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第032話 思わぬ降臨

 俺はようやく牢獄から解放され、王都クリステラの大聖堂へと来ていた。

 聖七神教会の総本山であり、王城と見紛うほどの立派な建物である。


「まるで罪人だな……」


 牢屋からは出られたものの、俺は手枷をされたまま。一応は腰布が一枚与えられているが、当然のことフルチ……生まれたままの状態だ。


 大聖堂へと入り、超巨大な七柱女神像の前へと進む。するとシルヴェスタ王が立派な法衣を身に纏った神職者へ声をかけた。


「グラハム教皇、忙しいのにすまないな……」


「ああいえ、私も勇者を授かった者の情報を得ております。髪型や顔立ち、背丈は魔道通話にて聞いたままですね」


 どうやら司教様は自らの功績であるかのように、教皇様へと伝えていたらしい。

 それなら、もう検査する必要なくね? 俺は間違いなくルカ・シエラ・アルフィスなのだし。


「少年、とても落ち着いているな?」


 教皇様はそんな風に言った。勇者なのは間違いないし、俺が動揺するはずもないっての。


「全裸なのに……」


「好きで全裸じゃねぇよ!!」


 おっと、やべぇ。

 教皇様だというのに、思わず声を荒らげてしまった。


 取り繕う言葉を探していると、リィナが間に入ってくれる。俺が南部の無作法者であると弁明でもしてくれるのだろうか。


「教皇様、ルカは地域の風習で裸族なだけです!」


「ちがぁぁう!!」


 何てことだ。

 俺は今も裸族だと勘違いされていたのか。


 ま、裸族でも構わないけど、早くしてくれないかな。


「それでは始めよう。ルカとやら七柱女神像の前へ」


 グラハム教皇様が俺を呼ぶ。


 正直に手枷くらい外して欲しいところだが、今も俺は容疑者らしく勇者と判明するまでこのままみたいだ。


 七柱女神像の前で跪き、俺は祈りを捧げている。すると、期待したわけではないのだが、いつものように俺は意識を失っていく。


 気が付いたときには光輝く空間に。

 俺は再び女神様との邂逅を果たすのかもしれない。


「ルカ、大変だったね?」


 現れたのはまたもネルヴァであった。ジョブを勇者としていたからか、武運の女神様が降臨されている。


「お前の力で何とかできんのか? 大変とかいう問題じゃなかったっての」


「僕たちは地上に直接介入できないからね。まあ、このあと待遇は改善するよ。君は世界に一人しかいない勇者なのだから」


 どうもネルヴァは心配していなかった感じだ。俺を信頼しているのか、或いは未来が分かっていたのか。


「てか、シエラはまたも無視しているのか? ネルヴァがいなきゃ、俺は指示すらもらえないじゃないかよ?」


「仕方ないよ。シエラは積極的に世界と関わるように創造されていない。そもそもルカを庇護した事実が驚愕に値する。あの子は今まで一度も使徒に興味を示さなかったのに」


 それは褒めているのか?

 あの駄女神に魅入られたとして、俺は不幸になるだけだ。シエラが俺を生かしたというのならば、ちゃんと最後まで面倒みやがれってんだよ。


「あいつには文句が山ほどある。ネルヴァしか現れないのだったら、どうしようもねぇな。お前に文句をいうのは違うし……」


「ふふ、僕のことを特別扱いしてくれるのかい? 嬉しいなぁ。僕は寝ても覚めてもルカを見てるよ。だから、こうして直ぐに対応できる。きっとシエラは君が教会で祈っていることすら気付いていないね」


 どこまでも駄女神だな。使徒が祈りを捧げたというのに気付きすらしないなんて。

 やっぱ武運の女神様しかいない。俺を導いてくれるのは……。


「あと女神は一柱しか降臨できないんだ。ここは天界を映した場所ではあるけれど、実をいうとルカの頭の中。二柱が一度に降臨すると、君の頭が負担に耐えられなくなる。発狂してしまうだろうね」


 恐ろしいことをいうな。

 それならシエラには気付かれない方がいい。女神が降臨して発狂とか意味不明だし。


「あとシエラは僕たちの中でも特に力が強い。彼女が降臨しようとすれば、僕はここから追い出されてしまうだろう」


「マジ? あの駄女神ってやっぱ力があんのか?」


「僕とマルシェの暴走を抑える立場だし。間違った方向から……」


 やはり不安しか覚えないが、シエラが本気になればネルヴァではどうにもできないみたいだ。


「悪の女神とか必要なのか? 世界の役に立っているとは考えられないけど」


「そう言わないでやって欲しい。シエラもあれで君のことを大切に想っている。今回の件では激怒していたからね。使徒の悲劇を望むシエラが君の不遇に憤慨したんだ」


 落ち着いた雰囲気があったような印象。気まぐれなあの女神が俺のために怒りを露わにしたらしい。


「まあそれで、シエラに関して僕は忠告しておかねばならない。今回の件は全て悠久の女神ニルスが仕組んだこと。だから、シエラは何かしら手段を講じるはず。ああ見えて彼女は我が強いんだ……」


 それは俺も予想していたことだ。

 といっても、シエラの対応じゃなく、悠久の女神の使徒が一枚噛んでいるという話。やはり、悠久の女神は俺の死を待ち望んでいるのだろう。


「悠久の女神はシエラに報復されると?」


「そうじゃないよ。僕たちは互いを攻撃したりしない。だけど、代理を立てることはするね。あまりにも看過できない場合において」


 代理ってことは俺じゃないか。女神は地上に直接介入しないのだし、やり返すのなら俺が動くしかない。


「魔国が力を付けているというのに、悠久の女神もやってくれるよね? 下手をしたら使徒五人で戦う羽目になる」


 ゲームの記憶では俺を除いた六人で魔国と戦っていたのだ。


 しかし、シエラが報復を考えているというのなら、五人で戦うことになる。ハードモードってやつだろうか。


「やっぱ運命は動いてんのな?」


「そうだね。急激な流れだ。ルカが残ったことで、歪みが生じているのかもしれない。この先に、もっと大きなうねりが起きても不思議じゃないね」


 俺のせいなのかよ。

 ま、否定はしないけどな。動けば動くほどゲームと離れていく。ま、俺にとっては悪い話じゃないのかもしれない。


「気を付けて、ルカ。シエラの話を信じちゃ駄目だからね。現状の彼女は危険だ……」


 武運の女神ネルヴァは信用できると思う。

 過剰な愛を語る以外は世界を第一に考えているのだから。


 平穏無事に話し合いが終わるのかと思えば、急にネルヴァの表情が変わる。


「マズい……。シエラが君に気付いた」


 知らされたのは話題の中心人物。悲運の女神シエラが俺に気付いたという話だった。


 俺としては文句の一つも言いたいところだが、ネルヴァの話を聞いた後では会わない方が良いように感じる。


「ごめん。僕はもうこの降臨を続けられそうにない。ルカ、いいかい? これから君はシエラと会うことになる。だけど、君は僕の使徒でもあることを忘れないで」


 どうやら強制的にネルヴァの降臨は終わりを告げるらしい。


 薄く消えゆく身体。最後にネルヴァは不安にさせる言葉を残していた。


「シエラの命令を聞いちゃ駄目だ――」

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