表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/95

第062話 窮地にあって思う

 お父様に婚約破棄を命じられ、わたくしは失意の中で帰国の途に就いております。


 全てを伝えたことを後悔するしかない。側室については、わたくしが提案したことですのに。


「フィオナ様! 上空にドラゴンが飛来しております!」


 溜め息ばかりついていたわたくしに、後方の車列から大きな声が届く。


 え? ドラゴンってなんですの?

 飛来ってどういうことです?


「嘘っ!?」


 大空を覆うような影。途轍もなく巨大な影が上空から迫っていました。


 どう考えても、わたくしたちの車列を狙っている。荒野を真っ直ぐに伸びる街道には、わたくしたちしかいないのですから。


「姫様の馬車を前に! 兵は下車をし、足止めを!」


 瞬時に近衛兵のアンナが命じます。

 足止めとはそのままの意味なのでしょう。あれ程までに巨大な魔物を討伐できるはずもないのです。


「アンナ、わたくしにできることはございますか!?」


「殿下はこのまま乗車していてください。兵たちがどれだけ持つのか不明です。出来る限り、距離を取ります。見逃される可能性にかけるしかありません」


 どうやら兵たちが助かる見込みはないみたいです。アンナは彼らを犠牲にして、わたくしを逃すつもりのよう。


「わたくし、精霊術の力を女神様より与えられておりますの!」


「殿下は戦闘経験などないでしょう? 付け焼き刃の戦法でどうにかなる相手ではありません。自重してくださいまし」


 一瞬のあと、後方に火柱が立ち上りました。

 それはまるで炎の壁。足止めをするという数台の馬車は瞬く間に焼かれています。


「これは……?」


 何という運命の悪戯でしょうか。

 お父様に帰国を命じられていなければ、今もわたくしはクリステラ王城にいたのです。好きになった人の隣で笑っていたことでしょう。


「ルカ様……」


 意図せず涙が零れてしまう。

 わたくしは命じられたから帰国したわけではなかったのです。お父様に考え直してもらうよう、わたくしの想いを洗いざらいぶつけるつもりでした。


 しかし、再婚約どころか生き抜く未来すらないみたい。わたくしも兵たちと同じように焼かれる運命なのでしょう。


「殿下、次は私が足止めしてみます。必ず生きて皇国までお戻りください」


 絶望的だと考えていましたが、アンナはまだ運命に抗うつもりのようでした。


 身体が芯から震えている。

 アンナ一人が立ち塞がったとして、結果は先ほどと同じ。

 だとすれば、わたくしは怯えているだけでなく、動いていくべきだと考えます。


「アンナ、あのドラゴンに効く魔法はございますか?」


「殿下、あれはファイアードラゴンです。弱点属性は水か氷。雷も比較的効果があるでしょう」


 アンナは弱点について知らせてくれますが、生憎と彼女は魔法剣士でありながら該当する属性の魔法を使えないようです。


「承知しましたわ。わたくしはエレメンタルタクトを使用します」


 エレメンタルタクトはわたくしが加護として授かった固有スキルです。

 一日に一回しか使えないのですが、他の召喚術とは異なって大精霊を喚び出すことができるみたい。


 大精霊の力を借りたのであれば、追い払うことくらいはできるかもしれません。今は躊躇している場合ではございませんの。


「エレメンタルタクト!」


 水の大精霊様、どうかお願いします。

 わたくしたちに力を貸してくださいまし。巨大な魔物を追い払うだけで構いません。せめて、残された兵たちをお守りくださいまし。


 後方の馬車を殲滅したファイアードラゴンは地平の先まで届くような咆吼を上げていました。


 それはもう戦果を誇るように。わたくしたちを威圧するかのように。


「早く! 早く顕現してください!」


 身体から魔力が抜けていく感覚のあと、刹那に視界が輝きを帯びました。

 それはまるで脳裏に女神様が顕現したかのよう。


 青白い光を発したそれは願いの通りに水の大精霊ウンディーネでした。しかし、ファイアードラゴンは再び火炎を吐こうというのか、大きく口を開いています。


「お願い、わたくしたちを助けて!」


 瞬時に視界が赤く染まる。

 それはファイアードラゴンが吐き出した火球に他なりません。


 思わず目を瞑ったわたくしですけれど、まだ意識があると気付く。

 両手両足の感覚もありますし、何より痛くもなかったのです。


「ウンディーネ!?」


 恐る恐る目を開けたそこには水の壁ができていました。

 どうやらウンディーネは水壁によってファイアードラゴンの火球を封じたみたい。


「攻撃はできますの!?」


 わたくしの声は届いているのかしら?

 ウンディーネは返事も頷きもしません。


 けれど、彼女は手の平をファイアードラゴンに向け、何やら詠唱を始めているようです。


「殿下、ひょっとして勝てるやもしれません!」


 アンナが叫んだ刹那のこと、ウンディーネの水球がファイアードラゴンに命中しました。


 大雨のような水しぶきが舞い散る様に、アンナは勝機を見出しています。


「うそよ……?」


 ところが、ファイアードラゴンは無傷でした。

 明確に弱点属性であったというのに、再び巨大な口を開いて、火球を吐こうとしています。


「アンナ!?」


 わたくしの呼びかけにアンナは首を振っていました。

 その意味合いを推し量ること。それは決して難しいことではありません。


 エレメンタルタクトがわたくしたちの生命線なのです。ウンディーネの攻撃が効かないとなれば、追い払うことなどできないのですから。


 ウンディーネは再び水壁にて防御。此度も持ち堪えてくれましたけれど、防戦一方ではいずれ破綻する。


 わたくしの魔力が尽きるや、ウンディーネは消えてしまう。そうなると一定の結末しか、わたくしたちには訪れないのです。


 対するファイアードラゴンは連続して火球を吐く。

 わたくしたちに対する慈悲は少しもないようです。こうしている間にもウンディーネの水壁が削られていく。もう幾ばくと持たないことでしょう。


「ルカ様、わたくしは……」


 もう一度、会いたい。

 お会いして謝罪したい。

 想いを余すことなく伝えたい。


 儚い恋でしたの。


 一目惚れをした瞬間に覚えた感情はこの世界にわたくしが残した唯一の輝きであり、同時に未練でもありました。


 せめて、もう一度お会いしたい。

 愛を語らい合いたかった。


 あの方に全てを捧げて、幸福を手にしたかったのです。


 今際のきわにあり、わたくしはもうルカ様のことしか考えられなくなっていました。


 もう一度だけでも――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ