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第015話 王都を目指して

 グリンウィードを発って二日目。俺は王都クリステラまで、あと半日というところまで来ていた。


「そ、育ち盛りですね……?」


「そうなんです! 食べ物まで援助していただいてありがとうございます!」


 俺は人助けをしたわけなんだが、正直に後悔していた。

 路銀である銀貨十二枚はまだ良いとして、大量に買い込んだ俺の携帯食料を五人のガキ共は食い尽くす勢いだ。


「ちっとは遠慮してくれても……」


「もっとちょうだい!!」


 どれだけ餓えていたんだろうな。まあ領民みたいだし、無下にもできない。


 だがな、お前らは明らかに食い過ぎだ。全部食べても良いなんて一言も口にしていない。俺だけが食べることを躊躇った結果、食うかと聞いただけだ。


「もっと! もっとちょうだい!」


 うん、もう無理だな。これは保存食であり、長い期間に亘って持ち歩こうとしていた非常食なんだが、王都に着く頃には食いかす一つ残っていないだろう。


「ママ、お腹痛い! お腹が痛い!」


「まあ大変! 旅のお方、どうにかなりませんか!?」


 この子供にして、この親である。

 どうしてそこまで俺を頼りにできる? 罪悪感とか遠慮とか学んでこなかったのか? 脳筋子爵の所領であるけれど、ここまで図々しくなれるなんて驚きだ。


「回復や……」


 女神の加護であるアイテムボックスに入れた回復薬。俺は取り出そうとして固まっていた。


 なぜなら回復薬は高い。一個銀貨四枚もする。購入した数は十個。恐らくチビたちの腹痛はただの食い過ぎだろうし。


 五人全員のお腹が痛くなるのは明白であり、一人にあげたとすれば俺は銀貨二十枚分を失うことになる。俺の非常食を食べ過ぎたという腹痛により、更なる損失を被るかもしれない。


「回復薬があるのですか!? どうかこの子に!」


 いやいや、この母親おかしいだろ?

 未亡人であればまだしも彼女には夫がいるらしい。今以上に親切にしたところで俺にメリットはないと思う。


「ああいや、回復できたらなぁって……」


「今、回復薬って言いましたよね!?」


 ステータスを開いたまま誤魔化すが、無駄なことかもしれん。この旅で彼女の図々しさは嫌というほど理解したし。


 アイテムという項目を触ろうとして固まっていると、俺はこの苦境を乗り切る手段を発見していた。


【ジョブ】神職者(司教級)


「司教級なら回復魔法が使えるんじゃ?」


 しかし、相変わらずステータス画面はシンプルそのもの。ゲームにあったものとは違う。だが、きっと所有魔法の確認くらいできるはずだ。


「ジョブをタッチしてみよう……」


 まずはジョブという文字をタップ。すると視界に変化がある。


・代行者

・勇者

・神職者(司教級)


「ああ、ジョブをタップすると選択できるのか。じゃあ、神職者を触ったらどうなるんだ?」


 次に俺は神職者(司教級)にタッチしてみる。すると、


【魔法】

・ライトヒール

・ヒール

・解毒

・浄化


「これだ……。流石は司教級だな。浄化魔法まである」


 ただし、腹痛に効く魔法が分からん。

 解毒じゃないだろうし、浄化でもないだろう。基本的にヒールをかけておけば大丈夫かな。


「ヒール!」


 ゲームでも詠唱とかなかったし、ラーニングしてる魔法なら魔法名だけで充分だろ?

 あの呪文でさえ魔法名だけで機能するんだし。


 刹那に手の平が熱を持ち、輝きを帯びる。また光の粒は腹痛に苦しむ子供へと優しく降り注いでいく。


「あれ……治った! ママ、治ったよ!」


「無詠唱で回復魔法とか見たことがありません! 名のある神官様だったのでしょうか!?」


 あれ? 無詠唱は珍しいのか?

 脳筋教育の結果として回復魔法を施された経験がない。そんな俺が世間一般の常識を知るはずもなかった。


「その通り。実は司教級の神職者です……」


 ネルヴァが都合の良いジョブだと話していたけれど、身を隠す目的よりもその能力が役立っていた。


「慈悲深いお方だと思いましたが、やはり神職者様だったのですね……」


 いえ、貴方の図々しさに負けただけです。俺も貴方を見習っておこうと思いましたよ。


 兎にも角にもジョブについて勉強できたし、失ったものは授業料としておくか。

 悲運の青を実感する旅立ちになったけれど、俺は何だか希望に胸を膨らませていた。

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