第056話 大聖堂にて
二人してクリステラ大聖堂へと到着。馬車を降りるや、俺は民衆から声をかけられていた。
前世界線では考えられない話だけど、改変された記憶によると俺は第二王子でありながら臣民の支持を得ているらしい。
「やはり殿下は大人気ですね?」
「茶化すな。俺は第二王子でしかない」
兄であるアークライトとは仲が良くない。
それはシリウスとの関係が引き継がれた感じ。俺には改ざんされた記憶しかなかったものの、その記憶によってアークライトの印象は最悪になっていた。
大聖堂へ入ると、直ぐさまグラハム教皇が迎えてくれる。お忍びだというのに、王族はどこまでも優遇されているな。
「グラハム教皇、祈りに来ただけだ。特別な計らいは必要ない」
「流石はルカ殿下です。女神様への祈りを欠かさないとは感服いたしました。殿下が三柱女神の加護を独占されたのも頷ける話です」
「それ以上はいうな。俺の祈りに他意はない」
教皇は三つの加護を持つ俺が王太子になって欲しいのだろう。やたらと持ち上げてくるのは聖七神教会の威信を高める意味合いもあるはずだ。
俺は女神像の前へと跪き、祈りを捧げる。
(マルシェ様でお願いします。マルシェ様で……)
頼むから面倒なことにならないでくれ。
今はまだ朝の十時。シエラは恐らく眠っているはずだ。
「やあ、ルカ! 会いたかったよぉぉ!」
残念ながら、俺の願いなんか聞いちゃいねぇな。平然と現れたネルヴァに俺は薄い視線を向けている。
「てめぇ、俺の祈りを聞いていたのか?」
「聞いてたけど、僕はこの世界線を望んだ女神だよ? 現状の報告とか助言とか必要でしょ?」
まあ確かに。
会話したこともないマルシェ様より、ネルヴァの意見を聞くべきかもな。
「なら現状はお前が考えた通りか?」
まずは現状の考察から。
俺としては考えていた以上のことは起こっていない。驚いたのは過去にリィナと許嫁関係であったことくらいか。
「まあね。世界が矛盾を解消しようとするだけだから。適切な改変が成されると考えていたよ。概ね予想通りだ。ルカにとっても、そこまで悪くない状況だろう?」
「確かにな。侯爵令嬢のリィナが側室とか気の毒だけど、彼女との接点が残っているのは有り難い。俺はそれだけで頑張れる」
やはり現状はネルヴァが望んだままらしい。
俺でさえ予想できた改変なのだ。ネルヴァが想像できないなどあり得なかった。
「じゃあさ、改変に関してだが、シエラの助力なしでジョブだけを奪うことはできたのか?」
あの悪夢にあった世界線。俺はリィナにディヴィニタス・アルマを使った。
しかし、リィナは聖女として存在したままであり、ゲーム内のルカが奪ったのは彼女の悲運だけであったのだ。
「それは無理だ。熟練したとして使徒には不可能だろう。基本的にジョブと運命は紐付けされているからね」
ゲームの俺は最初からあの呪文を覚えていたけれど、最後の場面しか使うシーンはなかった。加えて俺はかなりレベルを上げたというのに、ディヴィニタス・アルマ以外のスキルを覚えていない。
「ルカが考えているような真似は難しいよ。どうしても次に使う必要があるのなら、シエラを説得するしかないね」
どうしてもシエラ頼みとなるのか。
確かに、あの呪文は世界を大きく変えてしまう。ただのルカであったならまだしも、今や俺は王子殿下。今後使うことがあるのなら、世界を歪ませないようにしなければいけない。
「現状で考えるべき事じゃないよ。君は原初の三女神の加護を手に入れたんだ。きっと世界を救える。前を向いて行きなよ?」
「やたらと肯定的なのな?」
「そりゃそうだよ。もうシエラの暴走を止められる。僕たちは三柱で一つ。マルシェが加わったおかげで、シエラと対等になれたんだ」
やっぱ悪の女神シエラは確定っぽいな。元々は善の女神とのバランスを取るための一柱だと思うが、今や逆の構図になっているみたいだ。
「マルシェ様と話がしたい。構わないか?」
ここで俺は話を切り出す。祈りを捧げた理由はマルシェ様の話を聞いておくことなのだ。
現状はネルヴァの思惑通りみたいだし、彼女の意見をこれ以上聞く必要はなかった。
「もちろん。マルシェもそれを望んでいる。やはり代替だったシリウスよりもルカが良かったみたいだ。圧倒されないようにね?」
何だか不穏な話じゃないか。俺はネルヴァでさえ圧倒されてんだけど。
「押しが強いのか……?」
「普段はそうでもないんだけどね。何というかルカは女神ウケが良すぎるから」
またそれか。俺だって好きで魅入られてるわけじゃないっての。
こうなると俺は覚悟するしかない。ネルヴァ曰く、圧倒されるという女神様との邂逅に。
「愛しのルカ、また会おうね。これより君が世界を救う。もう誰も異論はないと思うよ」
言ってネルヴァの身体が薄く消えゆく。
交代で降臨するしかないのだから仕方がないけれど、俺はまたもや新たな女神様との出会いから始めなければならない。
一瞬、視界がブラックアウトしたあと、再び眼前が煌めきを帯びる。
エメラルドグリーンに輝く光の粒。それらが中央に集まったあと、人影が浮かび上がっていく……。




