第063話 再び交差する運命
「間に合えぇぇっ!!」
俺は火球を吐くファイアードラゴンに飛びかかっていた。戦法とか考えていなかったけど、一刻の猶予もなかったんだ。
「クソがぁぁっっ!」
力一杯に愛剣を振り下ろす。
それ以上、火球を吐くんじゃねぇ。てめぇの先にいる人は大切な人なんだよ!
「フィオナァァアアア!」
颯爽とドラゴンの眼前に立つ。
俺はようやく追いついていた。彼女がまだ生きているうちに参戦できたんだ。
「ルカ様!?」
とりあえずは良かった。
俺は謝罪を並べるつもりだったが、この場面でできる償いはそれじゃない。
「逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!」
「嫌ですわ! わたくし、貴方様にまた会いたいと願っていたのです!」
まったく上手くいかねぇな。俺は恐らく時間稼ぎしかできないってのに。
俺には烈火無双があったけれど、ファイアードラゴンに対しての効果は限定的。火属性である烈火無双はトドメを刺すまで至らないはずだ。
「フィオナ、俺は君に謝りたい。酷く傷つけたことだろう」
「そんな!? わたくしこそ申し訳ございません! 必ずやお父様を説得しますから!」
「その必要はねぇよ。もはや俺たちはここまでだ。早く馬車を動かせ……」
再びドラゴンに斬りかかっていく。せめてフィオナが逃げ切れるまで。
俺は消し炭になったとして、剣を振り続ける必要がある。ただ贖罪のためだけに。
「ルカ様、援護します!」
「駄目だ、逃げろ! 近衛兵、馬車を動かせぇええ!」
「貴方様を置いて、逃げたくありません!」
何て聞き分けの悪い姫君なんだ。
俺は最善を選択している。今回に限り、間違いはない。
だから、声を張るんだ。強情な姫君に言いきかせるように。
「逃げろっつってんだろ!!」
◇ ◇ ◇
わたくしは怒鳴られていました。
流石に戸惑う。わたくしも戦いたいと考えていますのに。
「殿下、ルカ様が仰る通りです。馬車を動かします」
「駄目よ! ルカ様はわたくしの想い人。一人で戦うなんて容認できません!」
もう既にファイアードラゴンの強さは身に染みて理解できました。
二十人からいた護衛を一瞬にして消し去ってしまったのです。だからこそルカ様一人に押し付けるなんてできません。
「分からないのですか? 殿下は邪魔なのです。殿下が逃げなければ、彼は馬車を意識して戦わねばなりません。ルカ様は最善を選択していることと存じます」
「わたくしが……邪魔……?」
少しも考えていないことでした。
わたくしは女神様の使徒でありましたが、今まで戦闘経験など積んでいません。
だって、皇女なんですもの。わたくしが戦う必要性はなかったのです。
「殿下は弱いのです。そして彼は強者。見てください。強大な竜種と互角に張り合っておられます」
確かにルカ様は素早く斬り付け、攻撃を凌いでおられます。もしも、わたくしがこの場を離れたのなら、全力で戦えるのかもしれません。
意図せず唇を噛む。
どうしてでしょうか?
わたくしは皇女であり、守られる立場。なのに感情が燻る。当たり前のことを享受しようとしているだけなのに、自身に対して苛立ちが募る。
「アンナ、わたくしは悔しいです……」
「出発しますよ? ルカ様の行動を無駄にしてはなりません」
忸怩たる思いで頷いている。
わたくしには何もできないと分かったから。
どうして今まで守られるだけであったのか。自身の無力さと思慮の浅さが浮き彫りになった。
情けなくて悔しくて。
涙が堰を切ったかのように流れ始めています。
愛する人と共に戦うことすら許されないなんて。わたくしはどれほど無知で無力なのでしょうか。
「わたくしは強くなりたい……」
この悲しみと悔しさを決して忘れはしない。
最悪の結末を迎えたとき、わたくしは立ち直れないことでしょう。
けれど、今は引くしかない。何もできないわたくしが残っても邪魔でしかないのなら。
過度に後ろ髪を引かれながら、わたくしたちの馬車が動き始めました。




