第083話 緊急連絡
「全軍司令官が希望です」
俺の返答には候補生たちだけでなく、レブナント教官まで黙り込んでしまう。
それもそのはず、現状の司令部は東部と西部で分けられている。
騎士学校を卒業したアークライトが西部司令官であり、イステリア皇国内の前線基地に東部司令官がいた。つまるところ、全軍を指揮する司令官など存在しないのだ。
「貴様はそれが何を意味するのか知っているのか?」
「冗談で口にしませんよ。俺は魔国を壊滅に追い込む。しかし、その達成には立場が必須。局地的な指示だけで終わりでは無理なんです。それは最終的な目標であり、一刻も早く達成したい目標でもあります」
西部司令官であるアークライトが配備されたのはサンクティア侯爵領スノール前線基地だ。
スノール前線基地は北に拡がるバリウス帝国が滅びたのなら、真っ先に最前線となる場所であり、リィナの地元でもあった。
「現状はアークライト殿下が指揮を執っておられる。当然、皇国にも司令官が存在するのだ。候補生がしゃしゃり出る隙はない」
俺の希望は一蹴されてしまう。けれど、俺は意志を示した。もし仮にアークライトが討ち死にしたのであれば、俺はそこへ割り込めると信じている。
なぜならゲームにおいてアルクは候補生でありながら、全軍司令官となったのだ。
学徒出陣のような状況に追い込まれたからこそであるが、並行世界にあった可能性に俺は期待している。
「まあいい。貴様は後衛士官だ。魔法科に決定とする」
結局、俺は魔法科に編成された。
この辺りはゲームと同じだ。ヒロインの一人であるフィオナとペアを組む。基本的にフィオナとの関係が進んでいくストーリーなのだから。
「ま、魔法に長けた人材は不足してるし……」
見込みのある者は魔法科が優先される。ゲーム云々を考えずとも、俺は後衛士官となるしかないようだ。
このあとも淡々とクラス分けが進んでいく。
やはりフィオナは俺と同じ魔法科であり、ミリアは支援科となった。フィンがいたならば彼も支援科だったはずが、今も行方知らずである。
もう直ぐ昼食という時間になって、レブナント教官の元へ兵士らしき者が駆け寄ってきた。
「レブナント軍曹、バリウス帝国の首都が陥落したとのことです!」
突然の報告にはレブナント教官だけでなく、俺たち候補生も言葉がなかった。最前線で踏ん張っていたバリウス帝国が遂に墜ちたという。
「その報告は私の招集だと考えて構わないものか?」
レブナント教官が返す。
基本的に騎士学校の教官連中は全員が双国軍の兵士である。従って、軍の命令には刃向かえない。
「いえ、まだそこまでは……。ただ準備をしておくように伝言を頼まれております」
「承知した。私はいつでも戦場に向かおう。軍の決定に従う」
緊急的な報告であったが、まだ双国軍には余裕があるらしい。しかしながら、確実に並行世界の状況に近付きつつもあった。
帝都ロンダルが陥落したバリウス帝国。皇帝陛下が避難したのかどうか不明だが、まだ制圧されたわけでもなく、当然のこと彼らは応戦するだろう。加えて援軍を要請するのは明らかだ。
「それで魔国の進軍規模は分かっているのか?」
レブナント教官が問いを続ける。
帝都を陥落させた軍勢。それが如何なる規模であったのかを。
「二個師団級であったと報告が上がっています。ただし、魔将軍リヴァイアの目撃情報が寄せられております」
二個師団級といえば二万から四万。帝都を攻めるに充分な数であったが、指揮を執っていたのは魔将軍リヴァイアであるという。
「水魔リヴァイアか。今も帝都に残っているのだろうか?」
「分かりません。ただ巨大な水柱による攻撃もあったようで、目撃情報と合致しております。西部戦線の指揮官であるのは間違いありません」
兵の報告は俺の記憶とも一致していた。
ゲーム序盤に動く魔将軍はマステルとリヴァイア。その二体を討伐できたのなら、戦線は拡大し、イステリア皇国も侵攻に遭う。三体目の魔将軍により皇国側も戦場と化すことになった。
「教官、水魔リヴァイアであれば、土魔法が効果的です。スノール前線基地に土魔法を得意とする魔法士を配備しなければなりません」
俺は候補生であり、まだ初日であったけれど意見することにした。
少しずつ信頼を得る。二段飛ばしに司令官という立場は手に入らないのだと。
「土魔法は攻撃に適していないが、防御面で考えるなら効果的だろうな。全軍司令官を希望するだけはある。そう上申しておくよ」
感謝するとレブナント教官。初歩的な指摘であったけれど、素直に聞き入れてくれた。
まあでも、リヴァイアに一般兵が敵うはずもない。水魔に対抗するには強力な駒が必須。俺はそこまで進言して良いのか判断できずにいる。
「いや、一刻も早く魔国を滅ぼすべき……」
躊躇っていた俺だが、会話を続けてしまう。早期の目的達成を望む俺は意見するしかなかった。
悩んだ結果、俺は切り札となる者の名を告げている。
「フィオナ候補生が適任かと思われます」
俺の話に候補生たちがざわつく。それもそのはず、俺たちはまだ一度の訓練もこなしていないのだ。
「それは勝算があっての進言か?」
「もちろんです。フィオナ候補生は大精霊ノームを召喚できます。水柱による攻撃を封じることも、絶大なダメージを与えることも可能ですから」
フィオナは何も口にしない。
驚いているのか俺を信頼しているのか不明だが、彼女は意見しなかった。
「大精霊ノームか……。確かに有効な手札だ。しかし、まだ一度の訓練もしていない。前線の戦い方を知るよりも前に配備はできないな」
ま、そうなるだろうな。
しかし、時間の問題だ。俺の進言が正しかったことを軍は知ることになる。一般兵では水魔リヴァイアを足止めすることすらできないのだから。
このあと解散となり、昼食の時間となった。
午後はクラスごとに身体測定やら細かな数値の計測となる。
初日から重々しい雰囲気の中で、俺たちは食事をすることになっていた。




