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第070話 パワーレベリング

 俺とリィナは朝からクリステラの街門を出ていた。

 言いつけ通りに騎士を付けたのだから、好きにしても構わないだろうと。


「殿下、どこまで行くのです?」


 既に王都が遠く霞むほど遠出している。当然のこと目的があってのことだ。


「北にある森へ向かってるんだ……」


 リィナは驚いている。

 街道を外れていたのは分かっていただろうが、馬を駆る俺が目指している場所が森だと知って。


「森で……ヤるのですか!?」


「昨日のことは忘れろ!」


 今もまだ昨晩のことを引き摺っているらしい。どうもリィナには衝撃的すぎたようだ。


「レベル上げだよ。レベル上げ!」


 要はリィナを鍛えるため。魔国との大戦に向けて、彼女のレベルを上げなければならない。


「情事のレベル上げ!?」


「ちげぇぇよ!!」


 しばらくは夜に囚われたままなのかもな。まあ、リィナが昨日の夜を良く思ってくれるのなら有り難いけれど。


「フィオナ殿下と破局しただろ? だから、リィナが戦えるくらいにレベルを上げなきゃならない。もうフィオナ殿下や錬金術士の力を借りられないんだ」


 恐らく、この世界線で皇国側の戦力は期待できない。何しろ破局した皇女殿下だけでなく、錬金術士ミリアも皇家のメイドなのだから。


 フィンについては最初から期待できないし、俺とリィナで世界を救うしかなくなったのだ。


「セラ様が仰っていた未来ですか?」


「ああ、俺たち二人で世界を救済する。覚悟はできているか?」


 リィナは聖女であるけれど、剣術も嗜むアタッカーでもあった。レベルさえ上げておけば、彼女なら戦えると思う。


「死後に残るはずの未練は昨晩なくなりました。いつでも私は戦えます」


「助かる。矢面に立つこともあるんだ。騎士学校へ入るまでにレベルを50くらいまで上げておきたい」


 基本的に最強スキルを覚えるレベル100になれば楽にクリアできる。フィオナがいないことを考えると、少しでも100に近づけておく必要があった。


「今はまだ12ですけど……」


「とりあえず、俺が瀕死に追い込む。リィナがトドメを刺せ」


 馬を走らせた俺たちは王国の北部に拡がる大森林へと到着。早速と剣を抜き、魔物を捜し始めた。


「殿下、大丈夫ですかね?」


「問題ない。ファイアードラゴンなんかそうそう現れないし」


 俺は自身の悲運を過小評価していた。

 雑魚であるワーウルフとかワーラビットとか、ワーワー的な魔物しかいないと思っていたんだ。


「殿下、アレを……倒すのです?」


 青ざめるリィナ。たった今、いつでも戦えると口にしたばかりだというのに。


 そんな俺もリィナが覚えた恐怖に気付かされていた。

 木々をなぎ倒すような音が森に響いている。加えて、大木を突き抜ける巨大な影が見えていたんだ。


「最低だ……」


 絶対にヤバいやつ。生い茂る木々よりも大きな図体。それほどの巨躯を誇る魔物は数えるほどしかいない。


「キングオーガだなんて……」


 巨大な人影に角のようなものがある。それは恐らくキングオーガだ。巨人種と呼ばれるものの中で、最大級の体躯を誇る魔物であった。


「殿下、逃げましょう!」


 悩みどころであった。

 ワーワー的な魔物では何匹倒してもレベルは殆ど上がらない。しかし、キングオーガならば、一度に十以上も上昇が見込める。


 問題はリィナがトドメを刺せるかどうか。彼女が仕留められないのであれば、危険を冒してまで戦う意味はないように感じる。


「最悪の場合は俺が倒す。比較的街に近いし、討伐しておくべきだろう」


「殿下、私は怖いです……」


 やはり女の子だもんな。森の木々よりもデカい相手を倒すのだとか、俺も無茶を言っていると分かる。


「なら、勇気を与えてやろうか?」


 言って俺はリィナの頬に触れる。もう既にリィナも察していたことだろう。


「お願いします……」


 目を閉じるリィナに俺は口づけをした。

 愛の力は偉大だ。窮地にあったとして、愛さえあれば何だってできる。


「リィナ、戦えるな?」


「もちろんです!」


 俺たちは愛を確かめ合ったあと、剣を抜く。

 しかし、俺たちの三文劇に苛ついたのか、キングオーガは発狂したような声を上げた。


「ヴォヴォヴォォッ!!」


 いっちょ前に嫉妬してるのか?

 まあでも、お前は嫉妬するよりも、これから先の未来について憂えておけ。


「いくぜっ!!」


 俺は颯爽と斬りかかっていた。

 半殺しにさえしておけば、リィナがトドメを刺せるはずと。


 強敵と言っても、魔将軍や竜種ほどではない。

 俺の剣技はキングオーガを圧倒している。かといって、その巨躯が問題だ。何しろ、すねの辺りまでしか剣が届かないのだ。


「腰布だけの野蛮な巨人に負けられねぇ!」


 かつての自分を彷彿とさせたが、それはそれ。俺はバフスキルを使用して、再び斬りかかっていく。


 閃光一閃。俺の一撃はキングオーガの膝下を斬り裂いた。大木のような足首を一刀にて身体から切り離してしまう。


「リィナ、倒れるぞ!」


「了解しました!」


 まるで木こりにでもなったような気分だ。足首を失ったキングオーガは木々を押し潰しながら、倒れ込んでいく。


 不意に視界を覆う影。それはキングオーガが腰に巻いていた魔物の毛皮に他ならない。


「腰布仲間でも容赦しないぜ!」


 今や全裸となったキングオーガ。親しみすら感じてしまうけれど、俺は倒れたキングオーガの両足を膝下から斬り落とす。加えて攻撃できないように、両腕も完全に無効化していた。


「あとは討伐寸前まで痛めつけるだけだな」


「殿下、凄いです! 私、惚れ直しました!」


 どうやら我が愛しのラッキーエンジェルは俺に首ったけのよう。勇ましい俺に惚れ直したとか何よりだ。


「待ってろ、もう少し痛めつけておく」


 やはりトドメを刺すのなら急所狙い。

 俺はオーガの胸に飛び乗って、硬い皮膚を斬り裂き始める。レベルが12しかないリィナでも長剣を突きつけられるように。


「こんなもんだろ?」


 切り裂いた胸の傷口から血が噴き出していたけれど、まだ俺はレベルアップしていない。つまりキングオーガはまだ生きているはずだ。


「リィナ、早く!」


 彼女の手を引き、キングオーガの胸の上へと。

 噴水のように噴き出している血は気になるだろうけど、今は身だしなみとか考えている場合じゃない。


「剣を突き立てろ!」


「はい、殿下!」


 切り分けた肉の隙間。リィナは思い切り細剣を突き刺していた。

 もっと奥に。出来る限りダメージを与えるんだ。


「グチャグチャにしてやれ!」


 俺の指示でリィナは突き刺した剣を無理矢理に動かしている。手を貸したいところだが、ゲームではトドメを刺した者にしか経験値が入らないのだ。


「引き抜けぇぇっ!!」


 狙ったのはキングオーガの心臓だった。リィナが剣を引き抜くと、これまで以上に血が飛散することだろう。


「きゃぁあああ!」


 流石にマズい。河川が決壊したかのような水流というか血流。俺はリィナを抱きかかえながら、キングオーガの胸から飛び降りていた。


「浄化!」


 即座に距離を取り、神職者にジョブチェンジ。直ぐさまリィナにかかった血を洗浄している。


 呆然としているリィナ。恐らく今頃は通知が届いているはずだ。


「凄い。レベルが29まで上がりましたよ!」


 最初は上がりやすいからな。フライリザードでさえ、十以上もレベルアップしたのだし。


「よし、これなら今日中にレベル50も狙えるかもな?」


「それは無理ですって!」


 二人して笑い合う。

 完全なパワーレベリングだけど、俺たちは使命を背負う者。綺麗事ばかりで成し遂げられるはずもない。


「でも、私よかったです!」


 キングオーガの亡骸を見上げながら、リィナが言った。

 感慨深いのだろうか。それとも俺が側にいるということか。いずれにせよ、彼女はこの現状が良かったと口にする。


「殿下のがこんなに大きくなくて……」


「巨人と比べないでぇぇっ!」


 何のことはない。リィナは剥き出しのキングオーガのアレについて感想を述べただけらしい。


「本当に良かったと思ってますよ?」


「大きさじゃないだろうな?」


「そんなんじゃないです。殿下は誰にでも気さくで優しいですけれど、私に対してはもっと優しい。殿下が側にいてくれて、本当に良かったです」


 ヤバい。王子と侯爵令嬢という関係は割と距離を感じていたんだが、俺に対する愛は何も変わっていない。敬意の奥側に俺への愛が詰まっている。


 思わずリィナを抱きしめてしまう。

 愛おしくて、可愛らしくて、いじらしくて。


「リィナ、最後まで俺の隣にいろ……」


 絶対に離すものか。

 彼女は俺のもの。生ある限り、リィナの隣は俺が立つ場所だ。


 リィナは小さく頷いてから、俺に返答を終えた。


「承知しました……」

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