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第096話 フィオナの想い

 一週間が過ぎていた。

 相変わらず、授業は基礎ばかりであって俺は退屈している。


 ゲームで何度も繰り返した経験があるものだから、新しい発見なんて一つとしてなかったんだ。


「ルカ様の魔法威力は凄いですね?」


 移動の道すがら、フィオナが俺に言った。


 次の授業はどうしてか予定が変更となり、校庭に集まるように聞いている。魔法科である俺たちは基本的に魔道殿から出ることなどなかったというのに。


「いやいや、俺はジョブに依存してるだけだし。フィオナの素質が開花したら、足下にも及ばないよ」


「じゃあ、わたくしがルカ様を超えましたらご褒美をいただきとうございます」


 何だかよく分からんな。皇女殿下であるフィオナが欲しがるものって何だ?


「ご褒美?」


「ええ、ご褒美がないと頑張れませんの。そのときには是非とも……」


 満面の笑みを浮かべるフィオナは何が欲しいと言うのだろうな。


「一夜を共にしてくださいまし」


「えええっ!?」


 いや、貴方は清純派ヒロインですよね?

 しかも皇女殿下でしたよね?

 なぜにそのような破廉恥な台詞を口にするのですか?


「フィオナ、俺たちは元婚約者だぞ? しかも非常に短い期間の……」


「そんなこと関係ございません。わたくしはリィナが羨ましいのです。よき友人であり、ライバル。わたくしも操を捧げることに決めたのですわ」


 決めたのですわじゃねぇよ。俺の意見も取り入れろ。絶対に間違ってるから。


「リィナとフィオナでは状況が異なる。急がなきゃいけない理由はないはずだ」


「急ぐ理由があれば問題ないのですね?」


 揚げ足を取るなっての。それに急ぐ理由なんかフィオナにはないと思う。


「わたくしには婚約破棄という経歴がございますの。気にされる殿方も多いと聞きます。完全に嫁ぎ遅れが確定しているのですわ。どなたか存じ上げませんが、破棄されてしまったのです」


「いや、一方的に破棄されたのは俺だぞ? 原因は俺の要求だけどさ……」


「原因ですよね?」


 ちくしょう。見た目に反して口が達者だ。

 確かに俺の責任だが、フィオナの見た目で嫁ぎ遅れるなんてあり得ないって。


「その顔と胸なら引く手数多だろうが? 誰だって気に入るよ」


 俺は正直な感想を口にしただけだ。しかも皮肉的に言ったつもり。けれども、俺は予期せぬ返答をもらっている。自らの台詞で身動きできなくなるくらいに。


「ならば、もらってくださいまし」


 どこまでも俺を求めているのか。分かっていたけど、俺は分かっていなかったんだな。


 勢いに流されて口づけしたこと。それは軽い気持ちだったと思う。後々まで考えた末の行動ではなかった。


「行き遅れたならな? そのときには責任を取ってやる」


 今はこれで勘弁してくれ。

 単純な恋愛ゲームであれば、気軽に返答できただろう。だが、現実は人類の危機にあり、一発勝負の現実世界において俺は勇者を任されているのだから。


「それはまた随分と待たせてくれますのね?」


「婚約破棄した皇王陛下を恨んでくれ……」


「それはもう鬼の化身かというくらいに文句は言ってありますの。だからこそ、わたくしは騎士学校に入学できました。ある程度の自由をあの一件で手に入れておりますわ」


 なるほど。妙に積極的なのは、もう皇王様が文句を言いにくくなっているからか。


「自分の未来は自分で決めたいってか?」


「いえ、そうじゃありませんの……」


 んん? 違うのか?

 リィナと違って、フィオナの思考は難解すぎる。俺のような単純な人間には理解できないのかもしれない。


 ところが、俺は知らされていた。彼女の信念とも呼ぶべき答えを。


「貴方様と夫婦になる未来以外を受け入れるつもりがないからです。もう既に選択肢ではございませんの」


 揺るぎない意志が俺を捉えて離さない。真っ直ぐに見つめる目は俺の心まで見透かしているかのよう。


 愛の行方は決まっているらしい。行き遅れ必至の未来を彼女は選んでしまった。


「そっか。決めたことなら仕方ないな……」


 悩んだ末、俺は折れることにした。

 キスしたのは事実だし、彼女から逃げるのは格好悪いと思う。今はそう口にして、とりあえずの結論としておこうか。


 フィオナは大きな笑みを浮かべている。

 俺の台詞を受けて、彼女は得意げに返したんだ。満面の笑みを崩すことなく、俺の言葉を引用しつつ。


 仕方ないのですよ――と。

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