、崩壊は時間の問題らしい。


「双国軍は大戦に向けて準備してきた。しかし、戦力が足りない。魔国の戦力を考えるなら、今以上に軍備を進める必要があるのだ」


 一応はまともな話をしているが、油断はできない。

 アークライトは常に自分本位であり、他者のために行動するような男ではないからだ。


「君たちが戦場に向かうときは近い。心して毎日を過ごすように」


 校庭が一瞬にしてざわめき立つ。

 なぜなら俺たちは候補生であり、一年間は学生であることが決まっている。加えて、双国以外の面々も騎士学校には通っているのだ。勝手に配備を決めていいはずもなかった。


「それで私は緊急的な兵の補充に王都クリステラへと戻り、そこで指揮を執ることになった。本日はその挨拶も兼ねて来させてもらっている」


 やはりシエラが話していた通りだ。

 アークライトはどうあっても運命の通りに生き残るつもりらしい。候補生を前線に送り込み、自身は王都で生活することによって。


「やっぱクソだな……」


 今更ながらに殺せと命じたシエラの話が正しいと思う。アークライトは異分子であり、存在する価値はないのだと。


「殿下、問題は起こさないでくださいよ?」


 俺の呟きにリィナが反応する。

 リィナとて分かっているはずなのに、俺を制止するように彼女は語るのだ。


「兄上次第だ。一度も戦っていないくせに敵前逃亡とか反吐が出る……」


「でも、しょうがないじゃないですか? 第一王子殿下ですし」


「俺なら逃げない。俺なら最後まで戦う」


 強気な俺の話にリィナは黙り込んだ。

 確実に批判であったけれど、彼女にもアークライトの行動がどういったものであるのか分かったはず。


「こんな茶番の報告とかで来るなよ。どれだけ正当化したいんだ」


 苛立ちしか覚えなかった。こんな今もアークライトは前線から離れることについて、色々と理由を並べていたんだ。


「前線を離れること。私も心苦しく感じている。しかし、今すべきことを考えると、それは正しい選択に違いない」


 馬鹿らしい話だ。今すべきことが徴兵とか信じられん。バリウス帝国が滅びる間近になって動き出すとかさ。


「決戦の日は近い。だが、私は責務を全うするため、前線を離れなくてはならない。つまるところ、その代案を用意している」


 意外なことにアークライトが逃げることは、計画があってのことらしい。


 睨むように見ていた俺は唖然とさせられてしまう。兄上が立てたという代案とやらに。


「ルカ・シエラ・シルヴェスタに前線基地を任せる予定だ」


 言葉がなかった。騎士学校に入ってまだ十日と経っていない。だというのに、アークライトは俺にスノール前線基地を任せると口にしたのだ。


「兄上、俺はまだ入学したばかりですよ!?」


 流石に声を荒らげてしまう。

 俺だって前線で戦う意志があったけれど、それは他の英雄たちも一緒であることが前提だ。確実に攻め滅ぼされる地へ一人で向かうなんて想定はしていない。


 思わず意見した俺にアークライトは邪悪な笑みを見せた。更には言い逃れ無用の話を続ける。


 まるで俺が後に引けないことを分かっているかのように。


「ルカ、貴様は全軍司令官になりたかったのだろう?――」

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