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第041話 未練

「よう、マステル……」


 間違いなく、こいつは魔将軍マステル。序章におけるボスであり、戦闘によりリィナを疲弊させた元凶である。マステルのせいで俺はディヴィニタス・アルマを使うしかなくなったのだ。


 悲運の青のせいか、或いはリィナと旅をする状況がゲームと同じだからか。目的地は異なったというのに、俺たちの前に現れていた。


「ほう、私をご存じなのですね? ならば、名を聞きましょうか」


「別に馴れ合う気はねぇよ。どこかへ行ってくれないか?」


 いずれ倒さねばならない敵であるけれど、今はタイミングが悪すぎる。

 俺とリィナは旅を始めたばかり。まだ魔将軍と戦う準備ができていない。


「そう言われましてもね。先ほど魔力波を垂れ流したのは貴方でしょうか? 現状からはまるで理解できませんが……」


 そりゃそうだ。

 烈火無双は勇者最大の剣技。レベル20程度でも、それなりの威力を発揮しただろう。

 だからこそ、気付かれてしまったのだろうが、生憎と一日に一回しか烈火無双は使えない。


「それで貴方は女神の使徒なのでしょうか?」


 饒舌な野郎だな。確かに使徒だけど、素直に答えてやる必要はないはずだ。


「どうだろ? てか、お前はどうして、こんなところにいた? まさか魔力を感じて魔国から飛んできたとかいうなよ?」


「いやなに、勝利を収めたあと、どこを手に入れようかと物色していたのですよ。貴方たちに会ったのは偶然です」


 偶然ね……。

 俺には悲運の青が引き起こした必然の状況にしか思えん。どこまでも俺は悲運の星の下にあるのだから。


「で、俺たちを殺すつもりか?」


 戦えば命がない。こんな今も俺はリィナたちが逃げる算段を考えていたけれど、都合の良い選択肢などあるはずもなかった。


(あの呪文じゃ無理だよな)


 ディヴィニタス・アルマは女神の加護だ。

 魔族に利くとは思えないし、そもそも女神は魔神と同格じゃない。七柱女神の中でシエラが強い力を持っていたとしても、七柱で魔神と戦っているんだ。魔神の使徒たる魔将軍に利くはずもなかった。


「どうしましょうか? 私は割と忙しいのですが、群れる羽虫を払うくらいの時間はございます。先ほどの魔力波も気になりますし……」


 残念ながら戦闘は避けられない模様だ。

 既にマステルは地上へと降り、大きな羽を折りたたんでいる。


「リィナ、逃げろ……」


 逃げ切れるかは分からない。だけど、ここにいたのなら死を待つだけだ。


「嫌よ! ルカと離れるなんて絶対に嫌だからね!」


 すげぇ嬉しいよ。でも、今は歓迎できないかな。

 相手が魔将軍であることをリィナには理解して欲しい。一人でも逃げられたのなら御の字だということを。


「死んでもいいのか?」


 聞いておかねばならない。

 俺たちは女神様の意向に反する決定をしようとしているのだ。勢いだけで決めて良いはずがない。


「当然でしょ? 最後まで戦う。私だけ逃げる未来なんて初めからないの」


 流石は真っ直ぐな性格をしている。彼女は窮地にあっても前を向いていた。


「なら、見ててくれ。倒すとは言えないが、時間稼ぎくらいならできる。気が変わったのなら逃げても構わない」


 俺だって覚悟を決めているのだ。まるで予定になかったけれど、天命が戦えというのなら、俺は最後まで戦ってやるさ。


「ほう、貴方たちは逃げ出さないのですね?」


 剣を抜く俺にマステル。それには敬意が籠もっているのだろうが、俺には見下されているとしか思えない。


「実は昨晩から相棒の調子が悪くてな……」


 そういや、俺はまだ絶対に死ねない。


 未練が残りすぎだ。

 リィナじゃないけれど、このまま死んでしまえば死霊化は避けられない。リィナを抱くまで俺は死にきれないって。


「血を見ると人は興奮するらしいじゃん?」


 軽口でしかないのだが、相棒の調子にかけて俺は啖呵を返している。未練も後悔も残さぬために。


「お前の血で回復させてくれよ――」


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