第082話 クラス分け試験
初めてのレベリングは俺とミリアを除いて上手くいったらしい。
結局のところ、ミリアは帰路もろくに経験値を得られず、レベルアップは僅かなものであった。
本日は授業の初日。レブナント教官が騎士候補生を集め、壇上で話をしている。
「諸君、昨日はよく休めただろうか? 私が主に実技を担当するレブナントだ。始めに言っておくが、騎士学校では身分を加味しない。全員等しく扱うことになり、厳しい言葉も投げかけるだろう。耐えられないのであれば、さっさと国へ帰ることだな」
当然のこと俺も同様の扱いを受けることになる。これは教官が職務を全うするために必要な決まりごとだし、仕方のないことだ。
「まずはクラスを決定しなければならない。剣技、魔法、支援の三つを計測し、適したクラスを選んでくれ。希望は聞くけれど、望み通りにならない場合もある。クラス分けは結果を加味して、教官が決定を下す」
適正はジョブに左右されることが多分にあるけれど、ジョブではなく計測数値から判断してくれるという。
「まずはコーネル・バリウス! 剣技からだ」
どういう順番なのか分からないが、最初に名を呼ばれたのは皇国民でも王国民でもない。
コーネルは直ぐ北にあるバリウス帝国の皇子様だった。なぜ俺が彼を知っているのかというと、コーネルは俺のルームメイトだったからだ。
「コーネルのやつ、初っ端とはついてないな……」
他国の皇子と聞いて我が侭な人間という予感を覚えていたのだが、そんな懸念は杞憂に終わっていた。
実際のコーネルはとても腰が低い。簡単に言うと、めちゃくちゃ良い奴なんだ。第三皇子という微妙な立ち位置も彼が控えめな要因だろうと思う。
「始めます!」
剣技は魔道具に全力で打ち込むだけ。瞬時に威力を数値化して、適性を計ることができた。
ゲームでは少しも名前が出て来なかったコーネルなんだが、俺は心の中で密かに応援していた。彼が使える兵であるようにと。
「でやあああっ!」
気合いを乗せたコーネルの一撃。ドスンと重たい音が鳴り、瞬時に数値が浮かび上がる。
【169】
えっと、なんだ……?
凄いのかどうか分からん。
単なるダメージ量であるのなら、ゲームにおいてはかなりショボい。危険度七等級のゴブリンの体力が100程度なのだから。
「うむ、なかなかの威力だ。魔法力の測定に行くか? それとも剣術科にするか?」
やはりダメージ量ではないみたいだな。
コーネルの攻撃は一定の評価を受けていたし、魔法力の測定をパスできるというのだから。
「剣術科でお願いします!」
いや、良かった。俺は他人事ながら、コーネルの希望が叶って笑みを浮かべている。
「次、リィナ・セラ・サンクティア、前へ出ろ」
おっと、次はリィナの出番らしい。
ジョブについては教官も知っているはずだが、やはり剣術から計測するみたいだ。
「コーネルよりは良い数値を出してもらいたいな……」
リィナはレベル48。昨日だけで2つもレベルアップしている。流石にこのレベル帯の候補生はいないはずだけど。
「いきます!!」
スッと鞘からレイピアを抜き、リィナが構える。
小さく息を吸ったあと、彼女は全力で魔道具を突き刺していた。
刹那に鈍い音が鳴り響く。
それもそのはず、リィナの刺突は魔道具を貫通してしまったのだ。
【1890】
あれ? これは……ちょっと。
リィナは既に危険度三等級であれば、軽く圧倒してしまう。往々にして危険度三等級の魔物は体力値が2000程度なんだ。つまり、魔道具の威力算出はダメージ量なのかもしれない。
「えっと、コーネルどんまいな……」
まあ、まだ騎士学校の初日。プレイヤーであっても、ろくに戦えないのだ。
俺たちが先んじてレベルアップしすぎたせいであり、コーネルは何も悪くない。
流石にレブナント教官は固まっている。恐らく初日に見たことのない威力であったことだろう。
「リィナ・セラ・サンクティア、貴様は剣術科。つまりは前衛士官で決定だ。それとも、今以上の魔法力を見せることができるか?」
「ああいえ、剣術科でお願いします」
ざわめきが収まらない。
全員が絶句したあと、思い思いに感想を言い合っていたのだ。いきなり桁が増えてしまっては仕方のないことかもしれないが。
「静かに! 次はルカ・シエラ・シルヴェスタ前へ!」
間の悪いことに次は俺の番らしい。
なお一層、騒々しくなるのは自明の理だ。何しろ、リィナは俺の侍女だと知れ渡っている。主人たる俺に興味が湧くのは当たり前かもしれん。
『リィナさんのご主人様?』
『王国の第二王子だろ?』
『侍女より弱いはずねぇわな?』
『いや、三つも加護を持ってるって噂だけど?』
好き勝手言ってくれる。
てか、その情報ってどこから漏れてんだ? 全部当たってるんだけど。
「始めますよ?」
騒々しい中で軽く終わらせておこうか。
初日から目立つのもなんだし、リィナと同じくらいの数値が出せたら、納得してもらえるだろう。
「ルカ様、頑張ってください! わたくしが見ておりますから!」
斬りかかろうとした瞬間にフィオナの声。そんな大声出したら怒られるって。
あと俺の応援なんかしないでくれますか?
貴方様は俺の元婚約者という微妙な立場なのですから。
『確か破局したはずじゃないの?』
『今もフィオナ殿下が好きだという可能性も……』
『実はルカ殿下から破談を?』
俺は剣を振りかぶっていたというのに、外野がうるさい。全部、聞こえてるっつーの。
「るせぇぇえええよ!!」
ヤバい。つい本気で振り切ってしまった。
手に残る感触は俺の予感を肯定するだけ。これは正直にやっちまったと思う。
なぜなら、スパッと斬れた感覚が残っていたんだ。威力を計る魔道具が真っ二つになるはずもなかったというのに。
【計測不能】
えっと、まあ良しとするか。
ここで万単位のダメージが出てしまうより、想像力に任せるのは悪くないだろう。今後も平穏な学生生活を……って送れるはずもねぇか。
「シルヴェスタ、お前何をした!?」
教官様、そこは流して欲しいぜ。剣術科で良いのかと聞くだけで丸く収まったのに。
「斬っただけですけど?」
すっとぼけておこう。
俺はクラス分けに意味を見出していないのだし、相手にしなければ生徒たちも気にしないはずだ。
「素敵ですわ! 惚れ直しましたの!」
「ルカ様ぁぁっ! カッコいいです!」
あのな、君たち。
俺の意図を汲み取れっての。ヒロイン二人が俺を応援したら、どうなるのか分かってんのかよ?
『やっぱフィオナ殿下は今も?』
『てか、従者の子もやはり……』
『両取りとかねぇよ……』
『アレをぶった切ってやりたい……』
ちくしょうめ。余計なヘイトを買っちまったじゃないか。俺は盾役でもないというのに。
「スキルもなしでか? これは一万ダメージに耐えられる特注品だぞ?」
「じゃあ、一万以上あったってことでしょ。それで俺はどうなるんです?」
別に喧嘩腰に話したいわけじゃないが、教官に合わせていたら自然と対立しそうな感じに。
「剣術科で構わないな? まさか魔法力もあるってことはないだろう?」
「魔法も撃てます。となりの的がそれですか?」
斬りかかる魔道具の隣に、中心が赤く染まった的が立ててある。
恐らく、それが魔法威力を計る魔道具。俺は問答無用で撃ち放つことに。
「セラフィックレイ!」
勇者として覚えた魔法を撃つ。
正直に初めて使うから、威力の程は分からない。まあしかし、魔将軍の体力は五万以上あるんだ。五発で魔将軍を倒せるはずもないし、今回の的は壊れないだろう。
「お、おぉぅ……?」
的へと直撃したセラフィックレイに教官は呆気にとられている。
実をいうと俺もだ。
同じような耐久力を持たせているはずの魔道具はセラフィックレイの一撃を耐えられず、木っ端微塵となっていたのだから。
やべぇな。魔道具の耐久力なさすぎじゃない?
勇者にはもっと強力なスキルもあるというのに。
「シルヴェスタ、貴様は何科を望む? 前衛士官でも後衛士官でも問題ない実力だ」
教官が改めて聞いた。それは俺がどこを選んでも問題ないという話だろう。
かといって、俺の希望は前衛士官でも後衛士官でもない。俺には初めから希望があったんだ。戦場において最も重要な役割こそ、俺が担いたいものであった。
「全軍司令官が希望です」




