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第093話 落ち込む君に

 翌日、俺は気分爽快に目覚めていた。

 その理由は判然としている。この晴れやかさは、やはり昨晩スッキリとした影響なのだろう。


「リィナ様々だな……」


 背伸びをしてから着替えを始める。今日は午前中が実技であり、午後は講義が予定されていた。


「ルカ君、おはよう。何だかご機嫌だね?」


 コーネルが起きてきた。どうやら俺のスッキリ具合が伝わってしまったらしい。


「まあな。コーネルは眠そうだな?」


「あまり寝付けなくてね。色々と心配事が多くてさ……」


 そういや、コーネルが死ねば、俺は命を狙われる可能性があった。

 フィン次第ではあったものの、できればコーネルには長生きしてもらわなきゃいけない。


「コーネル、お前のジョブは何だ?」


 俺はここでコーネルのジョブについて聞く。

 自身が使徒であることも知らぬ彼はろくなジョブを授かっていないはずだ。


「え? 僕のジョブは剣士だけど?」


 その返答には思わず溜め息が漏れてしまう。


 本当に悠久の女神ニルス様は何を考えているのか。

 俺のことは死んだ後で好きにしたら良いというのに、彼女は良からぬ動きばかりしている。使命を与えるべき使徒に汎用ジョブしか与えないだなんて。


「そうか。まあ、剣術科なのも頷けるな」


 仮にも皇族だからな。剣士であったのは最低限だろう。農夫やら漁師だったとしたら、目も当てられないところだった。


「ねぇ、ルカ君。君って勇者みたいだけど、僕に剣術を教えてくれないかな?」


 ここで妙な話になる。俺が魔法科であるのはコーネルも知っていたというのに。


「俺は魔法科だぞ? それに剣術はほぼ我流の力任せだからな……」


 幼い頃から魔物狩りに参加していたけれど、まともな先生に習った経験がない。改変されたシリウスの記憶にある剣術稽古くらいなものだ。


「僕は強くなりたいんだ。恥ずかしい話だけど、今さらに愛国心が芽生えてきてしまった」


 帝都が陥落したことについて、コーネルは責任を感じているのかもしれない。自分が優秀な剣士であったとして、軍隊に対抗するなんて無意味だというのに。


「それならリィナに習ってみろよ? 彼女はちゃんとした先生に剣術を習っているし、腕前も大会で優勝するほどだ。俺よりきっと力になれるよ」


 俺だってコーネルが強くなって欲しい。彼が長生きしてくれたのなら、命を狙われる危険性が減るのだからな。


「いや、リィナさんに……?」


 ここで顔を赤らめるコーネル。


 おい、その表情はやめろ。リィナは俺の最愛の人なんだ。剣術は習っても、夜の剣技についてまで学ぶんじゃないぞ?


「恥ずかしがってたんじゃ強くなれねぇよ。理由を話せば力になってくれる。彼女はそういう人だ……」


「そうだね。声をかけてみるよ。ルカ君に申し訳ないけれど」


「気にすんな。俺の名前を出してくれ。その方が話が早い」


 俺の名前を出せば、恐らくリィナは二つ返事で了承してくれるだろう。コーネルを強化したいという俺の願いも叶うことだし、悪くない展開だな。


(そういや、コーネルはあと二年以内に死ぬ運命だったな……)


 コーネルは俺が死ぬまでの繋ぎだったらしい。よって彼の運命は十七歳までに途切れているはず。

 ただアークライトとは違って、確実に改変の影響を受けているだろう。それにより寿命が延びたのか縮んだのか分からないけれど。


「コーネル、体調とかどうだ?」


「眠いだけだよ。やる気は充填されたけどね」


 今すぐに倒れるなんてことはなさそうだな。まあでも、病気とは限らないか。突発的な事故や、魔物被害だって考えられるし。


「持病とか大きな怪我をした経験はある?」


「ないない! 小国だけど、僕も一応は皇子なんだ。軽い病気でも安静にしなきゃいけなかったし、怪我をするような真似はさせてもらえなかった」


 割と過保護に育っているみたいだ。第三皇子であったとして、帝国はコーネルに価値を見出していたのかもしれない。


「じゃあ、どうして騎士学校に? 帝国にも皇家の務めを全うできる場所くらいあっただろ?」


「やはり外の世界を見ておきたかった。今となっては正解なのかどうか分からないね。あと剣士のジョブを得たこと。それも留学に前向きになれた一因だよ」


 やっぱ剣士でも当たりだよな。元父上も剣士くらい引き当てて欲しいと考えていただろうし。


「コーネル、強くなってくれ。心も身体も、技術さえも。君の境遇は悲運としか言いようがないけれど、俺はそれを望んでいる。逆境を力に変え、君が奮い立ってくれることを」


 女神の都合により生み出された力なき使徒。それは死を前提として選ばれた俺と同じだ。


 彼に生きて欲しい理由は他にもあったけど、俺はコーネルの境遇に同情し、彼を応援したくなっていた。


「君は大国の王子なのに、いい奴だね? 僕はルームメイトに恵まれているよ」


「ま、兄上はコーネルのイメージ通りだけどな……」


 冗談で返す。コーネルが笑顔を戻せるようにと。


「でも俺はいい奴だぜ?」

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