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第014話 リィナの旅立ち

 翌日、私は再び大聖堂を訪れていました。

 家族の大反対がありましたけれど、なんとか旅立つ許可を得ています。


 幸いにも武術大会で何度も優勝していましたし、聖女というジョブは自衛に適している。何より、あと二年の命だと告げたこと。一人旅の許可は最後くらい好きなようにさせてやろうという意味合いがありました。


「幸運の女神セラ様、私はこれより旅立ちます……」


 祈りを捧げるや、昨日と同じように幻想的な空間へと誘われます。

 目映い輝きに目を細めていると、直ぐさま眼前にはセラ様が現れていました。


「リィナ、気を付けていくのですよ? とはいえ、貴方は幸運の持ち主。心配など必要ありませんかね」


 昨日と同じような話です。私自身に実感などありませんけれど、セラ様は私が幸運に恵まれていると今も考えている。


「そうだと良いのですけれど……」


「ふふ、貴方は侯爵令嬢ですよ? 一人旅が認められたのは貴方の幸運が巡り巡った結果です」


 またもや後付けにも感じる理由が述べられています。


 悪いと思いますが、私には運が絡んだ要素を見つけられない。だけど、セラ様が言うのなら、そうなのかもね。


「それでリィナ、貴方は王都へと急ぎなさい」


 続いて私の目的が語られました。

 叡智の女神マルシェ様の使徒と会うこと。でも、急げというのには理由があるのかしらね?


「急がねばならないのでしょうか? マルシェ様の使徒になにか?」


「ああいえ、マルシェの使徒とは関係ありません。急ぐ理由は一つ」


 どうやら、運命の鍵を握るマルシェ様の使徒は関係ないみたい。

 セラ様は徐にその理由を口にしていく。


「ルカ・シエラ・アルフィスが王都に向かっているからです」


 えっ? ルカ・シエラ・アルフィスって、あのルカって子よね?


「ルカ様はもう動き始めたのでしょうか?」


 私の方が先に動いていると考えていた。

 勇者というジョブを奪った彼は貴族だというのに、もう旅立ったといいます。


「ルカは不思議な魂です。深い青をしているというのに、女神は総じて彼に惹かれる。既に武運の女神もまた彼に魅入っています。こんなことを口にするワタクシですら、気になっているのです」


「いや、彼は不幸なのですよね? セラ様が気に入る要素なんて……」


「ワタクシの序列は低いですからね。ルカには見通せない資質があるのかもしれません。勇者の運命を背負っただけで、原初の三女神ネルヴァの気を惹くなんて不可能です。恐らくルカは見た目よりも、ずっと複雑な色をしているのでしょう」


 意味が分からないわ。

 悲運でありながら、他の能力も持っているってこと?


「彼は青い輝きなのですよね?」


「間違いなく青でした。しかし、今や武運の女神ネルヴァは心酔しきっているのです。また悠久の女神ニルスが手を挙げたことからも、彼の輝きは白に近いはず。深すぎる青のせいで見えなくなっている可能性が高い」


 昨日も聞いた話です。輝きを混ぜていくと白になる。絵の具とは異なっている不思議な話でした。


「エクシリア世界創世時に存在した武運の女神ネルヴァ、叡智の女神マルシェ、そして悲運の女神シエラ。三柱の女神はそれぞれ赤と緑と青なのです。後に緑と青が交わり空が生まれ、赤と青が交わって紫が生まれた。次に赤と緑が交わってワタクシの黄となったのです」


 混ぜるほどに明るくなる。それが七柱女神の輝きにある法則らしい。


「最後に生み出されたもの。それこそが悠久の白。時を統べる悠久の女神ニルスが誕生し、エクシリア世界の七柱女神が揃ったというわけです」


 最終的に現れた女神様。輝きの全てを混ぜ合わせた悠久の女神ニルス様は純白であるみたい。


「では、現状のルカ様が白色という可能性は高いのですか?」


 私は聞いておかねばなりません。私の運命を背負うはずだった人。青き輝きが白に変貌したその意味を。


「ルカ・シエラ・アルフィスはあらゆる色を手にしているのだと思えてなりません。つまり七柱女神は全員が彼に魅入ってしまうことでしょう」


 納得はできません。人は一つの色しか持たない。より輝いた者が女神様の加護を得る。エクシリア世界はそうやって安寧を保っていたはずだもの。


「複数の色を持っているなんて……。もし私が悲運の女神シエラ様に選ばれていたとしたら、この運命を簡単に変えられたのかもね」


 他者の運命を奪うのであれば、私の運命は簡単に更新できたかもしれない。たらればでしかないけれど、私はそんな世界線について考えてしまう。


「それは無理よ。そもそもシエラは使徒の悲運を望んでいる。リィナが使徒になったとして、ディヴィニタス・アルマを授かることはない。他の加護を授かるだけで、彼女は貴方の壮絶な死を望むはずよ」


 夢見ただけだというのに、完全否定されてしまった。


 まあ、そうか。聞く限りにシエラ様はかなり厄介な性格をしている。ルカという男の子は気まぐれで生かされただけ。より悲運を望んだ彼女の思いつきに振り回されているだけだもの。


「現状は武運の女神ネルヴァの助力が得られません。しかし、ルカ本人はまだ貴方に手を貸してくれると考えます。リィナは急いで王都に向かうこと。マルシェの使徒との接触を後回しにしてでも」


「本当ですか? ルカ様はどうして私に手を貸してくれるのでしょう?」


 問いを投げて直ぐに私は顔を赤らめた。

 だって、その理由は既に聞いたんだもの。彼が私のことを好きだって……。


「運命は急に切り替わるものではない。まだ貴方のために自害した運命は消え去っていないのよ」


 私は絶句していました。

 ルカという男の子は勇者になったのです。セラ様は世界の安寧のために動くべきだというのに、どうしてか世界が勇者を失うような話をしています。


「勇者に自害させるおつもりでしょうか!?」


 そんなことは望んでいない。世界と比べたら、私の命なんて塵にも等しいもの。勇者を差し置いて生きる価値が私にはない。


「流石にディヴィニタス・アルマの使用は禁じられているでしょう。しかし、身代わりにならなくても、勇者は戦闘や対外的な交渉でも心強い味方となります。リィナに恋心を抱いている今のうちに取り込んでしまいなさい」


「こここ、恋心ですか!?」


 思わず赤面してしまう。

 会ったこともないというのに、セラ様の意見はルカという男の子が私を好きだという話で一貫していました。私は二年と生きられない身体なのに。


 そういえば婆やが話していた。男と女は見えない赤い糸で結ばれていると。自然と手繰り寄せた結果、最終的に結ばれるんだって。こんな今もルカ様と私は赤い糸で……。


「リィナ、人生は一度きり。短くても長くても一度しかないのです。ルカは美の女神イリアでさえも興味を持った男の子。きっと楽しい旅になるはずですよ」


「ちょちょちょ、待ってください! 私はまだ男女交際とか……」


「会えば分かるはず。気に入らないのであれば、一緒に行動しなければいいだけ。運命を足枷と考えるべきじゃない。自信を持って接したらいいわ」


 セラ様は私の背中を押していました。


 まあ確かに。好きなだけ足掻いてやろうと考えていたんだもの。人生の残りを憂えるよりも、今を謳歌すべきかもしれない。


 婆やだって若い頃は派手に遊んだと語っていました。

 私自身は取っ替え引っ替えなんて嫌ですけど、生まれてからずっと世話をしてくれた婆やの性的武勇伝は格好いいとすら思います。まあ、生き様としてですけれど。


「分かりました! ルカ様と仲良くなってみます!」


「ワタクシ自慢の使徒だもの。きっと気に入ってもらえるはずよ」


 言ってセラ様の姿が薄くなっていく。


 使徒としての指針に難しい話はなかった。王都へ急ぐこと。加えてルカ様に会うこと。

 私は単純明快な目的を脳裏に繰り返しながら、大聖堂を去って行きます。


 素敵な男の子ならいいな。

 魂の色と同じように人生を輝かせてくれたならと、私はまだ見ぬ彼に思いを馳せていました。

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