第089話 残骸
「フィンこそが時空術士ですの」
先ほどから難解すぎて、俺の頭はパンクしそうだ。
使徒はコーネルであるけれど、時空術士はフィンなのだという。
「それって可能なのか? 使徒以外に固有ジョブだなんて……」
「神力次第ですわね。あと固有スキルは使用者を選ぶのですわ。コーネルは白の使徒として最低限。授かったとして固有スキルの適性はありません。つまり使徒に与えるべき神力を余らせたニルスは駒として使うフィンに全てを注いだみたいですの」
確かにディヴィニタス・アルマは俺にしか使えないと聞いている。
フィンならば異世界線にてニルス様の使徒をしているし、彼ならば時空術士を使いこなせるはずだ。
「駄女神が付随することなく、固有ジョブを奪うチャンスですの。私はフィンを捜し出すべきだと考えますわ」
駄女神はお前だと言いたいところだが、確かに時空術士のスキルは他を圧倒する。
魔王の時間をも操れるスキル。あるのとないのでは難易度がまるで変わってしまうはずだ。
「でも、お前が介入できるのは三ヶ月後なんだろ?」
「いえ、三ヶ月後にはもう一人分くらいは貯まるだろうという話ですの。雌ネコともう一人介入できるという話ですわ」
「三人分だとどれくらいかかる?」
「大凡、一年後かと存じますの」
一年待てば三人分。しかし、それは遅すぎた。
リィナは一年持たないことが確定している。ならば、俺はミリアかフィンのどちらかを選ばねばならなかった。
「フィンの居場所は分かるか?」
「女神とて万能じゃありません。紐付けされていない人間の行動まで把握できませんの。まあでも、あの男の行方は既にニルスでさえも追い切れていないことでしょう」
固有スキルを授けたニルス様でも分からないだって?
そんな馬鹿な話があるってのかよ?
「どうして追い切れていない?」
「考えてもみなさい。フィンがルカの身分証を奪った世界線から現在は大きく様変わりしております。加えて、世界線が切り替わる前にフィンは犯罪者となったのです。改変を受けた世界線において、フィンがどう変化したのか。恐らく犯罪者というキーは引き継がれ、フィンは過剰な改変を受けているはず。大規模な改変によって、ニルスは彼を見失ったはずですの」
それも俺のせいか。
フィンは犯罪者として扱われ、世界はニルス様が見失うほどの変化を彼に与えてしまったらしい。
「絶対に犯罪行為は引き継がれている?」
「世界の改変は貴方が中心ですのよ? ルカの身分証を利用し、シルヴェスタ王からお金を騙し取った。改変前、フィンは指名手配犯だったのです。貴方と関わりのある犯罪を犯した事実は確実に引き継ぎ案件ですの」
貴族から犯罪者に。世界がどう対処したのか女神には分からないらしい。使徒として紐付けされていないフィンはどこで何をしているのかも不明とのことだ。
「じゃあ、捜すことから始めろってか?」
「流石に王国か皇国のどちらかにいますわ。世界の改変とて、大きく場所を変えることはないと思いますの」
俺とシリウスの出会いも、サンクティア侯爵領となっていた。
最終的にいた場所から、そう遠くない場所に飛ばされた可能性はあるってことか。
「おい、ひょっとして時空術士を奪おうとしたら、俺は犯罪者になるんじゃないのか?」
「ですわね。私の介入がなければ、指名手配犯になる可能性は高いかと考えますわ」
「それじゃあ、一択じゃないか?」
犯罪者になると、流石に動きづらい。
てか、拘束されてしまえば、世界の救済どころじゃなくなる。従って、その選択はあるようでないようなものだ。
フィンの時空術士を手に入れるのならば、三ヶ月後の介入は必然とフィンに使用するしかなかった。
「現状ではどちらにもデメリットがございます。まあですが、貴方が世界にとってどれだけ重要な王子様であるのかが鍵ですの。取るに足りない王子様であれば、女性にもなってしまうし、犯罪者にもなるでしょう」
「いや、世界が重要だと認めたら、変わらないこともあるのか?」
「可能性はあります。掛け替えのない王子として認められたのなら、如何なる要素を盛り込まれようとベースは王子であると考えます。しかし、現状では駄目ですわね」
希望を見出したところで俺はダメ出しを喰らう。
俺だって分かってるけど、期待くらいさせろっての。
「ルカ、誤解していません?」
俺の表情から読み取ったのか、シエラは俺が間違った解釈をしたと考えているらしい。
「誤解って、そのままの意味だろうがよ?」
俺はまるで分かっていなかった。
シエラが言った駄目な理由。それは俺の素養について、少しも関係していなかったんだ。
「だからアークライトを殺せと……」
いや、確かに聞いたけど、ここに繋がんの?
俺が王子でいられる理由は第一王子が顕在かどうかってことだけかよ?
「アークライトが失われたら、俺は王子でいられる?」
「可能性はグンと高くなります。何らかのデメリットは生じるかもですが、立場は維持されるかと。現状でもルカの名は民衆にも好意的に知れ渡っておりますし、障害はアークライトに他ならないのですわ」
分かったけど、難しい話だな。
恐らくアークライトの運命は俺が変えてしまったはず。彼を討つべき魔将軍マステルを俺が倒してしまったから。
「兄殺しは請け負えない。だけど、お前も分かっているんだろ? アークライトが生きていたとして影響は最小限だと……」
シエラは何も返さない。
まあでも、俺は察している。沈黙は同意なのだと。ところが、俺の予想に反してシエラは首を振っていた。
「どうしてアークライトを殺せと言うんだ?」
俺は問いを重ねている。
俺が間違っているのなら知りたい。アークライトの殺害に何らかの意図があるというのなら。
ため息を吐いたあと、シエラは告げる。
知っているようで知らない話。懐かしくも感じるその理由を。
「アレは三柱協定の残骸だもの……」




