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第043話 運命の分岐点


 愛剣が振り切れていた。

 浅くはあったけれど、確かにマステルの肉を裂いていたんだ。


「クッ……。貴様、何をした!?」


 俺だって知りたいよ。

 今まで弾かれるだけであった俺の攻撃が初めて通ったんだ。特別なことは何もしていないってのに。


(攻撃を避けて、斬っただけだよな?)


 あれ……?

 俺はとんでもないことを見落としていたのかもしれない。スキルのバフだけが威力増大に繋がるだなんて。


 しかし、今しがたの攻撃はそれを否定する。

 明確に俺の攻撃は威力を発揮していたはず。これまでと同じように斬っただけなのに。


(ひょっとしてカウンター判定……?)


 アクションゲームならではの攻撃。相手の攻撃モーション内に一撃を加えると、威力が倍増するカウンター攻撃判定になる。


 もしもエクシリア世界の理が同じであるのなら、俺はカウンター攻撃を仕掛けたことになった。


 俺はオマケシナリオまでゲームの全編を見ているんだ。エクシリア英雄伝の内容が現実に反映されるのであれば、俺はきっと魔将軍とも戦えるだろう。


「ハハハ、何てことはないな……」


「何だと、貴様!?」


 そういやゲーム内において、俺はマステルにカウンター攻撃を繰り出していた。

 今よりもずっとレベルを上げていたけれど、確殺する手段がなかった俺はカウンター攻撃を選択していたんだ。


「かかってこいよ? 俺はお前なんぞに負けんからな!」


 とりあえず、挑発しておこうか。愚かにも乗ってきてくれたのなら、俺のターンは続く。


「かすり傷を与えただけで粋がるなよ!?」


 やはりプライドの塊かもな。安い挑発にマステルは乗ってくれるらしい。


 再び、殴りつけるモーション。何度も見たその攻撃であれば、合わせられるはずだ。


「実は脳筋なんじゃねぇの!?」


 素早く回避し、俺は愛剣を振る。あわよくば腕を斬り落としてやろうと。


 刹那に感じる。肉を裂いた感触。スパッと抵抗なく長剣が振り抜けていた。


「ぐぉおおおおぉぉっっ!」


 雄叫びのような叫声が轟く。


 俺は狙い通りにマステルの左腕を斬り裂いている。切断には至らなかったものの、先ほどよりも明らかに深く斬っていた。


 けれど、その傷が致命傷であるはずもない。この戦いを終わらせる攻撃にはなっていないはずだ。


「やっぱ、威力は上がってる……」


 カウンター攻撃に確信を得た。威力倍増効果は明確に結果を残していたんだ。


「リィナ、退魔封滅陣を唱えろ!!」


 ここが勝負所に違いない。


 カウンター攻撃に気付かれるよりも前に、俺はケリを付けるしかない。加えて、一分という時間制限内に。


 本来なら烈火無双との合わせ技で討伐まで考えられたというのに、今の俺はカウンターアタック頼み。強烈な一撃をお見舞いして、さっさとマステルを追い払うだけだ。


「調子に乗るなよ、小僧ッ!!」


 マステルは俺の算段に気付いていない。

 残された準備はリィナが退魔封滅陣を唱えてくれることだけだ。


「退魔封滅陣!!」


「キタコレ!」


 流石は愛しのリィナ。期待通りの素早い発動には感謝しかない。


 淡い光の粒が周囲に飛散していた。

 恐らくこのエフェクトがある時間内ならば、マステルは弱体化しているはず。


 次なる攻撃に合わせられたのであれば、俺はきっとこの窮地を脱せられるだろう。


「くそったれ!」


 左肩にマステルの攻撃がかすめる。

 皮膚が裂け、血が飛び散っていたけれど、俺はこの攻撃を外せないんだ。この好機に泣き喚いている暇はないんだよ。


「喰らえぇぇっ!!」


 閃光一閃。愛剣の切っ先がその位置を変える。リィナを守るのだと一心に願って、俺は振り切っていた。


「だらぁぁあああ!!」


 力の限りに振りきった一撃。左肩に痛みを感じていたけれど、たとえ腕が吹っ飛んでいようと、俺は全力を出し切るだけだった。


 その刹那、赤く光るものが俺の視界をよぎる。


 それは太刀筋に残る炎。全身全霊の一撃は烈火無双を使っていないというのに、紅蓮に輝く炎を纏っていたんだ。


 振りきったあと、俺は勢いに負けて転がっていた。直ぐさま立ち上がろうとするも、痛めた左足のせいで踏ん張ることすらできない。


「っ……!?」


 まだ効果時間は残っていたというのに、俺は攻撃の手を止めてしまう。張り詰めていた緊張感を一度に解いていた。


 確かに腕くらいは斬り落とせたかと考えていたんだ。あわよくば、マステルを追い払うことができるんじゃないかって。


 けれど、そんな予感は見当外れだ。

 何しろ、俺の眼前に立つ魔将軍マステルは横腹から肩口にかけてを袈裟懸けに斬り裂かれていたのだから。


 一瞬のあと、ドス黒い血の雨が俺の身体を叩く。唐突に噴き出したそれは、その容量がなくなるまで降り注いでいた。


「嘘……だろ……?」


 もはやマステルは断末魔の雄叫びすら上げない。

 徐々に血の流れが失われると、膝をつき前のめりに倒れ込んだのだ。


 マステルはピクリともしなかった。

 幾ら待とうとも彼は動かない。


 俺はただ追い払うことだけを考えていたというのに。

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