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第045話 夜のシミュレーション

 魔将軍マステルの遺体をアイテムボックスへと回収し、俺たちは再び旅路へと戻っている。荒野での野宿は危険とのことで、夜通し馬車を走らせて小さな町へと到着していた。


 まあ、早い話が御者の彼女はここで少しばかり休憩を取りたいらしい。


「昨日は本当に助かりました。本来なら私が戦わねばならないところを……」


 今さらなのだが、御者は昨日の戦闘について謝罪している。別にそんなことを求めてはいないというのに。


「君のせいじゃない。それに結果が全てだ。俺たちは全員が無事なんだからさ」


「いやでも、左腕に怪我を……」


「一応はヒールで治した。大きな街へ行けばハイヒールをかけてもらえるだろう」


 ヒールさえかけておけば問題ない。痛みや傷跡はハイヒールをかけてもらうまで我慢するしかなかった。


「ルカの言う通りよ。無事なんだから気にしない。どうして、そこまで責任を感じているのか不思議なくらいよ」


 リィナが補足的に言った。なぜに責任を感じているのかと。


「いやその、昨晩はお楽しみいただけなかったみたいで……。左腕の痛みで何もできなかったのかと……」


 瞬時に顔を赤くするリィナ。御者が言わんとしていることを理解したらしい。


 まあでも、それこそ責任を感じる必要はないな。

 何しろ俺たちは昨晩も試みていたのだ。しかし、我が巨槍は死んだ芋虫であるかの如くグッタリとしたままであり、興奮状態の脳内とは裏腹に機能しなかった。


 つまるところ、御者さんに責任はなく、相棒の冬眠が原因なのだ。


「つつつ、疲れちゃったからなぁ! 別にいつでもできるし!」


「そそそ、そうね! いつでもできるもの! ハハハハ!」


「はぁ、そんなものですか……。経験がないものですみません」


 俺もねぇよ。

 ついでにリィナも。


 だから、余計な気は回さないでくれたまえ。御者台で仮眠を取るとのことで、俺たちは町にある食堂へと入っていた。


 軽く酒でも呑んで過ごしましょうかね。一応は成人したのだし。


「ルカ、非常にマズいことになってるわよ?」


 酒が配膳されたあと、リィナが話す。どうにも良くない状況であるのだと。


「何がだ? 魔将軍を倒したこと?」


「違うわ。あの御者の子よ……」


 まるで意味が分からない。

 俺的にはとても良い人だと思う。気遣いができるし、積極的に戦闘もこなしてくれるし。


「さっき、いつでもできるとか言っちゃったじゃない?」


 頷く俺にリィナが続ける。こんな今も俺には何が問題なのか分からないままだ。


「旅程ではあと八日もあるのよ? その間、一回もしないなんておかしくない? まるで倦怠期を迎えてるみたいに思われてしまうわ」


 言われて理解した。確かに俺たちはいつでもできるからと答えたのだ。


 御者は一人なので、夜中も馬車を走らせる。

 つまり俺たちが何もしていないことは全て筒抜けになっているだろう。まあそれで、リィナは俺との仲が行き詰まっていると思われたくないらしい。


「とにかく頑張ってみるよ。何とかできるように……」


「それで駄目ならどうするの? 私は仲が悪いと思われるなんて嫌だからね?」


 割とリィナは真剣に考えているみたいだ。俺としては、そこまで気にする問題ではないと思うけれど。


「仮に駄目だとしても、してる体で演技するか……」


「知ってるの? 私は婆やに詳しく聞いていなかったのよ」


 肝心なところで役に立たない婆さんだな。余計な情報より実践的な情報を教えてやってくれよ。


「俺も分からんが、御者の子も知らないみたいだ。何とかなると思う」


「そうね……。彼女が無垢で助かったわ」


 俺たちは今晩のシミュレーションをこなす。


 俺が身体に触れるとリィナが声を上げる。あまり色っぽく感じないけれど、そこは経験がないのだから仕方あるまい。


 こんな練習も全て今夜も駄目だと考えているからだ。

 二日続けて不能であるマイソードが息を吹き返すなんてあり得ないからな。


 ま、案の定だ。

 今夜の相棒も長い眠りから覚めることなどなかった。

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