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第050話 末永く

 リィナが皇城を後にしてから、俺は聞いていた通りに歓待を受けていた。


 イステリア皇や皇妃様たちと夕食を共にし、宛がわれた超豪華な寝室へと来ている。そこは巨大な来賓室であって、めちゃデカい浴槽まで完備していたんだ。


「リィナも意地張らずに、好意を受けていたら良かったのにな……」


 十人くらい眠れそうなベッドに横たわる。


 リィナがいない夜は久しぶりだ。どうせ何もできなかっただろうけど、それでも彼女のことが恋しくなってしまう。


 ウトウトとしていると、不意に部屋の扉がノックされていた。


「あ、はい!」


 俺が応答するや、即座に客間の扉が開かれている。加えて、思いもしない人物が部屋に入って来たのだ。


「フィオナ殿下……?」


 何の用だろう。

 俺たちの要件は既に伝え終えたはず。だから、宴会のあと俺の元を訪れる理由が彼女にはなかったというのに。


「失礼いたしますわ。少しお話がございまして……」


 俺は今さらながらにシエラの話を思い出していた。


 簡単にヤれるわ――。


 えっと、今思い出すことか?

 いや、でもまさかな……。


 無意識に鼓動が高鳴る。だってさ、部屋に入ってきたフィオナは明らかにナイトウェアであり、その上にガウンを羽織っただけなのだから。


 ベッドから飛び起きて、彼女を迎える。

 一応は礼儀が必要だ。まだ俺は子爵家の長男でしかないし、彼女は施政者の娘なのだし。


「ああ、ベッドでよろしくてよ?」


 どうしてか、立ち上がろうとする俺を制止して、フィオナは俺の隣へと腰掛けた。


 流石に視線のやり場に困る。

 何を考えて超薄手のワンピースを着ているのか分からない。滅茶苦茶に透けて見えるんだけど……。


「ななな、何用でしょうか?」


 落ち着け。リィナを裏切るなんてできないし、そもそも俺の相棒は役に立たん。何も起きるはずがないんだ。


 隣に座ったフィオナの髪が俺の腕に触れる。

 美の女神イリア様の色を映したかのような空色をした長い髪。ランプに照らし出される彼女はやはり美の女神の使徒だ。息を呑むような美しさが彼女にはあった。


「そんなに緊張なさらなくても。実をいうとルカ様に興味がございまして、邪魔……いえ、聖女様にはご退場願いましたの」


 やはり俺とリィナを離ればなれにしたのは彼女の意志。俺に興味があるからだという。


「興味……ですか?」


「ええ、わたくしはイリア様から聞いております。ルカ様が類い希な魅力を持つ魂なのだと……」


 ああ、そういうやつね。


 それならシリウスと同じだ。自分のことよりも、俺が気になっていたという話。つまりフィオナは俺に嫉妬しているのだろう。


「実際には悲運の女神に魅入られただけ。俺は悲しき運命の下にありますから」


 決して恵まれていない。

 美の女神イリア様に魅入られた方がずっとマシなのだ。同じ悪の女神という括りであるのならば……。


「わたくしこそ悲運ですわ。せっかく美の女神イリア様に加護をいただいたというのに、愛を知ることなく嫁いでいく。自由など少しもありませんでしたの」


 その辺りは不幸だと言えるな。

 上位貴族ならばまだしも、フィオナは皇族なんだ。加えて一人娘であったことも、制約が多くなる原因に違いない。


「まあでも、貴方様が現れた。ずっと気になっていた殿方が……。わたくしは愛を知りとうございます。どうかお相手してくださいまし」


 あ、これは詰んだかもしれん。

 シエラが話していたままだよ。姫殿下に誘われて、子爵家の長男が断るなんてできるのか?


 しかし、俺は無敵の不能。精力剤でもなければ、俺の相棒は頭を垂れたままなんだぜ?

 獣どころか現状においては子猫よりも無害な存在なんだ。


「フィオナ殿下、愛とは心が通じ合うことです。俺と貴方は出会ったばかり。何の育みもございません。よって、身体を合わせたとして、それは愛なんかじゃありませんよ?」


 昨日まで憎らしかった相棒。だが、この場においては最高の仕事をしている。

 セクシーすぎる格好のフィオナを前にしても、死にたくなるくらいに無反応なのだから。


「わたくしでは駄目なのでしょうか?」


 その問いに答えるのは難しいな。

 絶望させてしまうのはネルヴァの指示と異なる。俺は何としてでも、フィオナを戦場に連れ出さねばならないのだ。


「世界線というものご存じですか? 数多ある世界には似たような世界があるのです」


「世界線ですか……?」


 俺は語ることにしよう。

 フィオナが目指すべき未来。添い遂げる人が誰であるのかを。


「貴方はとある世界線で幸せになっています」


 流石に眉根を寄せている。

 現在が不幸だと仮定しての話だが、幸福を掴み取ることは今の彼女にもできるはず。


「そのお相手はシリウス殿下です。ご存じでしょうか?」


「はい、もちろん。アークライト殿下の弟君ですよね?」


「その通りです。実をいうと、その世界線においてアークライト殿下は前線で討ち死にされてしまうのです。そこで婚約者だった貴方様は弔いと称して、戦場へと赴かれます。つまるところ、戦場で運命の彼と出会うことになるのですよ」


「わたくしが戦場にですか?」


「本心でないことはネルヴァ様から聞きました。貴方は自由が欲しかっただけだ。大義名分を得た貴方は戦場に自由を求めたのです」


 恐らく間違いない。

 今し方、聞いた話でも不自由だと愚痴をこぼされているのだ。婚約者の死は彼女が戦う状況を意図せず作り出していたのだろう。


「アークライト殿下はお亡くなりになるのですか?」


「いいえ、言ったはず。とある世界線の話だと。申し訳ございませんが、この世界線においてアークライト殿下が戦うはずだった魔将軍マステルは俺が討伐してしまいましたから」


 目を丸くするフィオナ。流石に魔将軍を討ったという話は信じられないのかもしれない。


「魔将軍マステルの遺体を確認しますか? アイテムボックスへと収納しておりますから」


 頷くフィオナを見るや、俺はステータスを操作。広い部屋の床へとマステルの遺体を取り出していた。


「これが……魔将軍?」


「実際に死にかけました。レベルが足りなかったんですよ。聖女の補助魔法がなければ、俺は死んでいたことでしょう」


 遺体を片付けて、俺は続けている。運命が動きまくっている現状について。


「俺が死ぬ運命だったのは知っておられるでしょう。だけど、俺の運命は動いた。もう女神様の誰も俺の死を強要しません。ああ、悠久の女神様は違いますけれど」


 運命は動く。未来は固定された一本道じゃない。それが彼女にも分かってもらえたなら、この話し合いは意味を成すだろう。


「フィオナ様も自由を手に入れられます。貴方が望むのであれば……」


 これで構わないはずだ。

 彼女は俺が欲しいとかじゃなくて、自由が欲しかっただけ。


 俺を誘うようにしたのも、自由を奪う檻が迫っていたからだ。逃げ場がなくなる前に自由を手にしようとしただけだろう。


「わたくしは自由にしてよろしいのでしょうか?」


「俺は女神じゃないですから、強制力も真実味も与えられません。だけど、貴方は生きている。だったら、声を上げたらいい。自由に行動してみるのも悪くないと思う。勇気を出して、陛下に頼んでみてはどうでしょう? 婚約くらいは破棄できるかもしれませんよ?」


 いや、完璧じゃね?

 彼女の背中を押す方法はこれしかないと思える。


 自由を得ようと、フィオナは自発的に騎士学校へと入ってくれるかもしれないんだ。その未来に帰結することを俺は心から願っている。


「一つお聞かせください。ルカ様はこれからどうされるのですか? 後宮にいる錬金術士に会うだけでよろしいのでしょうか?」


 良い具合に好都合な質問が返されている。

 俺の返答は一つしかない。彼女の問いと同じなんだ。


「いえ、どこかにいるだろう素敵な精霊術士の力を借りたく存じます。恐らく精霊術士は不自由な檻に囚われたままだと思うのですよね?」


 クスッという笑い声が聞こえた。きっとフィオナは俺の真意に気付いたことだろう。


 囚われの精霊術士。それが誰であり、俺が求めている人材であることを。


 フィオナは真っ直ぐに俺の目を見つめ、俺の問いに答えるのだった。

 それはもう盛大に誤解した感じで。


「ふつつか者ですが、末永くご寵愛くださいまし――」

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