第060話 一致する思惑
俺は結婚することになってしまった。
リィナが聞けば卒倒しそうな気もするけれど、それは彼女のためでもある。
どうせ時間の問題でもあるし、前倒しにして悪くなる現状は一つとしてなかった。
「それでフィオナ、俺は君に頼みたいことがある」
結婚の約束をしたことだし、少しくらい要求しても構わないだろう。
戦場に出て欲しい。たった一人の後継者であることは知っているけれど。
「分かっておりますわ。ルカ様のことは全て承知しておりますの。元より、戦いは覚悟しております」
前世界線で伝えたからだろうか。彼女は戦場に身を置くことを覚悟しているらしい。
「ベッド上での仁義なき戦いについては……」
「ちがぁぁぁう!!」
どうやら美の女神の成分が出てしまったようだ。やはり本質はシエラが語ったままなのかもしれない。
「俺は君が戦場で戦うことを望んでいる。イリア様に聞いていないか? エクシリア世界は考えているよりもずっと、終末へと進んでいるのだと」
「本気なのでしょうか? 大戦への参加が許可されるとは思えません……」
まあ、そう考えるわな。
俺が知る世界線でもアークライトの死が背景にあったのだ。しかし、裏を返せば、フィオナの強い意志が反映されるということでもある。
周囲を黙らせるほどの決意をフィオナが露わにしたのであれば、きっと叶う未来だと俺は考えていた。
「許可されるよ。それは君次第だ……」
「わたくし次第?」
「俺は四月から双国立騎士学校へと入る。女神の使徒として世界を救うんだ。誰が止めたとしても、それだけは譲れない」
彼女も使徒であるのなら使命に気付いているはず。皇女殿下だからと、逃げられる道ではないのだと。
「貴方様は王子殿下なのですよ? 王家の務めはアークライト殿下が成されるはず」
「表向きの話じゃない。俺は王家とか関係なく、救世主として選ばれた。戦える加護を持つというのに、安全な王城で庇護されているなんて嫌だ」
俺の話はそのままフィオナにも当て嵌まる。立場と使命のどちらを取るかで、存在場所が明確になるってこと。
「精霊術士が共にいたのなら本当に助かる。もし君が戦わないというのなら、俺は死を覚悟しなければならなくなるだろう」
「脅しですか? それに君とかいわないでください……」
要求を投げかけるだけでは駆け引きとはいえないんだ。
よそよそしい呼ばれ方が気に入らないのであれば、相手の要求も汲むべきなんだぜ?
「もしも揺るぎない愛があるのなら、それを俺に見せてくれ。君の覚悟と生き様。そのとき俺は君の気持ちに応える用意がある」
フィオナは逡巡したあと、頷きを見せた。
どうやら彼女も覚悟が決まったらしい。
俺は命をかけて戦うだけ。俺と共に歩むというのなら、彼女がいる場所は安穏とした皇城ではない。魔物がうごめく戦場こそ、フィオナが存在する場所だ。
「承知しました。わたくしはルカ様と共に歩みます。たとえ地獄へと繋がる回廊であろうとも、わたくしは臆せず隣にいることでしょう」
やはり強い女性だ。こんなにも早く決断できるなんて。
またフィオナの想いが本物なのだと分かる。俺がリィナを救いたいように、彼女もまた俺を失いたくないのだと。
「ですが、二度と君だなんて呼び方はお止めください。わたくしは悲しいです。如何なる時もご一緒します。一生涯を貴方様に尽くす所存ですの。だからこそ、わたくしのことはこれから先ずっとフィオナとだけお呼びくださいまし」
どうやら名を呼ばれることは彼女にとって特別な意味を持つらしい。
俺は別に深い意味で言葉を選んでいなかったけれど、フィオナが望む通りにしたいと思う。
「分かった。フィオナ、君の決意に感謝する」
「また言いましたよ?」
おっと、失礼。かといって、別によそよそしさはなかっただろう?
「名前も呼んだだろ? つっかかんなって……」
俺たちは笑い合った。
どうやら俺もまた彼女のことを受け入れているみたいだ。
少しの打算もなく笑い合える人は俺の妻であり、心を許せる一人であることを明確にしていた。
「ルカ様、わたくしは幸せになりたいです」
「ああ、その責任は俺にあるな。任せておけと言っておこうか……」
本来なら俺は主人公ポジじゃないというのに、ヒロインの二人に好意を寄せられている。加えて、それが宿命であるかのように、彼女たちの想いを俺は受けてしまった。
こうなったらどこまでも背負ってやろうじゃないか。
ヒロイン総取りエンドなんて考えもしなかったけど、俺は世界を救った上で彼女たちも守り切る。
とまあ、俺はそんな風に軽く考えていたんだ。




