第024話 代行者として
俺は驚いていた。
助けた女性とイチャコラなんて考えていたけれど、それがリィナだったなんて。
金色に輝くツインテール。幼さを残した美しいご尊顔。よもや見紛うはずもなかった。
彼女は俺の激推しキャラであり、ゲームにおいてヒロインを務めたリィナで間違いない。
出会いたくはなかったけれど、その逆もあった。
理由を問われた俺はリィナに嫌われるため、シエラに聞いたままフィオナの話を口にしている。けれど、拗ねるような彼女が可愛らしくて思わず取り繕ってしまう。
「俺は最初から最後までリィナが好きだった。ただ君と一緒にいると……」
現状の俺はフィオナとの接点がない。だからこそ魔国との大戦を睨んで、騎士学校へ彼女が入るまでに出会っておきたかった。当然のこと、それは下心を含む。
「たく、どうしようもないわね? 私は貴方より上位の貴族だけど三女だし、そこまで身分を気にしないわ。運命ではあと二年。必死で口説いてみたらどう?」
ここでリィナから提案がある。
それは想像すらしていないこと。ルカの宿命に気付いてから、俺は彼女と疎遠になる方法ばかりを思案していたのだ。
「俺がリィナを口説くとか考えたこともなかった」
「呆れるわね? しっかりしてよ。セラ様に話を聞いてから、私は貴方のことが気になっていたのに……」
「君が俺を……?」
「二度と言わないから、よく聞きなさい」
鼓動が速まっていた。
シチュエーションは明確に異なるけれど、何となくゲームと同じ展開になる予感があったんだ。もしかすると、リィナはもう俺のことを……?
「真実の愛があるのなら、私は応える用意がある」
好きだと明確に伝えられたなら、俺は間違いなくリィナの手を取った。だが、濁されていた理由も理解している。
俺は勇者だが、子爵家の人間なんだ。
明確に階級で隔たった社会において、ジョブはそれを覆すほどの力がない。何しろ下位貴族は騎士学校へ入ることすら許されないのだ。交際ともなれば敷居がグンと高くなるのは自明の理である。
だけど、リィナは俺の背中を押している。俺の気持ちに応える用意があるのだと。
「俺がリィナと……?」
リィナが失われるまで、あと二年ある。
好きなんだったら、俺は突き進むべきじゃないか? リィナと交際しつつ、勇者としての使命を果たしてもいいのではないかと。
ゲームでは騎士学校への入学が十八歳であったから、まるで頭にない話だった。けれど、それよりも前に魔国との戦いを終わらせたとして問題はないはずだ。
「分かった。俺はこの人生の全てを懸けてリィナを口説くよ……」
「あわわ、私は別にその無理矢理にとは……」
真面目に返答すると、リィナは照れているのか慌てている。
そんなリィナに見惚れていると、彼女は俺の目を覚まさせるような話を続けた。
「どうして素っ裸なのよ……?」
俺は致命的なやらかしに気付かされている。
腰布という一張羅が飛んでいった今、俺は生まれたままの姿でリィナの前にいたのだ。
微妙に恥じらうリィナは神がかった可愛さだ。しかもチラチラと感じる視線が良からぬ感情を刺激してしまう。俺の愛刀がその感情に従って本気を見せる前に、この話は終わらせておかねばならない。
「腰布を巻いていたんだけど、駆け付けたときに飛んでいってしまったらしい」
「腰布? 湯浴みしてたのね?」
「いや、腰布は普段着だ……」
何も間違っちゃいない。
スラムに来てから愛用していたんだ。今となっては愛おしさすら腰布に感じているのだから。
「服……着ないの?」
そんな寂しそうな顔するなよ。俺はこれでも腰布よりもリィナが大切なんだ。ならば俺は弁明を並べるしかないだろうな。
素っ裸の理由。決してリィナに見せびらかそうとしていたわけではないのだと。
「じゃあ、服……着てくれるの?」
やはりリィナは俺に服を着せたいらしい。俺自身はワイルドになった自分を気に入っていたけれど、やはり美少女の頼みは断れない。
「俺だって服が着たいさ。だけど、お金がない……」
「それくらい買ってあげるわ。とりあえず、私の外套でも……」
なんとリィナは俺に服を買ってくれるという。
やっぱ彼女は俺のことが好きなのかもしれない。加えて述べるならば、ワイルドよりも知的な感じが好きなのだろう。
「助かる。俺はいずれ君に恩を返すことになる。それまでこの貸しはつけておいてくれ」
リィナと結ばれたあと。俺は考えを改めていた。
リィナを救えるのは俺しかいないのだ。現状は俺が知る未来よりも二年早い。
早々に魔国を制圧し、勇者としての使命を遂げる。
蜜月ともいえる二年を過ごしたあと、俺はこの人生をリィナに捧げよう。男にある願望を満たした俺は、ゲームよりも遙かにスッキリと旅立てることだろう。
そもそも俺は悲運の女神シエラに魅入られた魂。だとすれば、運命に従うだけだ。
最後は代行者としての使命を全うしてやろう。




