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第013話 旅立ち

「叡智の女神マルシェの使徒は王都クリステラにいるよ」


 いやいや、そこって俺の通り道なんだけど?

 てか、やはりゲームと同じか……。


 叡智の女神マルシェの使徒は王城にいる。俺が王様に謁見するのであれば、リィナと出会う可能性は高くなるだろう。


「ま、王城もクソデカいだろうし、一日で王都を発てば出会わないか」


「生憎と君は不幸だからね。加えて相手が悪すぎる。幸運の女神に魅入られし魂は、必要とあらば砂漠の中に隠された砂金の一粒でも見つけられるよ」


「ちっとは安心させろよな?」


 お前は俺に死んで欲しいのか? さっき語った愛はなんだってんだよ。


「僕としてもリィナと会って欲しくない。既に運命は動いているけれど、十五年間も君は彼女の身代わりだったんだ。その流れは今も世界に残っている」


「運命の流れか……」


 何となく分かる。まるで違う方向に流れ始めたんだもんな。考えずとも、今もその流れは俺があの呪文を使用する方向にあるのだろう。


「かといって、リィナも祝福の儀を終えたばかりだからね。急げば出会わないよ。流石に同じ場所にいないのなら、幸運も力を発揮できない」


「本当かよ? じゃあ、俺はもう旅立つ。ところで、シエラは出てこないのか?」


 ここで気になることを聞く。顕現したのはネルヴァだけなのだ。今も加護を与えているシエラは何をしているのかと。


「シエラは朝に弱いからね。寝てるんじゃないかな?」


「割と俗っぽいのな。女神様も……」


「世界を見守るか、寝るくらいしかやることがないからね。だから、彼女の興味も分かる。悲しき運命はエンターテインメントとして最適だから。まあ、僕はルカを第一に考えているよ。愛ゆえに……」


 やれやれだぜ。

 あの駄女神には一言いってやりたいところだが、別にネルヴァがいたら俺は頑張れる気がする。


「くれぐれもディヴィニタス・アルマの使用には気を付けて。あの呪文は他者の運命をガラリと変えてしまう。できる限りフォローするけど、レアジョブを背負った場合は僕に対処できない可能性が高い。女神の固有ジョブであれば、僕にどうこうできる問題じゃないから」


 やはりネルヴァは善の女神だ。俺が奪うジョブについてフォローしてくれるという。


 とはいえ、俺だって無闇に他者の運命を背負いたくはない。ジョブだけならいいけど、リィナのように余命僅かという場合もあるのだから。


「分かった。また連絡する。俺は勇者として頑張ってみるよ」


「いつでも愛を語ろう。僕は君の全てが欲しい。最後まで君の味方だからね……」


 言ってネルヴァの身体が薄く消えゆく。

 本当に魅入ってしまったのか、再びむず痒い台詞を口にしながら……。



 ◇ ◇ ◇



 目が覚めると俺は誰もいない聖堂にいた。


 やはり司教様は聖堂にいたわけではないらしい。ネルヴァがいなければ彼は名もなき人間になっていたのかと思うと恐ろしいな。


「王都に急ごう。路銀が勿体ないけど馬車を使うしかない」


 リィナに出会わないためだ。俺は早速と乗合馬車を探す。

 余計な出費となってしまうけれど、命優先の選択に間違いはないはずだ。


「オッサン、王都まで幾らで乗せてくれる?」


 ようやく見つけた荷馬車。王都方面の馬車は一台しか停車していなかった。


 荷馬車の相場は分からんが、王都クリステラまで三日はかかる。恐らくは銀貨単位で請求されるだろうな。


 既に食糧と回復薬を買い込んだので銀貨は残り五十枚。シルヴェスタ王の支援頼りとなりつつあるけれど、王都で宿に泊まったとして一週間くらいなら問題ないはずだ。


「貧乏そうだな? 銀貨二枚だ。先払いだからな?」


 俺ってこれでも、領主の息子なんだけどな。地元民ではない荷馬車の御者には分からんだろうが。


「高すぎないか?」


「馬鹿言うな。相場より安くしてんだぞ? 今は収穫期でもないからな。荷物が少ない分、運賃をもらうしかねぇってわけさ」


 なるほど。要は運ぶ荷物があまりないから、人を運んで利益を得ているってことか。アルフィス子爵領の特産品が王都で売れるわけもないし、帰路が空荷なのも分かる。


「じゃあ、銀貨二枚な……」


「持ってんならケチってんじゃねぇよ。空いたところに座ってくれ。もう直ぐ出発する」


 直ぐに出発とは俺らしくない幸運だな。

 この分だと懸念されたリィナとの邂逅は回避できるんじゃないか?


「金を持ってねぇなら乗せられねぇよ! 他を当たりな!」


 俺が馬車に乗り込むと、御者の怒鳴り声が聞こえた。

 いったい何の騒ぎだよ? 俺は急いでるってのに。


「夫が急病で倒れたんです! 急いで王都まで向かわねばなりません! どうか乗せてください!」


 どうやら乗車賃を払えぬ女性が御者に頼み込んでいるようだ。まあでも、無駄だろうな。あの御者はドケチみたいだし。


「離せ! 金を持っていないなら歩いて行け!」


 縋り付く女性を御者は蹴り飛ばしている。流石に俺は見ていられなくなってしまう。


「オッサン、その人を乗せてやってくれ。俺が支払う」


「坊主、いいのか? お前は貧乏そうだけど」


「出稼ぎに行った夫が倒れたと雇い主から連絡があったのです! お助けください!」


 流石に可哀相だもんな。同じ悲運の下にあるのなら、俺は手を差し伸べるだけだ。銀貨は残り48枚になっちまうけどな……。


 頷く俺に女性は歓喜の声を上げる。


「全員分だなんてありがとうございます! ほら、みんなも礼をいいな?」


 え? 聞いてないけど?

 女性の後ろから現れた子供は五人。割と子だくさんだったのな……。


「オッサン、子供は銀貨一枚でいいだろ?」


「駄目だ。ビタ一文負けるわけにはならん!」


 嘘だろ?

 支払うと言った手前、引っ込みがつかないじゃないか。オッサンは変わらずケチだし、俺は銀貨十二枚を追加で支払うことに。


「やっちまった……」


 これで手持ちは銀貨三十八枚。いや、まだ大丈夫だ。どうせ三日しかかからん。謁見に時間がかかったとして、宿を取って過ごすくらいはできるだろう。保存食を買い込んだし、いざとなれば外食をやめたら良いだけだ。


 俺たちは空きスペースに座る。荷馬車の半分くらいしか荷物が積み込まれていないのだから、割と落ち着いて過ごせそうだな。


「問題は軍資金だけか……」


 早速と馬車の中を走り回る子供たち。ギャアギャアと騒がしいことこの上ない。


 前言撤回だ。

 とてもじゃないが、落ち着いた旅ではないだろう。

 俺は自身が持つ深い青について思い知らされていた。

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