第124話 待っていたものは
「東部司令官ルカ殿、ご指示を……」
えっと、マジかよ。あれ程までに高かったプライドが消え去っている。
俺を東部司令官だとエリザベートは口にしたのだ。飛竜を一刀にて仕留めたこと。それは実力差を彼女に知らしめるのに充分であったらしい。
「エリザベート、俺は今より君を副官に任命する。あと俺は全軍司令官だ。間違えることのないように頼む」
「承知……」
エリザベートが認めたのなら、俺は両軍を指揮する立場となる。
ダリア前線基地に英雄は配備されていないのだ。彼女が基地のトップであり続けることは士気を高めることにも繋がるだろう。
「では司令殿、魔国が攻め入っているようじゃが、どう対処する? 妾は最前線で長槍を振るう用意があるのじゃ」
早速と意見を口にするエリザベート。まだ魔国の軍勢は地平線の先。しかも荒れた荒野の進軍であるのだから、数時間は猶予があるはずだ。
「それなんだが、恐らく魔将軍アデウスが率いている軍勢だろう」
「存じておるのかえ?」
ここまではゲームの通りに侵攻しているのだ。
次なる魔将軍は色魔アデウス。憑依を得意とする悪魔であり、特に男性キャラはアデウスの魅了スキルによって行動不能になってしまう。
加えて、魅了を受けた者はアデウスに操られて味方を攻撃することになるので、女性キャラのみで攻略する必要があった。
「男相手に強力な催婬を使用してくる。なので、兵は砦に待機だ。俺が殲滅する」
「ちょっと待つのじゃ!? 司令殿も男じゃろう!?」
確かにな。現状で考えるならエリザベートが一人で戦うしかない。
しかし、俺は飛竜を討伐してレベルが84まで上がっている。色魔アデウスの討伐可能レベルは60前後。恐らく、これまでと同じように俺は無双できるはず。
「心配するな。俺の戦いぶりを見ておけ。エリザベートはもう魔力が尽きかけているだろう?」
「しかし……」
「俺はスノール前線基地においても、一人で魔将軍の進軍を退けている。兵の底上げはしたいところだが、失っては本末転倒。我が軍勢は総数を維持しておかねばならない。何しろ、この一戦が終われば、魔国へ打って出るのだから」
エリザベートは唖然と言葉を失っている。俺が次なる戦いを見据えているとは流石に考えなかったらしい。
「心配なら一筆したためよう。万が一のとき、再びエリザベートを東部司令官に昇格させると……」
それは無駄になるだろうけどな。
まるで負ける気がしない。経験値が向こうからやって来るくらいにしか思わないっての。
「ううむ、誠の強者とは勇ましいものだな……」
「紅茶でも飲みながら見ていてくれ。圧倒してしまうから、面白くはないだろうがな?」
俺は両手を叩いて解散を告げた。
流石に兵たちは戸惑っていたけれど、全軍司令官たる俺の命令なのだ。全員がゾロゾロと砦へと戻っていく。
「やっぱ進軍前に兵を失うわけにはならないし……」
こんなことならリィナを連れてくれば良かったと思う。レベリングに最適な進軍。オーク共を連続して豚バラ肉にできるチャンスなのに、彼女はお留守番なのだ。
俺は携帯食糧を囓りつつ、そのときを待っていた。
次第に最前線のオーク共が確認できるようになっている。到着に四時間もかかるのなら、俺も紅茶を飲んで休んでおくべきだったぜ。
「さてと、一暴れすっか……」
俺はアイテムボックスから竜殺しを取り出す。とはいえ、面倒なのでオーク共は魔法にて撃ち抜くと決めている。
魔将軍すらも貫いてしまうセラフィックレイを撃ち放てば、後方のオークまでもを一網打尽にできるはずと。
「セラフィックレイ!」
待ちきれなかった俺は到着を待つことなくセラフィックレイを撃ち放っていた。
撃ち出された光の矢は瞬く間にオークたちを撃ち抜く。魔将軍を貫いたときと同じく、過剰な力を発して地平線の先まで到達している。
「マジか。女神たちは俺の活躍に期待しすぎだ……」
やはり俺は無双してしまう。
一発撃っただけでレベルが二つも上がったのだ。一体何体を撃ち抜くほどの力を与えてんだよ。
「並行世界のクソゲー化は俺のせいじゃねぇぞ?」
もう知ったことではない。俺はセラフィックレイを撃ち続けていた。魔力が尽きる感じもないし、それはもう連射と言えるほどである。
自分で言うのもなんだが、まさに圧倒的だった。ぶっちゃけ魔将軍アデウスも既に死んでるんじゃないか?
「ゲームの方が難しいとか、どうなってんだよ……」
明確に俺はチートだった。思えば三柱女神の加護。ゲームでは分散していた力が一つに集約しているのだ。それが弱くなるはずもない。
「たぶん俺は魔王よりも強い……」
本来なら一柱につき一人の使徒という理がある。しかし、シエラのあの魔法は世界の取り決めを超越し、チートキャラを生み出してしまった。間違いなく道理を外れているというのに、神にも等しい力を俺は手にしている。
「ま、俺に適性があったからかもしれんが……」
俺には全ての色があったみたいだ。固有スキルの使用には適性が必要と聞く。武運の力も叡智の力も俺は操れるんだ。
「魔族には怪物に見えていることだろうな」
さりとて英雄になるのも悪くはない。最強と呼ばれるのも望むところだ。
「気の毒にも感じるが、魔族は滅ぼすだけ」
俺はセラフィックレイを撃ち続けた。
既にレベルは92となっていたけれど、魔族は殲滅と相場が決まっている。慈悲など少しも必要としない。
「ひょっとして魔将軍の討伐はレベルアップの数で分かんじゃね?」
嵌め技的に倒すことは魔将軍の有無を察知できない。しかし、よくよく考えると魔将軍の経験値は膨大なんだ。一つ二つじゃなく、一度にレベルアップしたのなら、それは魔将軍の討伐を意味すると考えられた。
「あいつら魔力まで充填してんじゃないのか?」
一向に魔力切れの兆候がない。駄女神どもがまたも競い合ってるのかもしれない。
一転してクソゲー化したエクシリア世界における人魔大戦。嘆息するしかない現状だが、魔族の侵攻を許すわけにはならなかった。
「あ、レベルが8上がった……」
うん、ミッションコンプリートだな。
魔将軍以外でそんなに上がるはずもない。きっと魔将軍アデウスはもう天へと還ったのだろう。
戦闘が始まってというか、俺が攻撃を始めて三十分。視界の先に生物を見つける方が難しくなっている。
「もう良いか……」
俺はスノール前線基地へ戻ることに決めた。
オークの残党退治は雑兵のレベル上げに最適だろうし。
エリザベートに後を任せて、俺は撤収することにしようか。




