第068話 初夜 ~思いを告げて~
私たちはまだ愛し合っているんだ。再び私は殿下の愛を聞かされていました。
病気さえなければと思う。何事もなければ、既に結婚していたかもしれないのです。
互いが互いを愛している。なのに私と殿下はすれ違っていく。私の命が途切れたあとも、彼の人生は続いていくから。
「私も殿下を愛しています」
気持ちを伝えるくらいは許して欲しい。
私だって未練があるんだもの。本当に良くしてくれる殿下に対して嘘など言えるはずがないわ。それに未練を残して死霊化してしまうなんて馬鹿なことだもの。
気持ちを伝えるだけ。
私はそう考えていましたが、思わぬ話を聞かされることに。
「リィナ、あとで俺の寝室に来てくれ……」
えっ? それってもしかして?
瞬時に婆やの金言を思い出す。男性は直接的な目的を告げることなく、遠回しに要求する生き物なのだと。
「ででで、殿下、わたわた、私を……?」
何を口走っているのかな。私って取り乱しすぎ。でも、今回に限っては勘違いじゃない。
殿下は私を求めている――。
私は確信していました。夜に寝室まで呼び寄せる理由が他にあるはずもないのだから。
「皆まで言うな。今夜は少し冷えるだろ? 俺のベッドを暖めてくれ」
やはり濁して要求しているのだわ。
婆や、ありがとう。おかげで私は殿下の欲求に気付けたみたい。
「承知しました。熱くなりすぎて眠れなくなっても叱らないでくださいね?」
私も濁して答えています。きっとこれが大人の遣り取り。婆やが話していた夜の駆け引きに違いない。
「待ってるよ。君が俺の全てだ……」
あ゛あ゛あ゛あ゛っ!
私はこんな今も女として見てもらえている。
正直にフィオナ殿下のご尊顔を拝見したときには太刀打ちできないと考えていたのに。
「末永くとは申し上げられません。しかし、今宵くらいは愛でてくださいまし」
百点満点じゃない?
ひょっとして私は夜の女王なのかもしれない。完璧な受け答えができたはずよ。
このあと私たちは食堂をあとにし、各々が部屋へと戻っていく。
準備をしたあと、いよいよ愛の行方が決定する。
男女が覇権を争う夜の頂上決戦。大勝利を収めるのは私よ……。
◇ ◇ ◇
俺は先に湯浴みをして、リィナを待っていた。
心配された愛剣の調子だが、錆びるどころか既に鞘を捨て去り、今にも斬りかかってしまいそうなほどに昂ぶっている。
「ヤバい。暴発しちゃうかも……」
前世界線からは考えられないほどに漲っていた。既に全開なのは恥ずかしいけれど、役に立たないよりはマシだろう。俺はその惨めさを充分に味わってきたのだし。
「ようやくリィナと……」
不意に部屋の扉がノックされる。
リィナの準備も整ったみたいだ。恐らく彼女も湯浴みを済ませていることだろう。
応答すると、扉の向こうからリィナが現れた。
薄手の寝間着に真っ白なガウンを羽織っている。
その様子には本当に安堵していた。
割と濁して話していたんだ。けれど、俺の真意はちゃんと伝わっているらしい。
「リィナ、こっちへ来いよ」
「はい、殿下……」
落ち着け俺。落ち着けって相棒!
お前、そんなにマウンテンになっていたら、リィナがビビってしまうじゃないか。
静かにベッドへ腰掛けるリィナ。蝋燭のか細い灯りに照らされる彼女の横顔は本当に美しい。
フィオナと比較すると幼さを過剰に残しているけれど、俺はやはりリィナが良かった。心から愛していると断言できる。
リィナこそが俺の全てだ。自身の命や世界を天秤にかけたとして、俺は彼女を選んでいることだろう。
「リィナ、事を急いで悪いと思っている。だけど、俺は君を抱きたい」
ここで明言しておく。
俺はお茶に誘ったわけではなく、話し相手を求めているのではないのだと。
「いえ、とても嬉しいです。まさか婚約破棄したあとで、このようなことになるなど夢にも思いませんでしたから」
俺はリィナのガウンを脱がせていく。薄い生地の寝間着は彼女の下着まで露わにしていた。
ヤバい。美しすぎる。
特に下着があり得ない。上も下もレース生地でスケスケじゃないか。
「エエエ、エッチな下着持ってたんだな?」
俺は何を言っているのだろう?
ここはロマンティックに攻めるべき場面だというのに。
「登城することになったとき、婆やが持たせてくれたんです。ここぞというときに穿きなさいと」
まぁたエロ魔王の婆やか。
しかし、今宵の相棒はそれくらいでへこたれない。今もガンガンに血流が漲っているのだから。
「よよ、よく見せてくれ……」
俺の返答に頷くと、リィナは寝間着のボタンを外していく。
露わになっていくのは前世界線以来の透き通るほど白い肌。下着もスケスケなのだから、もう全裸だといっても過言じゃねぇな。
「リィナ、綺麗だ……」
「ありがとう……ございます」
俺たちは互いが初めてなんだ。
過度に緊張している俺の手はボタンを外すのにも手間取ってしまうし、対するリィナもしどろもどろで視線を激しく動かすだけだ。
何とか衣服を脱がせたあと、俺はリィナと口づけを交わす。
並行世界に気付いてから、どれだけこの夜を待ちわびたことだろうか。
色々と脳裏に去来する記憶は経験したものと改ざんされたものとが入り混じっていたけれど、どちらも俺の気持ちを昂ぶらせるだけであった。
この夜、俺はリィナを初めて抱いた。
弱々しい光を放つ彼女の運命と、初めて俺は交差したのだ。
俺にとって初めての夜はとても甘美で、酔いしれる理由しか存在しない。
いつ何時、思い出したとしても、この記憶は永遠に強い輝きを発しているだろう。きっと並行世界の俺だって祝福してくれていると思う。
愛する人を愛した。
愛する人に愛された。
そんな夜だった。




