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第085話 予期せぬこと

「あと三年で人類が滅ぶくらいですかね?」


 メル教官は固まっている。

 あと三年で王国が滅ぶならまだしも、俺は人類と言ったのだ。


 大陸の南側にはまだ国が乱立していたというのに、その全てがたった三年で消え失せるという未来。流石に信じられなかったことだろう。


「君は本気でそう思っているのか?」


「いや、女神様に聞いたのです。あと三年で人類は滅ぶと……」


 俺が使徒なのは皆が知っていること。加えて原初の三女神全員が俺の主神であることも。


「やはりそうか。軍は此度の帝都陥落を重く受け止めている。ひょっとして我々は魔国の進軍を止められないのではないかと……」


 どうやら双国軍にも思慮深い人間がいるようだ。

 とりま、それは朗報だな。他国の侵攻を自国と置き換えて考えられるなんて。


「だったら上層部に掛け合うべきです。使える者を使う。ただそれだけのことで戦況を覆すことが可能です」


 一端の教官には荷が重い話だろう。

 基本的に教官連中は下位貴族が中心。上位貴族の面々は肩書きだけを得て、戦場とは無関係な場所にいるのだから。


「私が上申したところで変わらないかもしれない。けれど、必ず報告書を上げよう。類い希な力を持つ戦闘員をいち早く現場に配置するように」


「そうしてください。俺はいつでも最前線に張り付きます。ただし、条件がある。俺は全権を与えられたい。軍を動かす力が欲しいのであって、使われる立場を望んでいません」


 せっかく戦場へ辿り着いたとしても、無謀な作戦に使われたのでは堪ったものじゃない。だからこそ、俺が戦場へ赴くときには全権を与えてもらう。


「君の言い分は理解する。マシな上官さえいたのなら、バリウス帝国も首都陥落という状況は避けられたのかもしれない。期待せずに待っていてくれ」


 ここで俺は解放された。

 メル教官にはまだ話があっただろうけれど、意図せず受け取った宿題が処理能力を超えていたのだろう。更なる難題を与えられる前に解放しようとしたはずだ。


 俺としては言いたいことを伝えられた。

 世界を救うこと。必要最低限を口にできたと思っている。



 ◇ ◇ ◇



 メル教官と話をしていた俺は能力値測定の部屋へと急いでいた。


「ゲームのまんまだよな?」


 序盤は無理をして失敗することが多々あるので、初日のイベントについては良く覚えている。確か能力値の測定は通路を左に曲がった突き当たりだったはず。


「失礼します……」


 部屋に入ると更衣室へと向かう。全身に魔道具を装着して測定するので、用意された薄手のガウンを着ることになるのだ。


 流石にもう全員が着替え終えたみたいだ。さりとて俺の他に男子は二人しかいないのだけど。


 制服を脱ぎ、着替えのガウンを取り出したところ、


「ルカ殿下!?」


 俺は声をかけられていた。しかも、どうしてか女性の声。それもよく知る声だった。


「フィオナ!?」


「お静かに!」


 俺はフィオナに口を押さえられ、奥にあるロッカーへと押し込まれてしまう。加えて、なぜかフィオナ自身もロッカーへと押し入っていた。


「フィオナ?」


「殿下、黙ってください。もう他の女子が着替えにやって来ますから……」


 えっ? それってマジなの?

 俺は男子の能力測定室に来たはずなんだけど?


「もしかして、ここって女子が身体測定する部屋……?」


 恐る恐る聞くと、フィオナが頷く。

 ロッカーから差し込む光でも彼女が頷いていると分かった。


 程なく、更衣室が騒がしくなる。どうやら他の女子たちが着替えに戻ったらしい。



『あれ? フィオナ殿下はもうお着替えになられたのでしょうか?』

『あまり早く次に行くと、男子が着替えているかもだし……』

『きっとお花を摘みにいかれたのですわ!』



 めっちゃヤベェことになった。

 俺たちを余所に着替え始めているのも問題なのだが、俺は薄布一枚を纏ったフィオナと抱き合うようにしていたのだ。


 胸にかかるフィオナの吐息が熱い。

 狭いロッカーの中は茹だるようで、密着する身体は互いの体温を直接感じさせていた。


(どうしてこうなった?)


 ほぼゲームと同じだったはず。

 しかし、俺の悲運が作用したのか、現実の部屋割りは逆になっていたらしい。

 かといって、フィオナと裸同然で密着しているのだから幸運だと言えなくもないか。


(いや、落ち着け……)


 こうなると、眠りから覚めた相棒がやらかしそうになってしまう。


 何しろ俺はパンツ一丁なのだ。あられもない格好のフィオナに密着されては名匠の一振りに変貌してもおかしくはない。


(だだだ、駄目だって!?)


 焦るほどに血流が集中していく。意図せず熱を帯びてしまう。


 てか、リィナの何倍あるの?

 その破壊力に満ちたお胸は……。


(抵抗は無駄だな……)


 俺は抗うことをやめた。

 とはいえ、フィオナに襲いかかるというわけではない。生理現象ともいうべき事象に対し、収まるように努めるのをやめただけだ。


「ルカ殿下……?」


 流石に気付いてしまったようだ。

 しょうがないよな。俺の相棒は回復してから、以前の何倍も元気なんだし。


「すまん。君が魅力的すぎて意図せずな……」


「そうでしたか。これが噂に聞く……」


 えっと、やっぱ美の女神イリア様に聞いたの?

 まあ、ご存じであれば俺も気が楽ですわ。


「胸が当たりすぎていましてね……」


「すみません。無駄に大きくなってしまいまして……」


「ああいや、寧ろご褒美なので気にしないでくれ……」


 小声で何を話しているのだろうか。

 こんな今も相棒は俺の意に反して元気一杯だ。密着しているというのに、恥ずかしい限りだぜ。


「ルカ殿下、わたくしお伝えしたいことがございますの……」


 この状況で俺の弁明より、大事な話があるっての?

 俺としては覗き目的で進入したわけじゃないってことを伝えたいのだけどね。


 思わぬフィオナの話に、俺は固まってしまう。

 このような場面で聞く内容ではない話に。相棒が元気なのも忘れるくらいに、俺は唖然としている。


「ルカ殿下、心よりお慕い申し上げます」


 何て返せば良いのだろう。俺は困惑していた。


 裸同然で抱き合うこの状況で愛を語らうなんて、我が名刀が血を求めても仕方のないことだ。


 まあしかし、自制心。俺は欲望に打ち勝って、フィオナを傷つけるような真似は絶対に回避しなければならない。


「フィオナ、俺はそのリィナと……」


「知っておりますの。ですが、それとわたくしの気持ちは無関係ですわ。ただ愛することを伝えただけ。わたくしは秘めたる想いを言葉にしただけですの」


 取り留めのない話をしていると、他の女子たちは着替えを終えたらしい。騒がしかった更衣室は再び静けさを取り戻していた。


「フィオナ、もう外に出ても大丈夫かと……」


「わたくしはどこまでも一緒にいたい。だからこそ、求めておりますの。一度離れてしまうと、もう勇気を振り絞るなんてできそうにもありませんし」


 どうやら俺は誘われているみたいだ。

 まさにシエラから聞いたまま。簡単にヤれるだとかいう状況に意図せず陥っていた。


「フィオナ、俺はこの先に俺でなくなる可能性が高い。君が知る第二王子ではなくなるだろう」


 俺は真意を告げた。

 今ここで結ばれたとして、幸せになどなれない。俺はこの先に間違いなく世界の改変を引き起こすからだ。


 王子殿下でなくなった場合に、俺とフィオナが結ばれる結末など間違っても訪れないのだから。


「ミリアから聞きましたわ。ですが、わたくしは如何なる変貌を遂げようとも、貴方様と一緒にいたい。たとえ皇国を裏切ることになろうとも」


 どうもフィオナは本気であるみたいだ。俺が俺でなくなると知ってもなお、俺を求めているらしい。


「わたくしはお気に召しませんか?」


 そんなことはない。

 ヒロインである君を嫌うだなんて、誰にできようか。


 俺の推しがもう一人のヒロインであっただけ。フィオナのことが嫌いというわけじゃない。


「いや、惹かれてるよ。この上なく……。だけど、俺は自制しなきゃいけない。リィナのこともあるし、俺自身の未来すら分からないのだから」


 現に我が相棒は準備万端のご様子。けれど、俺は抗おうと思う。

 フィオナを手に入れる価値が俺にはない。仮初めの王子殿下にとって、君は眩しすぎるんだ。


 どうしてかフィオナは尚も身体を密着させた。求めていると口にした内容そのままに。


「ならばルカ様とお呼び致します。わたくしはその世界線において皇女という肩書きを捨てましょう。共にありたいだけでございますの」


 何を言っても無駄みたいだ。


 どうやら俺はネルヴァが教えてくれたまま、モテるべき相手に出会ったらしい。

 彼女は俺に心酔しており、俺は背中に回された手を振りほどけないでいる。


「愛人でも構いません。お側に置いてくださいまし」


 今も相棒は俺の背中を押し続けているけれど、俺にできることは多くない。かといって、彼女に納得してもらわないと、この生殺し状態は続いていくのだろう。


「分かった。俺は次の世界線も側にいるよ……」


 微妙な言い回しだけど、これが精一杯だ。

 リィナにも話をつけておかないと俺は前に進めない。フィオナがどれだけ俺を求めていたとしても。


「ルカ様、約束ですわ。常に寄り添い、貴方様と共に戦いましょう。今はせめて、契りを形にしてくださいまし」


 言ってフィオナが目を閉じた。

 薄暗いロッカールームで抱き合う二人。そのシチュエーションが求める答えは逃げ道すら塞いでいる。


 俺はそっと彼女の頬に手を添えて、彼女と唇を重ねていた。


 仄かに甘い香りがいつまでも俺の鼻孔をくすぐっている。

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