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第025話 初めてのデート

 私はルカと共に服飾店へと来ていました。


 装備も必要なんだけど、やはり衣服が先。私の隣を歩くのであれば、身なりくらいは最低限でも整えてもらわないとね。


「これが良いんじゃない?」


 割と背が高い。痩せているのはスラム生活のせいよね?

 だったら、少し大きめが良いのかも。


 何だか楽しい。これってデートじゃないの? 彼の服を選んであげるなんて。


 だって婆やが言っていたもの。男性は総じてセンスの欠片も持ち合わせていないって。男を磨くのは、いつだって女の使命なのだと。


 既製品でしたが、ここは妥協しましょうか。彼にはいち早く服を着てもらわないと、目のやり場に困って仕方がないもの。


「金貨五枚!? たっか!」


「そう? 貴方も子爵家の人間でしょ? これくらいするって知らないの?」


「いやいや、うちは所領の広さだけが取り柄でな。身分ほど財政は良くない。それに父上は税率をかなり低く設定してるからな。おかげで俺は畑仕事や狩りまでさせられていた。こんな高級な服を着て畑仕事なんかできないだろう?」


 私は驚いていました。

 北部の子爵家に友達がいますけど、侯爵家と変わらない生活をしています。畑仕事だなんて町民よりも下位の人たちがする仕事じゃないの?


「本当に? 畑仕事や狩りとかは相応しい人がするものでしょ?」


「リィナ、人を区別するな。俺はそれでも幸せだったんだから……」


 スラムでの生活で身に染みたのかもしれません。

 普通の貴族なら、そのような仕事をするよりも、税率を上げるだけで良いのだから。


「そうなのね……。ごめんなさい」


「いや、構わん。元より上位貴族の君が知る話じゃないからな」


 社会勉強も兼ねての一人旅。ひょんなことから、私の世界は拡がっていました。

 ルカ・シエラ・アルフィスが生きてきた世界。それが私に流れ込むことで。


「とりあえず、この服にするよ。リィナが見立ててくれたんだし」


 言ってルカは更衣室へと入る。私が見立てた服に着替えてくれます。


 ほんの僅かな時間。直ぐにカーテンが開かれていました。


 驚くほど早いのは当たり前か。彼は脱ぐ必要がなく、新しい服を着るだけなのだし。


「えっ……?」


 思わず息を呑む。意図せず、私は魅入っていました。

 スラリとした長身の彼。その凛々しい顔立ちに。


 言葉をなくすとはこのことかも。何だか心を射貫かれた感じ。謁見も考えた末に選んだフォーマルな衣装が本当によく似合っている。


 やだ、格好いいじゃないの。服を着た彼はまるで別人のようだわ……。


「どうかな?」


 見惚れていた私にルカが聞く。かといって、バッチリだと褒めるのは違う。

 恋愛においては駆け引きが重要だと、耳にたこができるくらい婆やが力説していたもの。


「ま、まあ、そこそこじゃない? べべべ、別に格好いいこともないわ……」


「だよなぁ。俺は田舎貴族だし、フォーマルなのは似合わないな」


 いやいやいや、凄く似合ってるよ!

 素敵だと大声で叫びたいわ。だけど、信頼する婆やの金言を私は無視できない。


 恋愛は惚れた方が負け。従って私は彼が改めて告白してくれるのを待つしかない。

 婆や、私は絶対に勝利してみせるからね?


「ホントね? 田舎臭さが衣装の良さを損なっているわ……」


 過度に胸が痛む。発作以外でこんなにも苦しいなんてあり得ない。


 でも、先達としての知恵が婆やにはあるの。お父様とお母様の夫婦喧嘩を宥められるのは婆やしかいなかったのだし。


「服がなければスラムから出られなかった。似合わなくても助かったよ」


「全然、似合ってないわ! ああいや、まあその……これからどうする?」


 この話はもうやめた。

 続けても胸を痛めるだけ。だとしたら、今後について話し合う方が有意義ってものよ。


「夜だし、謁見は明日にしよう。宿は取ったのか? 俺は野宿でも構わないけど」


「二日前から部屋を取ってるの。もう一部屋借りてあげるわ。貴方に野宿させるつもりはないし、ちゃんとした宿に泊まりましょう」


 魔物との思わぬ戦闘から買い物まで。時間を費やした今は完全に日が落ちている。今日は宿の食堂で食べることにしましょうか。


 私は連泊している宿へとルカを案内する。探せば無数にあるだろうけど、疲れちゃったからね。発作も起きたことだし、歩き回るより直ぐに休みたいわ。


 受付の男性に会釈をしてから、私は要件を述べる。


「えっと、宿泊している者ですけど、本日はもう一部屋都合して欲しいのです」


「ああ嬢ちゃん、悪いんだが明日は第一王子殿下が出兵記念パレードするらしくてね。もう既に満室なんだよ。たぶん他の宿も一杯じゃないかな」


 ええ? 今日に限って何なのそれ?

 一人部屋が一つしかないってことなの?


「困ります! 何とか二部屋用意してください!」


「そう言われてもなぁ……」


 無茶を言っているのは分かっています。

 だけど、野宿なんか駄目と言った手前、私は引き下がれません。


「リィナ、俺は野宿でも……」


「駄目よ! しょうがないわ。店主様、空き部屋がないのですから、一人部屋に二人泊まっても構いませんよね?」


「そりゃあ、構わねぇがベッドは一つしかないぞ?」


「それで結構です……」


 勢いで決めちゃったけど、これで良かったのよね?


 私は野宿なんてさせたくないし、彼を受け入れるとも言った。

 遅かれ早かれよ。フィオナって精霊術士が割り込む隙を与えなくて済むし。


 とりあえず、拝啓、お母様にお父様。


 成人を迎えて幾ばくも過ぎておりませんが、娘は大人の階段を昇ろうと思います。

 けれども、どうかお許しください。


 リィナは幸せになりますので……。

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