第075話 ルームメイト
私はフィオナ殿下と女子寮にある自室へと来ていました。
発作の症状は随分と緩和しています。薬は血流を介して魔力を循環させるものでしたが、成分の大部分が高純度の魔石でして、飲みすぎてはいけません。
薬は体内に魔力を循環させられるのですが、服用しすぎると魔力を生み出す魔腑という器官がダメージを受けてしまうからです。
「申し訳ございません、フィオナ殿下……」
まずは謝罪を。従者を押しのけてまでルームメイトになってくれたのです。隣国の侯爵令嬢ごときに彼女は手を差し伸べてくれたのですから。
「構いません。それより貴方がルカ様の仰っていた想い人なのですね? わたくしは正直に嫉妬を覚えておりますが、それは貴方の命を輝かせることに何の支障も生みませんわ」
やはりフィオナ殿下もルカ様を慕っておられる。
まあ当然よね。一般の市民までルカ様を悪く言う人はいない。まして彼女は元婚約者。彼の人となりを既に知っていることでしょう。
「ご病気のことですれけど、わたくしの精霊術にて緩和できるかもしれません」
「本当ですか!?」
意外な話です。私は彼女の恋敵だというのに、フィオナ殿下は期待を持たせるようなことを口にしていました。
「レベル20で覚えた【水精霊の雫】。このスキルは精霊の癒やしを体内に浸透させられます。対象者の体内魔力を活性化させ、魔法威力を増大させるというものですわ」
聞く限り、私の病状に合うような気がする。
体内の魔力を活性化させることができれば、弱り切っている臓器にも影響を与えるのではないかと。
「デメリットはありませんので試してみましょう。水精霊召喚!」
フィオナ殿下は早速とスキルを行使してくれます。
眼前に召喚された水精霊が私の身体に幾つもの雫を降り注いでいく。
「あっ……?」
身体が熱くなっていました。
きっとそれはスキルの効果。心なしズドンと重く感じる倦怠感が薄れたような気がします。
「効果があったように感じます!」
「それは良かったですわ。治療ではございませんけれど、魔腑に負担をかけない程度に続けていきましょう」
有り難いお言葉です。
聖女は私ではなく彼女ではないかしら。慈悲深い彼女には感謝しきれません。
「しかし、良かったのでしょうか? 私はその……」
「誤解しないでくださいまし。わたくしは女神様の使徒であり、救世主の一人。使徒は一人でも多い方がいい。世界の救済はルカ様が望まれること。また貴方という存在をルカ様は必要とされているのです。わたくしはルカ様に命を救われた身でありますから、彼が望む世界を作り上げたいと考えております」
いやいや、本当に崇高な人だね。
私が同じ立場なら、恋敵を助けたりしない。語られた理由はきっと後付けだわ。この方は誰が困っていたとしても、手を差し伸べたはずよ。
「それに貴方は仰っていた。自分の人生が終わったあと。わたくしに殿下のことをお願いしたいと。なかなか言える話ではありません。わたくしたちは意図せず同じ人を好きになった。わたくしは同志であると考えておりますの」
「それはそうかもです。というより、ルカ様は誰にでも好かれてしまいますからね。嫌っている人なんか見たことありませんし」
私は無礼にも右手を差し出していました。
同じ人を愛する者同士。同じ女神の使徒でもあります。ルームメイトになったことだし、共に頑張っていきたいと思うのです。
クスッと笑い声が聞こえたあと、私の手は取られていました。
皇女殿下と握手するなんて不敬かもしれませんけれど、私たちは固い握手を交わしています。
「どうかリィナとお呼びください……」
「分かりましたわ。わたくしのこともフィオナとお呼びくださいまし」
流石に敬称は付けるけどね。
フィオナ様は私が名を呼んでも構わないと話されております。
「しかし、ルカ様はどうやってファイアードラゴンから逃げおおせたのでしょう? 二十人はいた兵たちなど一瞬にして黒焦げとなってしまったのですが……」
「それなら討伐したと仰ってましたよ?」
「ととと、討伐されたのですか!?」
まあ、そんな反応になるよね。
竜種だなんて不幸の代名詞ですもの。出会ったら最後、天に還るだけ。好戦的な種であれば尚更です。
「殿下は出鱈目な強さですから。普通に戻って来て、夕飯を食べられていました。まあでも、あばら骨が折れたと話されてましたね」
「はぁ、あばら骨ですか……。魔将軍を倒したとお伺いしておりますが、ファイアードラゴンをお一人で討伐とか考えられませんわ」
ルカ様は異様な強さですからね。その場で目撃しないことには理解できないことかと思います。
「フィオナ様、私たちも頑張って強くなりましょう」
「そうですわね。世界に平和が訪れるように戦いましょう」
皇女殿下がルームメイトとかどうなることかと思いましたが、上手くやっていけそうです。
明日から騎士学校での生活が始まりますけれど、私に不安はありませんでした。




