表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/111

第073話 幸運に導かれて

 私は久しぶりにセラ様との邂逅を果たしていました。


 いつ以来だろう。セラ様が仰った通りにルカが迎えに来て、聞いていたように私は彼と結ばれています。


 幸せの絶頂にいた私は感謝の言葉を述べなければなりませんね。


「お久しぶり、リィナ……」


 美しいご尊顔は記憶のまま。といっても数ヶ月ぶりくらいだから、そこまで古い話じゃないよね。


「お久しぶりです。セラ様が仰ったままの未来に私はいます。婚約破棄されたはずなのに、本当に私とルカ様は結ばれましたよ!」


「それは良かったです。ワタクシは貴方の幸せを第一に考えております。使徒の喜びは主神として嬉しいものですね」


「それで私は騎士学校に入ります。世界を救って英雄になる。彼の心と世界の記憶に私が生きた証しを残したい」


 短い人生だけど、私はもう嘆息したりしない。

 強い輝きを放ち、私はその軌跡を残すんだ。


 愛する人に見守られながら逝くなんて最高のハッピーエンドだもの。


「リィナ、予想以上に魔国が力を付けています。魔将軍はあと五体ですけれど、もう直ぐ王国と隣接することでしょう」


 ここで予定と異なる話が続けられる。

 どうやらイレギュラーは魔神側の問題であり、女神様たちの管轄外。向こう側の動きが活発化しているからのよう。


「一刻も早くレベルを上げなさい。世界が滅びるよりも早く強くなるのです」


「そんなに切羽詰まっているのでしょうか?」


 私の質問返しに、セラ様は黙り込む。

 充分と思える時間を費やしてから、セラ様は見解を語り始めました。


「シエラがまたも裏切ったみたいです……」


 はい?

 シエラって悲運の女神様よね?

 ルカ様に加護を与えた一柱。原初の三女神様は世界を救うために、全員が一人の人間を使徒に選んだ。


 ルカ様は私の運命を背負うと言ったそうですけれど、三柱女神様はそれを阻止した。世界にはルカ様が必要だと説き伏せたのだと聞いています。


「シエラ様が何を裏切るのです?」


 まるで分かりません。原初の三女神様は全員が世界の安寧を願っておられるのですし。


 長い息を吐くようなセラ様。美しいお顔に似合わない表情です。


「実をいうと、リィナが考える世界と現実は異なっております」


 え? それってなに?

 現実は現実でしょ?

 私が生きてきた人生は夢でも幻でもないはず。


「どういうことですか?」


「話せば長くなります。端的に言うと、現状の世界は大きく書き換えられた世界なのです。実際に起きた事象とは似ても似つかない世界……」


 いや、全然分かんないって。

 実際に起きた事象こそが過去であって、私たちにある記憶だと思うけど。


「とある問題が起きて、修正された世界と申し上げましょうか。現状はルカが創り出した世界。行き詰まった末に選択した現実です」


「ルカ様が創り出した……?」


「そもそも彼は子爵家の長男として誕生しています。王国に存在した第二王子にディヴィニタス・アルマを使用し、世界が激変しました」


 信じられません。ルカ様は産まれてからずっと王子殿下。私は彼の許嫁であったはず。


「ただし、混乱はなく良い方向に世界は動いていました。けれど、再び危うくなっております。貴方の運命が今しがた揺れ動いたのです。シエラが裏切ったというのは、ルカが貴方を救う決断をしたということ。彼女はそれを容認したようです……」


「嘘でしょ!? 彼は王子様なんですよ!?」


 激変した世界についてはよく知りません。だけど、ルカ様が間違っていることくらい私にも分かります。


「彼は今もその結末を望んでいるようです」


「いや、しかし……」


 言いかけて恥ずかしくなる。


 だって、理由はよく理解できたんだもの。このところ毎晩のように愛してくれるのだから。


 よって私には分かる。彼は私を失いたくない。たとえ自分自身が失われたとしても。


「シエラは世界の破滅を望んでいる。勇者を失った世界は滅びるだけだというのに」


「そんなこと絶対にさせません! 私はもう人生を満喫しました。いつ死んだとして悔いなどございません!」


「良い子ね。恐らくルカは貴方を説得しようとするでしょう。けれど、使徒としての使命を全うしてください。最後は安らかに逝けるよう配慮しますから」


 初めから私の死は確定していたの。


 祝福の儀で聞いたときには落胆したけれど、既に私の望みは叶った。ルカ様と愛し合うという願望をセラ様は叶えてくださったのだし。


「私は死を恐れない。けれど、一つだけ心残りがございます。それさえ叶うのなら、この命は世界のために使うと約束いたします」


「貴方の献身に感謝します。心残りについて聞かせてください。できる限りを尽くすと約束いたしましょう」


 どうやらセラ様はまたも私の願いを叶えてくれるみたい。

 ルカ様との関係だけでも充分だというのに、私は恵まれすぎているわね。


 ならばと、私は希望を伝える。図々しいけれど、迷わず逝くために。


「私の死後。そのあとの結末についてです……」


 死ぬことに異論はない。どうせ長くない身体だもの。私は世界のために命の灯火を使う。


「ルカ様とフィオナ殿下の再婚約を希望します」


 私の願いはそれだけよ。

 ずっとお似合いだと思ってた。私なんかよりずっと綺麗で、お淑やかで気品に溢れている。王子殿下の隣にいるべき人だと私は嫉妬していたんだ。


「よろしいのですか? 貴方の恋敵でしょうに?」


「良いのです。ルカ様は死ぬ寸前まで愛してくれる。でも、私が死んだあと独りぼっちになってしまうのは可哀相だもの。私への想いを引き摺るなんて意味がない。残りの人生の方が長いルカ様には支える人が必要です」


 これで良いんだ。

 私は充分に愛されたわ。独り占めしたい気もするけれど、それはエゴでしかなく、間違ってもルカ様のためじゃない。だから、この身体が滅びると同時に私は身を引くんだ。


「なるほど、承知しました。今さら魂の紐付けはできませんけれど、イリアとワタクシが手を結ぶと、ルカとフィオナの運命は少しだけ近づくことでしょう」


 残念だけど、晴れ晴れとしている。

 死後の後片付けを自分でできたから。私は失われたあとまで、ルカ様を縛り付けるべきではない。


「ありがとうございます。私はセラ様の使徒で幸せです。本当に幸運に恵まれていましたね?」


「ふふ、貴方は幸運に愛された魂。これまでもこれからも幸運の黄色を纏っておりますよ」


 言ってセラ様が薄く消えていく。


 私はやはり幸運の下にあった。

 満足な身体ではなかったというのに、愛する人に愛された人生を送れたんだ。こんな今は私以外の誰にも迎えられないことでしょう。


 女として人として。幸運であったと確信できるわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ