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第076話 救世主

 翌日は入学式であった。俺は代表して挨拶することになっている。


 二年前、アークライトが務めたとのことで、俺に声がかかったらしい。かといって、本年度はイステリア皇国の皇女殿下も入学されていたのだけど。


「ルカ・シエラ・シルヴェスタだ。一年間、よろしく頼む。代表での挨拶とのことだが、まず最初に言っておくことがある」


 騎士学校には王国と皇国の上位貴族以外に、小国の王族や上位貴族も入学している。


 基本的に彼らは世界の平和を求めておらず、騎士学校を卒業したという肩書きを手に入れたいと考えている者たちだ。


 だから、言っておかねばならない。俺が遊び半分で来ているわけじゃないってことを。


「俺は魔国の侵攻から人類を救うために来た」


 それ以外の理由はない。女神の使徒として俺はこの場にいるのだから。


「よって真面目に訓練しない者には容赦ない叱責を加える。貴族院は身分差を考慮しない場所であるが、シルヴェスタ王家との関係を重んじるのなら俺が話す通りに動け」


 ざわつく大講堂。入学式に不似合いな俺の挨拶は全員を戸惑わせている。


「世界の滅びは近い。気の抜けた訓練は許さない。気に入らないのなら、さっさと所領へ帰れ。戦う気がないのであれば邪魔だ」


 学長ですら戸惑っている。俺が王子であるから静観しかできないのだろう。


「優秀だと感じた者は重用させてもらう。女神様の話では在学中に戦争は拡大する。シルヴェスタ王国内も戦地と化すだろう」


 帝国が存在する現状では信じてもらえそうにない。だから、俺は女神様の話として、知りうる事実を告げていた。


「戦って未来を守ろう。人類の明日が永遠に続くように……」


 言って俺は壇上を去る。

 魔国を滅ぼし、世界を安寧に導くだけ。それは俺が騎士学校へと入った理由の全てだった。


 呆気にとられたのか、拍手はまばらである。まあ別に賛同を得ようとしたわけではない。


 俺が本気であること。世界を救済に導く決意を分かってもらえたら充分だ。


「これはシリウスのためでもある……」


 俺が運命を奪ったシリウスのためにも人類の敗北は許されなかった。


 彼には確固たる地位と使命があったというのに、今や孤児扱いなのだ。改変された世界の中で彼が失ったものに準ずる成果を俺は求められている。


 このあとはグレン学長から今後についてのスケジュール説明があって解散となった。

 授業は明日からであって、本日は移動の疲れを癒すなり、明日の予習をしておけとのことだ。


 ロビーへと戻り、男子寮に向かおうかと言うとき、


「ルカ殿下!」


 俺を呼ぶ声がした。

 それはフィオナである。心配していたリィナも一緒のようだ。


「フィオナ、昨日は悪かったな。感謝している」


「いえいえ、わたくしはルカ様のためであれば、たとえ恋敵であろうとも全身全霊でお守り致しますわ!」


 ニコリと微笑みフィオナが言った。

 それは彼女の冗談に違いないだろうが、本心でもあるはずだ。何しろ俺はリィナが好きなのだと口にしていたのだし。


「それより先ほどの所信表明は素敵でした! わたくし惚れ直しましたの!」


「ありがとう。とはいえ、大半が面食らっていたけどな……」


「殿下の決意や覚悟は直ぐに伝わるはずですわ。加護を持たぬ者であっても、人類の危機に気が付くことでしょう」


「そうなると良いな。俺一人が戦って勝利できるはずもない。全員で力を合わせて魔国に討ち勝つだけだ」


 魔族は基本的に闇の属性を持つ。

 俺たちの世界は光の世界であり、そこへ割り込んだ彼らの繁殖力は強くなかった。つまり物量では人類側に分があるのだが、彼らはそれを補う個々の質が備わっている。


「リィナ、調子はどうだ? 良いようなら、これから訓練に行くぞ」


 俺の覚悟はリィナに対しても同じだ。戦うことが彼女の寿命を縮めていたとしても、俺は彼女を強化していかねばならない。使徒としての目的を優先していくだけだ。


「ルカ様、リィナの具合は良くありませんわ。今日はお休みすべきかと……」


「フィオナ様、私は平気です。時間がありません。どうせ弱っていく一方なのです。早いか遅いかだけの違いですから、早々に強くなり魔国に勝利するだけです」


 フィオナが制止したものの、リィナ本人は問題ないという。

 俺もそう言うと思ったから聞いただけであり、初めから戦うつもりなんだ。


「直ぐに準備をして、黒山へと向かうぞ」


 黒山とは騎士学校の主戦場である。

 とはいえ、魔族がいるわけではなく、魔素を大量に吐く黒山には魔物が多く生息していたのだ。


「黒山でしょうか!? 認められませんわ! 後期に実習を行う山ではありませんか!?」


「フィオナ、リィナは既にレベル40を超えている。充分に戦えるさ」


「いやしかし……」


 どうしてもフィオナはリィナの容体が気になっているらしい。


 一晩を共に過ごして理解したのだろうが、生憎と俺はずっと彼女と一緒にいる。病状のことは誰よりも分かっているつもりだ。


「フィオナ、リィナの容体が回復することはない。時間がないんだ。動けるうちに少しでも強くなっておかねばならない」


 酷くなる一方だからな。だとすれば、死期を待つだけより戦うべき。何もしない時間なんて存在しないんだ。


「承知しました。しかし、わたくしとミリアも同行いたします。よろしいですか?」


 思いもしない話だが、俺としては好都合だ。

 元より、彼女たちも戦力だからな。同時に鍛えられるのなら有り難い話だった。


「なら、直ぐに着替えてロビーに集合。夜までぶっ続けで戦う。各自、食事を用意しておくこと」


 鬼だと思うなら、そう考えてもらって構わない。


 今の俺は大人の階段を昇ろうとしていた俺ではないのだ。

 アルクとシリウスの人生を無理矢理に変えた償いとして、俺は代わりに世界を救う。


 今の俺はシエラから与えられたジョブのままに生きるだけだ。


 明確に俺は救世主の代行者だったに違いない。

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