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第095話 放課後の鍛錬

 私とクラリスは武道会館へと来ています。

 本来なら、ここで剣術の稽古をするはずだったのですが、授業ではまだ一度も使用していません。


 今は二人してコーネル殿下の到着を待っているところです。


「リィナ、ご機嫌ですね? 良いことでもありました?」


 あれ? 顔に出てた?

 フィオナ殿下とルカ様争奪戦があったところでしたが、私は今日も夜に会う約束をしていたのです。自然と顔がほころんでいたのかもしれません。


「クラリス、恋は盲目なのよ……」


 ニヘラ顔は情けないですけど、仕方ありません。だって昨晩は激しすぎたんだもの。


 婆や曰く、お預けされた男性は魔物よりも凶暴になる。まさに教えられたままだったのです。あんなにも激しく求められるだなんて、女冥利に尽きるってものよ。


「リィナは、やはりルカ殿下と?」


「ええ、まあ。騎士であり、愛人なのよ。実は今日も求められちゃって困るわぁ。えへへへ……」


 自慢げに語っちゃいます。

 ルカ様はどこに出しても恥ずかしくない男性だもの。愛人だとしても胸を張れるってものよ。


「いいなぁ。正真正銘の王子様ですし、とにかく凛々しいお方ですもの……」


「そうなの! 横顔が凛々しくて大好き!」


「そりゃあ、ニヤけちゃいますよねぇ?」


「あははは! そうなの! あはははは!」


 ヤバいわ。

 別に決まった人がいる事実を自慢したいわけじゃなかったのに、滅茶苦茶に優越感がある。私って嫌な女だと思われてないかな?


「だけど、フィオナ殿下とも噂になってるよね?」


 ここで胸に鉄柱が刺さったかのような気分になる。


 うう、それよそれ。思いのほかフィオナ殿下が本気なのよ。キスまでしたっていうし、気を付けておかなきゃ愛人筆頭の座を奪われてしまいそう。


「ルカ様はモテるから仕方ないのだけど、やはり独占したいわ……」


「あれだけの美貌と強さを兼ね備えてますし、何より大国の王子様。モテないわけがないですよねぇ」


「不安になること言わないでよ? 私で良いのかと悩んだこともあるんだし」


 はっきり言って全人類の中でルカ様は最高の男性です。


 そんな彼が私だけを愛してくれるなんて都合の良い話だと思います。恐らく私の幸運がそうさせているのだと感じますが、いつまで独り占めできるのか分かりません。


「結婚はしないのです?」


 再び胸を鉄柱が貫く。

 それは聞かないで欲しかったな。そもそも私にはその資格がないから婚約破棄となっている。生き続けられない私は刹那的な瞬間に愛されるしかないの。


「私の病気は治らないからね。魔力循環不全で長くないのよ……」


「ええ? 健康そのものじゃないですか!?」


「最近はフィオナ殿下の魔法が効いて、発作はでていないけどさ。もう私の身体は限界に近い。だから求められたのなら応えたい。私は愛されたいの……」


 それは私の本心だ。

 欲を言えば、年老いて天命を全うするまで隣にいたい。


 だけど、それは叶わない。現状では、私が死ぬか殿下が身代わりとなる未来しかない。

 だったら、私は自分の死を選ぶ。


 彼がいない世界は真っ暗なんだもの。光が射し込まない暗黒の未来を手に入れようとは思えない。


「わたしも良い人ができたらいいなぁ……」


「大丈夫よ。応援するわ。相手がルカ様以外ならね?」


「それは無理ですって!」


 私たちは大笑いしています。ここに来た目的すら忘れるほどに。


「えっと、構わないかな? 遅れてごめん……」


 わわ!? 何てことでしょう。

 私たちは皇子様をそっちのけで盛り上がっていました。そもそも集まった理由はコーネル殿下の剣術指南であったというのに。


「殿下、いつからそこに……?」


「うん、愛人というくだりから……」


 あっちゃあぁ、やってしまいました。

 別に関係を秘密にはしていないのですけど、騎士学校は男女交際が禁じられているのですから。


「あの……できればご内密に……」


「ああ、大丈夫だよ。みんな知ってることだし、何よりルカ君はシルヴェスタ王国の王子様だからね。文句を口にできるような人がいるとは思えない」


 まあそうかも。

 ルカ様に対抗できる唯一の存在が愛人希望者だもの。誰も止められはしないわね。


「とにかく、よろしく頼むよ。僕は強くなりたいんだ」


「失礼ですけど、どうして殿下は上級学校に入ることなく、騎士学校へ来られたのでしょう? 殆どが十八歳になってからですよね?」


 鍛錬を始める前に私は疑問の解消を図る。


 肩書きとして騎士学校卒業は大きな役目を果たしますけれど、貴族間の交流を深める上級学校に入らなかった理由が分からない。騎士学校は十八歳からでも遅くなかったというのに。


「それは父上の意向だった。今思えば、魔国との大戦が激化すると分かっていたのだと思う。きっと僕は逃がされたんだ……」


 なるほどね。

 確かに一族が虐殺に遭うよりも、誰かが生き残れば再興を果たせる。結果的に皇帝陛下の考えは正しかったのかもしれない。


「僕は魔国と戦う。そのために今を努力するしかない。双国軍への入軍許可を得て、魔国に復讐しようと考えている」


 立派な人だと思う。今ならルカ様が手を貸した理由も分かった。

 コーネル殿下は肩書き欲しさで入学したのではない。戦う意志を持ってここにいるのだ。であれば、私は彼が戦えるようになるまで手を貸すだけだわ。


「承知しました。それでは鍛錬を始めましょう。まずは素振りから……」


 私が教えられることは基礎までだ。

 そのあと強くなれるかは本人次第。剣士という下級ジョブではありますが、素質がないというわけでもないのですから。


 このあと夕食の時間までみっちりと訓練できました。


 久しぶりに愛剣を振ったからか、私もストレス解消になったみたいです。

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