第066話 騎士
王都クリステラへ到着すると、もう夜になっていた。朝から何も食べていない。流石に腹が減って死にそうだぜ。
「ま、何か作ってもらえるだろ……」
王族が住まう王宮殿であれば、24時間いつでも料理人が待機している。申し訳なくも感じるけれど、金貨くらい手渡しておけば喜んでもらえることだろう。
「ルカ様!?」
クリステラ王城へと入るや、俺は使用人たちに囲まれていた。
そういやフィオナを追いかけるところまでしか知らないのだっけ。こんなにも遅くなった理由は分からないよな。
「心配かけた。でも何の問題もない。それより腹が減ったから王宮殿に行く」
どうしてか行列ができてしまう。使用人たちは全員が俺のあとを追いかけてくるのだ。
そんなに心配だったのか?
俺はただの第二王子なのに。
王城の回廊を進み王宮殿に入る頃、俺は再び声をかけられていた。
「ルカ様!」
その声は愛しのリィナ。振り向かずとも彼女が現れたのだと分かる。
「リィナ、まさか君も心配してたのか?」
「当たり前です! もしかしてイステリア皇国まで向かわれたのかと思いました」
ああ、そういうことか。確かに夜まで戻らなければ、心配くらいするわな。
「とりあえず飯にする。リィナもついてくるか?」
「もちろんです。私には弁明を聞く権利があるはずですもの」
弁明ね。心配をかけたのは事実だが、俺は謝罪が必要なことをしでかしたつもりはない。
まあしかし、ずらずらと俺の後をつけてくる使用人たちを見ると、かなり大事になっていたのは明らかだ。鬱陶しいから解散して欲しいのだけどな……。
ぶっちゃけると王宮殿は王族以外の立ち入りが禁止されているのだけど、どうしてか全員が俺の後をついて食堂まで来てしまう。
衛兵も止めようとしないって、どうなってんだよ?
行列には構わず、俺は適当に何か作ってくれと頼む。使用人用のテーブルへと座って料理が完成するときを、ただひたすらに待っていた。
「あのな、俺はもうどこにも行かん。だから、解散だ。解散!」
目障りにもほどがある。俺の周囲を取り囲むなっての。
「殿下、そう言われましても、我々は心配なのです。ルカ様は王国に必要なお方。リィナ様を迎えにいかれたときも独断でしたでしょう? 目を離すと、何をされるか分かりませんので、残念ながら解散はできません」
そういや、サンクティア侯爵領までリィナを迎えに行ったのは俺の独断であった。
それは世界の解釈に他ならないが、そのときも俺は心配をかけたみたいだ。
「勝手に外出して勝手に帰ってくる。それで良いだろう?」
「いいえ、また魔将軍と相まみえているのかと、全員が心配しておりました。やはり殿下から目を離すべきではないというのが使用人全員の意見です」
執事のセバスチャンが眉間にしわを寄せながら言った。しかし、四六時中見張ってるつもりか? まるで落ち着かないのだけど。
「まったく。俺って信用ないのな? さっきもドラゴンに鉢合わせただけだっつーの」
俺としては今日あった出来事を述べただけ。勝利したのだから、別に問題ないと思っていた。
「ドドド、ドラゴンでしょうか!?」
「そうだよ。ファイアードラゴン。だから遅くなった……」
食堂に絶叫が木霊した。どうしてか全員が頭を抱えている。
いやいや、俺は目の前にいるじゃん?
倒したから帰って来ただけなんだけどさ?
「よくぞ逃げられましたね!? 交戦に入ったドラゴンは狡猾だと聞きますのに!」
「いや、倒したぞ?」
再び何とも表現しがたい大きな声が響く。どうにも、こいつらは信じていないようだな。
「お前たち静かにしろ。結果から物事を考えろよ? 俺は生きて戻って飯を食っている。ドラゴンと戦って死んだ俺なんかいねぇよ……」
「ルカ様、ドラゴンだなんてありえませんわ! どうして、そのような魔物と戦うのです!? 姿を見かけたら真っ先に逃げてくださいまし!」
今度はリィナが声を荒らげた。
どうしても皆は俺を心配したくて堪らないみたいだ。
「つっても、既に交戦中だったんだよ。フィオナの連れていた兵はほぼ壊滅してた。俺が割って入らなきゃ、フィオナも死んでいただろう」
「ええええっ!?」
病気だというのに、そんなに興奮すんな。発作が出てもしらんぞ?
まあでも、リィナだけじゃない。集まった全員が困惑していたのだ。
「ルカよ、今の話はまことか?」
ここで父上まで登場。ますます落ち着いて食事する場面ではなくなってしまった。
「ええ、ファイアードラゴンでした。頭部を真っ二つに斬って討伐しております」
ざわめく食堂。
まあ俺も死を覚悟したくらいだから、討伐までは信じられないのだろう。でも、無事に戻ったんだから、それでよくね?
「むぅ、お前はシルヴェスタ王家の血を引いているとは思えんほどの猛者だな。魔将軍にも驚いたが、まさかファイアードラゴンまで……」
「亡骸は持ち帰っております。明日にでもバラして素材にしてください」
俺は料理を食べながら説明する。ファイアードラゴンとの戦いがどういったものであったのかを。
「そういえば、骨が折れたんだった……」
「ルルル、ルカァァ!?」
「父上、落ち着いてください。あばら骨ですよ。沢山あるので何本か折れたところで問題ありません」
「そういうものじゃないだろう! あばら骨は!?」
報告しなきゃ良かったぜ。面倒な説明を求められるくらいなら。
しかし、改めて俺は王子になったんだと思う。こんなにも心配してくれるなんてさ。子爵家の脳筋ときたら、唾で治療したあとはまるで気にしてくれないし。
「とりあえず俺もフィオナ殿下もその場では無事です。心配には及びません」
「その場とはどういう意味だ? まさか古竜種が現れたとかいうのではないだろうな!?」
俺はどこまで悲運だと思われているんだ。
古竜種なんて、ゲームクリア後にしか出てこねぇよ。本編の裏ボスみたいな奴なんだから。
「いや、俺は彼女たちを先に逃がしたのです。フィオナ殿下の兵は瞬殺されていたので、無事に帰国できたのか分かりません」
「そういうことか。まあ、我が国を出たあとでなら無関係だな。護衛を断られたのも姫殿下であるし」
帰国の途に就く折り、どうやら警護を申し出たらしい。けれど、事情もあってフィオナはお断りしたという。
「とりあえず、もう解放してください。俺は疲れたんです。どこにも行きませんし、飯を食って寝るだけですから」
「お前は普段の素行が悪い。皆、心配しておるのだ。これも人徳だと思え。無茶ばかりする王子など見捨てられても文句は言えんぞ」
シリウスじゃなく、俺のせいなのか?
正直にやらかした記憶は色々とあるけれど、俺がそんなに無茶をするだろうか。世界は俺を誤解したまま改変したんじゃねぇの?
「スラムで過ごしたこともあっただろう? あのときは肝が冷えたぞ。全裸で発見されるとか……」
あ……、それは俺だな。残念ながら、誤解じゃないわ。
やはり現状の俺はシリウスベースじゃなく、ルカ・シエラ・アルフィスが元になっている。だから、俺が経験したことは歪曲されながらも、残っていたりするみたいだ。
「とにかく、お前はもう一人で彷徨くな。近衛騎士を付けることにする」
「父上、俺は第二王子でしかありませんよ?」
どうしてか、少しばかり空気が重くなる。俺はそのままを口にしただけなのに。
「ルカよ、お前は皆に愛されておる。それは王子という立場を加味しなくても同じ。アークライトにはないものだ。人としての器が違うのだよ。だからこそ、全員が心配している」
褒められているのか?
俺は女神だけじゃなく、世界の人たちにも愛されてるって?
確かに改変を受けた記憶を見ても無茶ばかりしている。しかも独断専行。これでは心配させてしまうのも無理はない。
それで近衛騎士か。
考えもしなかったけれど、俺はやはり王子なんだな。脳筋子爵の息子ではなくて、自分自身に俺が考える以上の価値がある。
「分かりました。騎士を付けてください」
「分かれば良い。お前より弱くとも、目付役にはなるからな……」
確実に俺の方が強いよな?
魔将軍やドラゴンと差し向かいで戦える人間が他にいるはずもない。
「父上、一つだけ条件がございます」
一応は意見を口にしておこうか。押し付けられるのは好きじゃないし。
俺は一つだけあった条件を告げる。それは誰もが驚く願望であったことだろう。
「騎士はリィナ・セラ・サンクティアに――」




