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第018話 正義感

 スラム街に来て十日目。俺は後悔していた。


「怒りに任せて斬り付けるんじゃなかった」


 銀等級冒険者の二人は今や全裸で這うしかできず、ゴミを漁って生きている。それはそれで溜飲が下がるものであったけれど、彼らの装備や衣服まで切り裂いたことを後悔していた。


「少なくとも服があれば衛兵に捕まらずに所領まで戻れたのに……」


 スラムには闇市があって、そこを仕切る婆さんに銀等級冒険者の剣を売ったのだが、なんと二本で銅貨五枚。搾取されまくった俺は今も服すら買えなかったんだ。


「最低限の服が買えるまで悪漢退治を続けるしかねぇな」


 闇市の古着は銅貨五十枚。ぼったくり価格だが、闇市なのでしょうがない。

 婆さんは何でも買い取ってやると話していたし、そこまで遠い未来でもなかったから俺は腰布と包丁一本で生きていくことに。


「あれ……?」


 スラムを彷徨いていると、何だか騒がしいことに気付く。

 ゴミが流れる水路の向こう側で、どうしてか悲鳴が轟いていた。


「どうしたんだ?」


 とりあえず俺は様子を見ようと橋の欄干に近付いている。

 とても人前に出る格好ではなかったが、スラム側にいたのならお咎めもないだろうと。


「魔物……?」


 ここは王都クリステラ。街は巨大な街壁に囲まれている。従って魔物被害など万が一にもないはずだが、巨大なトカゲが暴れ回っていた。


「あれは……フライリザードか」


 魔物狩りの手伝いをしていたから知っている。

 大きな羽を折りたたんでいたけれど、間違いなくフライリザードであり、衛兵を掻き集めて討伐せねばならない危険度三階級の魔物だった。


「きゃぁあああっ!」


 尚も叫声が響く。

 三階級の魔物が飛来したというのに、まだクリステラの衛兵は到着していない。このままでは甚大な被害に膨れ上がるだろう。


「ちくしょう!!」


 俺は駆け出していた。

 このままでは人命に関わると。魔物と戦うだけならば、素っ裸でも衛兵は見逃してくれるのではないかって。


「マズい!」


 突如として飛来したのだろう。逃げた者たち以外は呆然と立ち尽くしていた。


 フライリザードは非常に好戦的。素早い魔物であり、逃げ遅れると全員が惨殺されてしまうはず。


「みんな、逃げろ! 殺されるぞ!」


 大声を張って呼びかける。頼むから早く逃げてくれ。


 フライリザードは駆け寄る俺を一瞥したあと、耳をつんざくほどの咆吼を上げた。

 逃げ惑う人々。とりあえず、順調だと思えたのだが、腰を抜かしているのか地べたに座り込む人影が目に入っている。


「恐怖で動けないのか!?」


 へたり込んでいる女性。どうやらフライリザードも彼女に気付いたようで、狙いを定めたかのように向き直っている。


「間に合えぇぇっ!」


 咄嗟に俺は走り出した。

 間に合うかどうか分からないが、ジッとしていられないんだよ。助かる可能性があるのなら、俺は全力で駆けつけるだけだ。


 一心に全員の無事を願いながら、俺は包丁を手に突進していく。


「誰も死ぬなァァッ!!」


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