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第052話 錬金術士ミリア

 翌朝、メイドが俺を起こしに来てくれた。

 どうやら皇王陛下たちと朝食を取るという話みたいだ。


「俺は下位貴族なのに陛下と差し向かいで朝食ってか……」


 メイドに連れられて会食の席へと向かう。億劫に感じるけれど断れないのだからしょうがない。それこそ俺は王国の下位貴族でしかないのだし。


「朝からすまないな。どうしても話がしたかったのだ」


 席に着くやイステリア皇王陛下が言った。


 まあ、そうでしょうね。娘がどこの馬の骨かも分からぬ下位貴族と付き合いたいだなんて話をしたのであれば。


「昨晩は非常に驚いた。娘がイリア様の使徒であるのは知っていると思う。美の女神イリア様は我が国に力を与えてくださる一柱なのだよ」


 頷く俺に対し、陛下は尚も続ける。

 ここまでは予想したままだ。何の問題も俺にはなかった。


「まさか貴殿との婚約をイリア様が告げられていたとは……」


「問題ありすぎぃぃ!!!」


 おっと、いけない。思わず声を張っちまったぜ。

 まさかフィオナが嘘を言って陛下を丸め込むだなんて予想すらしていない。


「えっと陛下、その話は……」


「イリア様は仰ったのですわ! 世界を救う勇者様と番になること。それがイステリア皇国の反映に繋がるのだと!」


 フィオナは俺に意見させないつもりらしい。あくまで天命であるとして、この難題の結末を操ろうとしている。


「アークライト殿下との婚約はいい話であったのだがな。天命ならば王国も分かってくれるだろう。古来よりイリア様の命は絶対なのだ。新たな婚約者はルカ・シエラ・アルフィスとする」


 ああ、勝手に話が進んじゃったよ。


 非常に由々しき問題だな。俺はこのあとミリアに会うだけじゃなく、リィナと共に帰路を過ごさねばならないというのに。


「皇王陛下、考え直すなんてことは……?」


「ルカよ、別に恐縮する必要はない。女神イリア様の神託であれば従うだけなのだ。イステリア皇国に女神様の加護あれ!」


 駄目だこりゃ……。

 俺如きが口出しできる状況じゃない。


 まあしかし、ネルヴァが望んだ結末に近いかもしれん。

 少なからず、この世界線の情報は引き継がれるという話だ。次なる世界線において、フィオナを騎士学校に引き入れる可能性が高まるというもの。


 このあと黙々と朝食を取ったのだが、デザートを食べている頃合いに執事がやって来た。


「陛下、ミリアなる侍女の判定が終わりました」


 どうやら俺の目的は達せられたようだ。

 数日かかると話していたけれど、朝一で約束を果たしてくれたらしい。


「ほう、結果はどうなんだ?」


「仰られていた通りでございます。ミリア・マルカリオンは愚者の女神ルシアン様の使徒であり、ジョブは錬金術士でした」


 瞬時に、陛下たちがオオッと声を上げる。

 俺の話はまるで信用されていないのな。娘の与太話は問答無用で受け入れていたのに。


「皇王陛下、早速ですが話をさせて頂いてよろしいでしょうか? 俺の目的はミリアという錬金術士と会うためなのです」


 ふむっと頷いたような皇王陛下であったが、直ぐさま表情を厳しくした。


「フィオナとの婚約をするついでだったな!?」


「ああいえ、そういうわけでは……」


「婚約をするついでだったな!?」


「ソ、ソウデスネ……」


 圧がやべぇよ。とてもじゃないが否定できそうにない。こうなるとミリアに会ったあと、直ぐさま王国へ戻るべきだろうな。


 何とか朝食の席を脱して、俺はミリアが待っているという小部屋へと来ていた。

 恐らく彼女は使徒であることを初めて知ったはず。ジョブについても知ったばかりであろう。


「初めまして、俺はルカです」


 まずは自己紹介。愚者の女神様がどういった方なのか存じ上げていないが、彼女はシエラの分類によると善の女神様だ。恐らくは何の問題もないだろう。


「あたし知ってます。貴方の代理があたしなんだと聞きました」


 ああ、これもまた良くない感じがする。

 シリウスと同じように代替であったことまで告げられたようだ。


「それは幸運だぞ? 俺なんか死ぬために選ばれたのだし」


「でも、それはなくなったと聞いています。貴方様の魅力が運命を切り開いたのだと」


「それで俺にやっかんでいるのか? 俺は今もまだ同じ運命にいるんだぞ?」


 俺は真意を話しておくつもりだ。

 愛する人がいること。彼女のために死を選ぶことを。


「嘘でしょ? 勇者として世界を救ったのなら、きっと上位貴族になれますよ? なのにどうして死を選ぶのですか?」


「君には分からないかもな。俺はリィナを愛している。だからこそ、彼女の幸せを優先したいんだ」


 俺の愛は世界線を越えて来たんだ。

 本物だと胸を張って言える。並行世界の俺が成し遂げたことを、この世界線の俺も果たしたいだけだ。


 あの呪文の使用こそが俺の愛。他の誰かにリィナを託すことになるけれど、彼女が失われた世界に生きるより、ずっとマシな選択だと信じている。


「そうでしたか……。愚者の女神ルシアン様が気に入られるくらいなので、きっとやる気のない人だと考えていました」


「分かってくれたら良いよ。俺は何も望まない。愛する人が生きるだけで良い」


「ある意味、それって愚者ですよね? でも、その気持ちは分かります。自分に価値を見い出していない人が愚者なのかな?」


 愚者とは読んで字のごとく愚かな人間のことだ。

 愚者の女神が愚かさを見い出しているのなら、俺や彼女は愚者なのだろう。


「じゃあ、愚者の先輩です。それで、あたしに用事って何でしょうかね?」


 笑顔でミリアが言った。

 切り替えの早さは助かる。弁明を並べ続ける必要がないのだから。


「女神様から錬金術については聞いたか?」


 正直にミリアについて俺は良く分かっていない。

 戦闘員として不向きであった彼女を俺はあまり育てていなかった。主要キャラは概ね最強スキルを得られるレベルまで上げていたけれど、ミリアは回復薬の生産要員の枠を出ていないのだ。


「お伺いしました。私は天則履行というスキルを授かっています」


 天則履行はレシピがなくても錬成できるスキルらしい。最強のスキルにしてはイマイチな効果だと思う。


「なるほどな。まあレシピなしっていうのは有能なのかもしれん」


「期待外れでしたか? それでは何を期待されていたのですか?」


「いや、錬金術はよく知らないんだ。恐らく君が授かったスキルは錬金術士において、最高のスキルだと思うよ」


「だと良いのですけれどねぇ?」


 一拍おいて、二人して笑う。

 うん、ミリアは付き合いやすいな。シリウスやフィオナとは明確に異なる。同じ下位貴族であることも親しみを覚えるところだ。


「まだ試したことはありませんが、何を錬成したら良いのでしょうか? 素材が必要みたいですけれど」


 話が早い。かといって、俺たちには二つの希望があった。


 一つはリィナの病気を治すか、延命させる何か。もう一つは俺の相棒が復活する薬だ。


「もちろん、精力……」


「精力?」


「ああいや、魔力循環不全という不治の病に効く薬が欲しいんだ。俺の相方はあと二年しか生きられない」


 俺は魔力循環不全の説明をした。

 天則履行は無理難題を叶えるスキルではない。名前の通りに、この世の摂理の中でのみ錬成を許されるもの。


 だが、俺は希望を抱いている。何しろネルヴァが話していたんだ。まだこの世界の医療技術では治せないのだと。


 それは逆に考えると治療できる世界があるということであり、天の理に則っていると考えられるものだ。


「それなら学ばないと駄目かもです。お時間をいただいても構いませんか?」


「資料なら陛下に頼んでくれ。俺の名を出せば用意してくれるはずだ」


 どうあっても俺を婚約者とするのであれば、俺も利用するだけだ。

 この世界線でミリアが魔力循環不全について学んでくれていたのなら、次なる世界線では容易に錬成できるかもしれないのだから。


 俺とリィナが生き残る世界。

 その世界線の扉を開く鍵はミリアが握っているのかもしれない。

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