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第038話 初めて愛し合う


 超贅沢な晩餐をいただいたあと、俺とリィナは宛がわれた部屋に来ていた。


 ヤバいくらいに豪華。昨日泊まった宿も高級宿に違いないだろうが、比較にならない調度品が並んでいる。


「やっぱ、同じ部屋なんだな……」


「ルカ、今日はダブルベッドだから、昨日より激しくしても……」


「俺は何もしてないって言ってんだろ!?」


 どうしても俺の話だけは聞いてくれない。リィナは今も大人の階段を駆け上がったと考えているようだ。


「ルカ、陛下の配慮を無駄にしちゃいけない。私は残された時間の中で子供が欲しいと考えているの」


「えええっ!?」


 いやいや、ちょっと飛躍しすぎじゃね?

 てか、まだ寝返りを打ったときに左手が少し触れただけなんだけどさ。


「子供……?」


「だってそうでしょ? このままでは私たちはどちらかが死ぬ。そのとき代わりとなる愛の結晶が欲しい。もし仮に私が死んだとしても、私の子供に愛を注いで欲しいのよ」


 マジっすか。

 まあでも、言わんとすることは理解した。


 何かを残す。

 それは人として生まれた意義。長い歴史の中で、人々はそうやって繋がり続けていたのだから。


「俺の子に愛を注いでくれるのか?」


「私はその未来が好きじゃないな。ルカが私の子を愛でるだけよ」


 この話が折り合うことはないだろう。


 俺は無理矢理にでも代行するつもりだが、幾ら言いきかせようとリィナはそれを受け入れないはずだ。


「産まれてくる子供は幸せになれるだろうか?」


 俺の懸念はそれだけだ。


 確実に両親のどちらかがいない。また魔国との大戦を控えている。ともすれば、二人ともが死ぬことまで考えられるのだ。リセット再プレイのゲームではないのだし、安易に子供をもうけるなんてできないと思う。


「大丈夫。サンクティア家は上位貴族よ? 私の家族は絶対に愛を注いでくれるわ。どちらかが必ず生き残ること。それを目標にしましょう」


 リィナはとても前向きな話をする。後ろ向きな俺とは違いすぎる。

 彼女は子供の存在を俺たちが生きる目的とし、世界を救うための原動力にするつもりだ。


「悪くないな。ま、二代連続で悲運の女神に魅入られないよう祈るとしようか」


 リィナに毒されたかな。俺はまだ見ぬ子供の未来を憂えすぎていたのかもしれない。


 幸せは個人が掴むもの。俺だってスラム生活をして分かったんだ。とても恵まれた生活をしていたこと。俺は確かに幸せだったと思ったはず。


「言っとくけど、幸運の女神の子供でもあるのよ? 相殺して普通になるかもしれないけどね?」


「普通なら御の字だ。もし仮に俺の子が生まれたなら、誇れる父親でありたい。世界を救った英雄の子として堂々と生きてもらいたい」


 せめて父が英雄であったと胸を張れるように。

 俺は我が子のために頑張れる。失われるだけの人生に新たな色が加わるはずだ。


「当然でしょ? 私たちの子供は幸せよ。二人の英雄を親に持ち、産まれてくるのだから」


 リィナは最初から最後まで疑いを持っていない。


 ま、リィナらしいとも言える。彼女は真っ直ぐに物事を捉えられる人だ。歪んだ見方をする俺とは違うのだろうな。


 だとしたら、俺たちは子供を作ろう。

 正直に熱愛であったり、心躍るロマンスを俺は望んでいた。しかしながら、ごく自然に、いとも簡単にそのときを迎えようとしている。


「リィナ、上手くできるか分からないのだけど……」


「昨日もしたんでしょ? 平気よ……」


「いやだから、それは違う。昨日は本当に何もしていない。いっちゃなんだが、君はまだ生娘のままだ」


 ゆっくりと確実に俺は伝えている。

 今度こそお互いの思考に齟齬を来さないように。


 リィナは目をパチクリとさせた。

 真面目に語る俺の言葉。ようやく彼女に届いたのかもしれない。


「本当に!? じゃあ、私は王様になんてことを!? やだ、めちゃくちゃ恥ずかしい! どうしよう、ルカ!?」


 取り乱すようなリィナに、俺は思わず笑ってしまう。


 なぜなら、俺たちは伝えた内容と同じことをするんだ。一日ズレただけであり、今さら訂正する必要もない。


「ま、これから真実になる。問題ないさ」


「そそそ、そうよね……」


 王城にある超豪華な来賓室。俺たちはここで初めての夜を過ごす。貴賓室には浴槽まで完備されており、準備は万端であった。


「じゃあ、早速してみる?」


 リィナが軽く言った。

 彼女はどういった心境なのだろうな。正直に俺は胸が痛いくらいに脈打っていて、平常心ではないのだけれど。


 俺が頷くと、リィナは身体を拭くからと、カーテンの奥へと消えていく。


「マジやべぇ……」


 こんなことなら、王都クリステラへと向かわずに、さっさとフィオナに会っておくべきだった。彼女の手ほどきを受けていたのなら大惨事は避けられたはずだ。


「大丈夫。俺ならやれるさ。頼むぞ、相棒……」


 こうなると名刀と信じている我が愛剣頼みだ。

 思いのほか早く訪れた鞘から抜く機会。俺は一刀にてリィナを斬るしかねぇ。


「ルカも湯浴みしてよね?」


 ブツクサ言っていると、リィナの湯浴みが終わった。


 彼女はシルク地のガウンを羽織っている。恐らく、その中は産まれたままの状態に違いない。


「おおお、おうよ! ままま、待っていてくれ!」


 飛び跳ねるように浴室へと。

 光の速さで身体を洗って、リィナのところへ戻るんだ。


「落ち着け……。落ち着け……」


 身体を洗いながら念仏のように唱える。冷静に挑めば大丈夫なんだと。


 有史以来、人は全員が初めてを経験している。

 俺だってその一人だ。従って問題などない。人類は脈々とその血を繋いでおり、やり方が分からずに途切れたことなど一度だってないのだから。


「俺ならできる!」


 長い思考の末に、俺は根拠のない確信を得ていた。身体を拭き終わった俺は、いざリィナの待つベッドルームに。


 恥ずかしいのか、リィナは視線を合わせようとしない。部屋の隅をじっと見ているだけだった。


「リィナ?」


 呼びかけると彼女は視線を外したまま、ポンポンとシーツを叩くようにする。

 なるほど、隣に座っても大丈夫ってことだな。


「えっと……」


 気の利いた言葉を探す。

 けれど、頭の中はお花畑だ。眼前のリィナに視線は釘付けで、思考は全てアレに占拠されていた。従って少しですらムードを良くするような台詞は口を衝かない。


「ルカ……」


 不意にリィナが俺の方を向く。どうやら彼女は今宵の行為を整理できたのかもしれない。


 徐に目を瞑ったリィナは俺を誘うように少しだけ上を向く。


「リィナ……」


 ここで俺たちは二度目の口づけを交わした。

 出会ってから二日しか経っていないというのに、俺たちはもうゴールが目の前というところまで来ている。


「絶対に名前を呼び合うのよ? 婆やが言ってたの。愛を確かめ合いながらするって」


 おっと、ここで婆やの話か。

 まあ今となってはだ。トントン拍子で進んだのも婆やのおかげかもしれないし。


「分かった。愛してるよ、リィナ……」


「ルカ、私も愛してる」


 俺はそっとリィナのガウンをはだけさせる。

 か細いランプに照らし出された素肌はまるで白雪のように輝いており、初めて目にするその裸体は強烈な印象を俺に与えていた。


 それはまさに俺が妄想していたままだ。

 触れると溶けてしまいそう。雪の結晶にも見えるリィナの姿は神々しさすら感じさせている。


 やはり俺にはリィナしかいない。俺には勿体ない女性であり、病気の問題がなければ絶対に手が届かない人であるはずだ。


「綺麗だ……。とても美しい……」


「ルカ、ありがと……」


 もう一度、口づけをして、そっとリィナをベッドへと横たわらせた。

 更には彼女を上から見ている。愛らしい顔が恥ずかしそうに視線を外していたんだ。


「あれ……?」


 どういうことなのだろうな。

 これは一体なぜなんだろうな。


 これから俺は大人になる。

 ここに至るまで何万段という階段を登ってきたはずだ。


 あと一歩でゴール。それは判然としていたというのに。

 だというのに、どうしてなんだ?


 なぜか俺の愛剣は力なくしぼんだままだった。

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