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第074話 再び交わる運命

 俺とリィナは双国立騎士学校がある北東の街レザルへと来ていた。

 直ぐ北側はバリウス帝国であり、そこは今も魔国との交戦中である。


「騎士学校に入ってもバリウス帝国が存在しているなんて」


 ゲームの開始時点は帝国が滅んだあとだ。

 それどころか王国内の前線基地も襲われ、アークライトが亡き者となっていた。しかし、現状において、帝国もアークライトも無事であり、人類側が優勢のようにも感じられている。


「だけど、脅威は去っていないってか……」


 聞けば魔王ベルゼス・バルゼは異様な強さであるらしく、魔将軍マステルが消失したところで、痛手でもないようだ。


 今現在は騎士学校での手続きをリィナがしてくれているところ。俺は手持ち無沙汰に彼女を見つめているだけだ。


 時間がかかっているのは山のような書類を提出しなければならないからである。俺は王子だというのに、役所仕事は割愛したりしてくれないらしい。


「とにかく戦力不足だ。モブたちから戦力を見つけ出さないと」


 双国立騎士学校は基本的にシルヴェスタ王国とイステリア皇国の上位貴族が中心であるけれど、周辺の小国からも入学者がいる。


 ただゲームでは主要キャラ以外に名前を持つ者がいなかったので、俺には誰が強者であるのか分からない。選抜は授業を見てからということになる。


「殿下、手続きが終わりましたよ?」


「ああ、すまないな。やっぱ寮は別々か?」


 夜の営み。それは俺が生を感じられる瞬間に他ならない。しかし、並行世界と同じであれば、決して叶わぬこと。男女の寮は別々になっているはずだ。


「それは流石に。だけど、殿下がお望みなら……」


「同室にしてくれたら良かったのにな?」


「仕方ないですよ。私たちは別に婚約者でもありませんし……」


 ゲームと同じであれば、王子といえど恐らく相部屋であって優遇などされないのだろう。


「明日の入学式で殿下は代表して挨拶しなければなりません。文面は用意しておきます」


「ああいや、俺は自分の言葉を伝えたい。義務的に入学したわけではないのだと表明したい」


 頷くリィナ。俺の覚悟は彼女も分かっているだろう。

 世界の救済ありきということ。連日に亘って過酷なレベル上げをしてきたのだから。


 不意にリィナがうずくまった。悲痛な声を漏らしながら、彼女は膝をついてしまう。


「発作か!?」


 このところ発作の頻度が高くなっている。明らかに病状が悪化しているのだろう。

 シエラが話していた通りだ。やはりリィナは長くないのだと思われる。


「リィナ、薬だ……」


 リィナが服用する薬は俺も持ち歩いている。彼女が取り出せない場合を考えてのことだ。


「すみません……」


 正直にリィナを他のルームメイトに任せるなんて嫌だ。

 主要キャラであればまだしも、俺たち以外はモブだと分かっている。皇国側の英雄は一人として入学していないはずなのだ。


「部屋まで連れて行く」


「駄目ですよ。女子寮なのですから……」


 こんな時にまでリィナは規律を守ろうとしている。

 真っ直ぐな性格は理解していたけれど、柔軟性が欲しいと考えてしまうところだ。


 とりあえず、しゃがみ込んだまま安定するまで待つことに。いつもと同じであれば、薬を飲めば三十分程度で症状が緩和する。


「ルカ殿下!?」


 そんな折り、背後から俺を呼ぶ声がした。

 振り返ると、そこには思いもしない人が立っていたんだ。


 いるはずのない人。

 それは完全に縁が途切れたはずの女性だった。


「フィオナ……?」


 目を疑う光景。俺の眼前に立つ女性は明らかにフィオナであった。


 彼女はもう俺の婚約者じゃない。だからこそ、皇族である彼女には戦う理由がなかったはずなのに。


「どうして騎士学校に? イリア様の助言でしょうか?」


 もしもフィオナが騎士学校に入るのなら、加護を与えた女神様の存在しか考えられない。


 彼女の後ろにはミリアもいることだし、俺にとって好都合な状況は女神様たちが作り上げたとしか思えなかった。


 しかし、フィオナは首を振る。イリア様の助言でここに来たわけではないという。


「わたくしはルカ様が亡くなられたと考えておりました。父には誰とも婚約しないと告げ、貴方様が望んだ戦いの場へと赴いたのです」


 たった数日しか俺たちは共に過ごしていない。だというのに、フィオナは俺の要請通りに行動してくれたみたいだ。


「お会いしとうございました。よもや今世での再会が果たせるとは夢にも考えなかったこと。わたくしの気持ちは何も変わっておりません。たとえ皇国を裏切ろうと、貴方様の元に置いていただきとうございます」


 どうしたら良いのだろう。

 俺たちは既に婚約者ではない。だというのに、フィオナは俺と共にありたいと願う。


「フィオナ、実はここにいるリィナと俺は深い仲なんだ。知ってるかもしれないが、彼女は元婚約者で、重い病気を患っている」


 俺はありのままを伝えた。

 嘘を言って取り繕うなんてできない。今はもう彼女の好意を受けられる男ではないのだから。


「殿下、良いではないですか……?」


 俺の返事に応答したのはなぜかリィナであった。

 いつもなら嫉妬の炎を燃え上がらせるというのに、どうしてかフィオナの話を肯定している。


「フィオナ殿下、どうかルカ様をよろしくお願い致します……」


「おい、リィナ!?」


 どうして、そんな話をする?

 リィナは俺のことを愛していないのか?


 困惑する俺を余所に、リィナが続けた。


「殿下、私はあと一年も生きられないのです。だから、私はセラ様に死後のお願いをしました。フィオナ殿下との復縁が成されるようにお願いしたのです」


「死後の話? いや、お前は知っていたのか!?」


 リィナ曰く、騎士学校にフィオナが現れたことは幸運の女神セラ様の配慮だという。


「怒鳴らないでくださいまし。セラ様から聞きました。戦うことで寿命を縮めていると。だけど、私は決めたのです。殿下と相思相愛になれた私にとって、残る望みは世界を救うこと。歴史に名を刻み、天へと還ります」


 まあ、セラ様が黙っているはずもないか。シエラが知っていたことを彼女が知らないわけがない。


「俺のせいだな。リィナの病状悪化を知ったのは最近だけど、事実として俺はレベル上げを強要した。フィオナ殿下が現れないと考えていたから、リィナを強くするしかなかったんだ」


「分かっています。殿下の強い意志。使徒としての責務を全うしようという決意については……」


 どうやらリィナは死期を悟った上で、フィオナにあとを頼むつもりらしい。


 最後に俺はあの呪文を使用する気でいたのだが、彼女はやはりそれを望まないのかもしれない。


「殿下、約束してください。私は気高く逝きたいのです。よって最後の場面で私のために死を選ばないでください。救世主という高潔な二つ名を欲しています。間違っても私は世界を滅ぼす原因になどなりたくありません」


 俺は何も答えられない。もっともな内容であったからだ。


 俺がリィナを助けたとして、勇者しか魔王は倒せない。つまりは死期が先送りになるだけであって、自己満足も甚だしい。リィナを守ったと悦に浸るだけのことだ。


「それは善処する。それよりリィナはやはり俺と同じ部屋にするべきだ。発作がでたとき、君には頼りになる人が必要。見知らぬルームメイトでは安心できない」


 世界救済よりも前にリィナが病に倒れるだなんて許されない。

 俺が側にいると絶対に目を離さないし、彼女を守る自信があった。だから、俺はリィナとの同室を希望している。


「ルカ殿下、わたくしにお任せください。以前にお伺いした大切な人こそ彼女なのですね? 薬を飲ませてあげればよろしいのでしょう?」


 どうしてかフィオナがルームメイトに立候補している。

 彼女であれば部屋割りくらいは楽に変更できるだろうが、侍女を差し置いて同室とか構わないのだろうか?


「侍女と同室じゃなくなるけれど?」


「構いません。わたくしはルカ様に命を助けられた身。貴方様が大切にしているものを守らせてください。恩返しがしとうございますの」


 そういう理由ならお願いしたいところだ。男女が同室なんて規律違反なのだし。


「リィナ、フィオナ殿下がルームメイトで構わないか?」


「よろしくお願いします……」


 ゲームとは違って、やり直しができない。

 重大な決定になるだろうが、現状でフィオナ以外の選択は考えられなかった。


 俺はフィオナにリィナの付き添いを頼み、男子寮へと向かう。到着早々のトラブルであったけれど、俺は戦うだけだ。


 世界を救ったあとでなら、堂々とリィナを救えるはずと……。

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