第028話 困惑するリィナ
私は戸惑っていました。
なぜなら、何もしないと言ったルカが私の手に触れてきたから。
寝てたんじゃないの? やはり婆やの話は間違ってなかったのね?
「今のは愛なの!? 愛があったのでしょ!?」
愛なんて、きっと体の良い弁解だわ。
どうしても私の身体が欲しくなった。私が眠った頃を見計らって、襲いかかってくるのね。
ルカは早く寝ろというけれど、眠ってなどいられないわ。
夜の男は獣だと聞きました。つまり私は牙を研いだ狼とベッドを共にしているのよ。
「寝てる間になんて嫌よ。きっと私は弄ばれる。恥辱の限りを尽くした行為でお楽しみされてしまうのよ!」
「寝返りを打ったときに触れただけだ。何なら俺は床で寝るぞ?」
「ぐぬぬ……」
殿方の言い訳は信用できない。私は婆やを信頼しているもの。
とにかく、初めてが床だなんて断固拒否。宿だって、もう少し良い宿を初日に探しておけば良かった。
「分かった。でも、一つだけ約束して欲しいの」
明言しておかねばならない。私だって、考えがあってルカを招いているのよ。
「痛くしないで……」
「ホント、何も聞いてねぇのな!?」
聞いてるわよ!
私は婆やから全てを聞いているもの。野獣と化した男性の魂胆はお見通しなのよ!
「ルカ、私は十七歳で死ぬの。素敵な思い出を持って逝きたい。無理矢理だなんて、未練が残りすぎて死霊化してしまうわ」
「だから何もしねぇって言ってんのに!」
どうやら、私たちが折り合う隙などないのかもしれない。
彼はただ私の身体を求め、心まで抱くつもりはないらしい。本当に男って野蛮な生き物なのね。
「お父様にもお母様にも懺悔を済ませたわ。もう私は諦めた。好きにしたらいい。今のボディタッチで男性が持つ性欲の強さを痛感したもの……」
「俺は意思疎通の難しさを痛感してるよ!」
言って私は目を閉じる。
さりとて眠ったふり。彼が私を狙っているのは明らかなんだ。ならば、私は婆やの言い付けを守るしかない。
初めての夜は名を呼び合って、愛を確かめ合うのだと。
見てなさいよ? 絶対に飛び起きて名前を呼ぶのだからね。
色っぽく、それでいて情熱的に。
私は今夜、女として生まれた使命を果たす。心まで愛される女になるのよ……。
ところが、気付けば朝になっていました。
気を張っていたというのに、どうやら私は眠ってしまったみたい。
「迂闊だった……」
愕然としてしまう。
婆や曰く、時に男はアサシンというジョブを発現させるのだと。気付かれることなく、対象を殺めてしまうって。
だからこそ、私は嘆息する。何の痛みも感情も思い出せないのです。
殿方と過ごした初めての夜。しかし、アサシンであれば、睡眠薬を盛るくらい容易いことなのでしょうね。
長い溜め息と共に呟く。悔恨と懺悔を込めて……。
「お父様、お母様、ごめんなさい――」




