第091話 難題
「二年後までリィナは生きていないじゃないか……?」
アークライトの存在は俺が十七歳でディヴィニタス・アルマを唱える世界線に戻そうとするらしい。その結果はリィナを見殺しにする世界線だった。
「分かったでしょ? アレは残しておくと、ろくな影響を与えない。そもそも私たちは祝福の儀まで世界の改変なんて考えもしていません。アークライトが及ぼす悪影響など計算していませんでしたの」
まあ、そうだろうな。
祝福の儀で俺は死を予告されていた。どうしてかシエラが魅入ってしまい、全てが瓦解したのだ。女神たちが世界の安寧を願って創り上げたその世界は、今や前世界線である。
「今のままではルカは雌ネコちゃんを救えなくなるわ。ルカは十七歳まで生きてしまうからね。もし仮に雌ネコちゃんが死の淵にあったとして、貴方はその場にいない。運命の導きによって、ルカはあの娘の死に際に立ち会えなくなるでしょう」
「いや、アークライトはそのうちに死ぬだろう? もう帝都が陥落しているんだし、あいつは前線基地にいる」
「アレは輪廻する魂ではないと言ったでしょう? 女神が創り上げた偽物の運命は世界の改変を最小限しか受けておりませんの。アレは十八歳にて戦死と予め定められております。それが現在から数えて何年後なのか分かるでしょう?」
現状のアークライトは十六歳だ。つまり、あと二年も死なないらしい。
つまるところ、俺もまた二年生きることになり、リィナの死に目に立ち会えないという。
改変の影響でリィナは寿命が短くなったというのに、アークライトだけは定められた運命を全うするとか納得できない。
「嘘だろ? あと二年もアークライトは生きる運命なのか?」
「第一王子ですわよ? 戦場から逃げ出すなんて簡単な事ですの。運命の日が来るまでアレは生き続けるでしょう」
何てことだ。それじゃあ遅すぎる。
アークライトが生きている限り、俺が司令官になるのは難しい。また、そうなると魔国の侵略に対抗できなくなってしまう。
「どうやって殺す……?」
俺は意見を変えていた。
勝手に失われないのであれば、シエラの考えに乗るだけだ。
リィナを救えなくなるというのなら。加えて世界が滅びるというのならば。
「フィンを利用しましょう」
ここで再びフィンの名が告げられている。どうあっても、彼の力が必要みたいだな。
「【過去と未来の狭間】を使うのか?」
「知っているのね? あのスキルは強力ですわ。暗殺には持ってこいですの」
「いや、悠久の女神ニルスは本当にフィンを見失っているのか? 逆に俺が暗殺されるかもしれないぞ?」
「問題ないですわ。仮に見つけていたとしても、まだルカは殺されない。なぜならコーネルが先に死なないと、あの子は次なる使徒を選べませんからね」
ああ、なるほど。
俺の死を待ち遠しく思っても、ニルス様は俺を殺せないんだな。
コーネルがこの先も生き続けてくれたのなら、俺は生かされるというわけか。
「アークライトは余計な歯車ですの。アレが動いている限り、世界は捨てられた運命を巻き戻そうとする。あの歯車を除去し、現状の世界線を確立せねばなりませんわ」
「まあ、分かった。てか、ミリアはもう選択肢に入らないよな? そうなると俺は魔力循環不全を治せないのか?」
回り回ってフィンを最優先事項とするならば、ミリアの運命を奪うのは後回しとなる。
「ミリアの運命を奪うのは早くてもアークライトを殺めたあとになるか?」
「そうなりますわね。ルカが王子殿下として確立した存在になれば、改変は最小限に抑えられるでしょう」
複雑そうな気がしたけれど、最初から実行する順番は決まっていたらしい。
いきなりアークライトを殺せというものだから、ややこしく感じただけみたいだ。
「フィンの情報を集めておけ。ニルス様を縛り上げてでも……」
「あらまあ、物騒になりましたわね? 確かに、あの駄女神のせいで随分とややこしくなりましたわ。充分な罰を与えておきましょう。青き君の名において……」
「やめろって。罰を与えるならシエラの名の下に行えっての。俺を巻き込むんじゃねぇよ」
女神同士の関係については不明だけど、会うことはあるみたいだし、ニルス様のことはシエラに一任しておこうか。
「ルカ、世界は貴方を中心に廻っております。私は貴方の行動を全て容認するつもりですけれど、優先順位を考えてもらえたら幸いですの」
分かってるさ。
お前だって女神だもんな。守護する世界が崩壊するなんて受け入れられないことだろう。
「でもさ、やること多過ぎじゃね?」
「終末に相応しいエンタテインメントですの。楽しくなってきましたわね? 悲運の青を輝かせながら、ルカが使命を全うする。なんて素敵な世界なんでしょう」
俺としては荷が重いけれど、現状の世界状況は俺に責任がある。
改変を引き起こした元凶である俺は正しき道へと世界を導いていかねばならない。
シエラの身体が薄く消えていく。
もう話すことはなくなったのだろうな。
儚く消失する彼女を俺は眺めている。
願わくば俺も、こんな風に安らかな最後を迎えられることを願って……。




