第065話 フィオナの決意
わたくしは皇都ミラグレイスまで戻ってきました。
道中はずっと泣き続けたわけですが、今はもう気持ちを切り替えています。
「お父様!」
無作法にもノックすらせずに、お父様の執務室へと入ります。
「おお、フィオナ。戻ってきてくれたか!」
暢気な顔を見ると、流石に苛っとしますわね。
わたくしは愛する人に命を助けられ、逃げ延びてきたというのに。
「お父様のことは大嫌いですわ!」
ずっと言いたかった。わたくしの気持ちを確認することなく、破談にしてしまうなんて。
急に戻れというものだから、ルカ様が犠牲になったのです。
「藪から棒に……。どうしたというのだ?」
「どうしたもこうしたもありませんわ! お父様が戻れと命じたから、ルカ様が犠牲になったのです!」
そもそも側室に関しては、わたくしが許可したのです。お父様がしゃしゃり出る必要なんてございませんの。
「ルカ殿下が犠牲? 一体どういう話なんだ?」
「わたくしは帰路において、ファイアードラゴンに襲われたのですわ! 大半の兵を失った頃、ルカ様が追いかけてくださり、わたくしたちを逃がしてくれたのです!」
一部始終を説明する。
強大な火球を吐くファイアードラゴンの出現から、ルカ様の登場まで。
たった一人でファイアードラゴンの相手をし、わたくしたちが逃げる隙を作ってくれたことを。
「なんと……。それはまことか!? たった一人で竜種と戦ったというのか!?」
「皇国の誰に同じことができましょう? わたくしはやはり彼のことが好きです。そもそも言い付け通りに戻ろうとしたわけではなく、婚約破棄の撤回を求めようと帰ってきたのですわ」
頭を抱えるお父様。そりゃそうでしょうね。
話し合うことなく一方的に婚約を破棄した結果が、同盟国の王子殿下を死に追いやったわけですから。
「お父様は出来る限りの賠償を願いますわ。あと、わたくしはもう誰とも結婚いたしません。一生涯純潔を守りたいと存じます」
困惑するお父様ですが、言いたいことはまだあります。
泣き続けたあと決意しました。わたくしは強くなろうと決めたのです。
「わたくしは双国立騎士学校へと入ります。ルカ様が望んだ平和な世界を築く。魔国との戦いに加わるつもりですの」
戦う動機を得たのですわ。
わたくしはルカ様の分も戦わねばならない。アンナも協力してくれるというし、絶対に強くなってみせます。
「いかんぞ! それは認められん! お前は我が国唯一の後継者なのだぞ!?」
「知りませんわ! お父様の大嫌いな側室に新たな皇子でも生ませたらどうでしょう? わたくしはわたくしの意志で生きる。ルカ様に生かされたこの命をルカ様が望んだことに使うのですわ!」
未だかつて、これほどまでに意志を明確にしたことなどありません。
今までのわたくしはお人形にも等しい。適切な身分の殿方を婿に迎え、愛を知ることなく皇国のために生きるだけ。子をもうけるだけのお人形でした。
「フィオナ、考え直してくれないか?」
「知りません! わたくしの希望を汲んでいただけなかったというのに、わたくしが考え直すとお思いですか? わたくしは強い女になるのです。女神の使徒として世界を救うために」
これで良いの。
この世を穢すものは魔物も魔族も殲滅する。それが残されたわたくしの務め。逃がされたわたくしの人生に課せられた責務なのです。
執務室をあとにしたわたくしは決意を新たにしていました。
「ルカ様、絶対に強くなってみせますから……」




