表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/37

第020話 接触

「間に合えぇぇっ!!」


 俺は全力で走り出していた。

 へたり込む女性の前に立ち、フライリザードの噛みつき攻撃を受け止めるために。


「うおおおおっ!」


 腰布が飛んでいった気もするが、今はそんなこと些細な問題だ。

 誰かが生きるか死ぬかの瀬戸際。恥ずかしいとか捕まるとか考える場合じゃねぇよ。


「クソがぁぁっ!!」


 包丁を構えて、フライリザードの突進を受けた。

 トカゲとはいえ、三階級の魔物。まるでドラゴンの突進を喰らったかのような威力だった。けれど、少しばかり押し込まれただけであり、俺も女性も無事みたいだ。


「逃げられるか!?」


 俺の問いには小さく無理と返事がある。背中越しに聞く弱々しい声から察するに、彼女は腰を抜かしているのだろう。


「なら、そこで見とけ! 絶対に動くな!」


 ちょっと勇者らしくね? 割とカッコ良かったんじゃね?

 もしも守った女性に決まった相手がいないのなら、俺は惚れられてしまうんじゃね?


「張り切っていくか!!」


 フライリザードの突進を受け止められたこと。それは俺の自信になっていた。

 動きも遅く見えたし、力量は俺に分があると思えたんだ。


「トカゲ、覚悟しやがれ!」


 包丁で斬り付けていく。

 やっぱマイ包丁は最高だ。まるで食材であるかのように固い鱗を斬り裂いている。


 まあしかし、包丁なので致命傷を与えるには至らない。

 与える傷が浅すぎる。鱗を斬り裂いているだけであり、長期戦は避けられない状況となっていた。


「やるじゃねぇかよ!」


 フライリザードの動きは見えている。だから、俺は集中して挑むだけ。長期戦になろうとも、勝利するのは俺に決まってんだよ。



 ◇ ◇ ◇



 私は愕然としていました。


 突如として戦闘に割り込んできた男性。私は覚悟していたというのに、事もなげにフライリザードの突進を受け止めている。


「逃げられるか!?」


 唖然としていると、彼は私に声をかけてくれた。

 どうやら私の危機を察知して、戦いを選んでくれたみたい。


「無理……。立てないの……」


 何とか声を絞り出す。

 こんな今も動悸がしていたけれど、彼の問いに答えなければならないと。


「なら、そこで見とけ! 絶対に動くな!」


 動けといわれたとして動けないのよ。


 でも、大丈夫なの? 相手は三階級の魔物なのに。

 私を見捨ててしまえば、貴方は助かるはず。


 私の心配を余所に、戦闘が始まります。突進を受け止めた彼は攻撃に転じていたのです。


「いや、包丁って……?」


 料理人なのかしら?

 包丁でフライリザードに挑むとか意味分かんない。それに彼の格好。王都では全裸で調理する伝統でもあるのかしらね。


 どうやら私の不安は杞憂だったようです。

 包丁を振り回す彼は本当に料理人であるかの如く、フライリザードを斬り刻んでいく。


 そこで見ておけといった言葉の通りに、隙を与えていませんでした。


「強い……」


 剣術大会では幾度も優勝していました。そんな私をして強いと言わしめる腕前。料理人にしておくのは惜しいとさえ感じます。


「でも、目のやり場に困るわ……」


 問題は彼が全裸であること。彼の戦いを余すことなく見たいと考えていたのに、どうしても気になってしまう。右へ左へ動くたびにチラチラとするものが。


 これでも私は花も恥じらう乙女だというのに、何てものを見せてくれるのでしょうか。


「ひょっとして、見とけって言ったのは……?」


 いやいや、違うって。彼は戦いを見ろと言ったはず。


 でも、婆やが話していた。自信がある男性は見せつけてくるのだと。女はそれを受け入れ、頷くだけで良いのだと。


 ねぇ婆や、どっちなの? 彼は戦いを見て欲しいの? それとも……。


 赤面している間にも、戦いは続いていく。

 一方的に見えて、やはり三階級の魔物です。致命傷を与えるには刀身が短すぎる。そもそも包丁で魔物と戦うなんてあり得ないのですから。


 今も視界に揺れるものに気を取られながらも、私は彼が勝利してくれる瞬間を待ち続けています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ