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第121話 女傑エリザベート

 馬房からプテラを出し、俺は早速と北に向かって飛び立っていた。


 目指すはダリア前線基地。女傑エリザベート・ロザリエ東部司令官に取り入るためだけに向かっている。


「飯くらい食べてくるべきだったかな?」


 アイテムボックスから取り出した保存食を囓りながら思う。しかし、フィオナの痕跡が残る皇王城には長く居られなかった。気持ちが沈み込むのが目に見えていたし。


「早く気に入られてスノールに戻ろう。指揮権さえ手に入ったら問題ない」


 ミラグレイスからダリアはかなり距離があった。

 元々、そこには街があったようだが、現在は軍相手に仕事をする人たちが住んでいる程度らしい。何でも過去に巨大な飛竜が現れて、街の大半を焼き尽くしてしまったのだとか。


「飛竜被害とかいつの話なんだろうな」


 ファイアードラゴンも一応は飛竜だった。ひょっとすると俺が討伐したファイアードラゴンこそ、この地を襲ったドラゴンなのかもしれない。


「やっと見えてきたな」


 移動だけで日が暮れていた。

 鉱山都市であったダリアは考えていたよりも僻地であるようだ。焼き尽くされたあと、再興されなかった原因はこの立地によるものなのだろう。


 俺はプテラを基地へと降ろす。直ぐさま兵に取り囲まれるのはお約束だ。しかし、ペガサスを駆る勇者の情報は知れ渡っており、俺が名乗るや兵は長槍を収めている。


「エリザベート東部司令官に会いたい」


 端的に要件を告げると、兵たちは視線を同じ方向に向ける。


 んん? てことは、この場に噂の女傑がいるってことかよ?

 だが、周囲には衛兵の他、基地従事者しかいないようだ。ちょうど昼食の準備なのか食事を用意する若い女性の姿があるだけであった。


「妾がエリザベート・ロザリエじゃが?」


 俺は言葉を失っていた。女傑って聞いたイメージとかけ離れすぎたその姿に。


 全員で俺をからかってない?

 だって、目の前にいるのは絶対に女傑と呼ばれるような容姿をしていない。


「お嬢ちゃん、お兄さんをからかうんじゃないよ?」


「妾がエリザベートじゃ……」


 何だか頭痛を覚えている。えっと、本当に本気でそう言ってるの?


 周囲にいる兵たちの頷き。更には彼女に払う敬意。それはつまり、この眼前に立つ幼女こそが……。


「エリザベート東部司令官様でしょうか!?」


「如何にも! 妾は戦場で流す血よりも、訓練にて血の涙を流させる女傑。エリザベート・ロザリエなのじゃ!」


 嘘でしょ? どう見ても幼い彼女が魔女ってマジ?

 というより、魔女だからこの見た目なのか?


「お嬢ちゃん、ああいや、エリザベート様、俺は貴方様が長槍使いだと聞いたのですけど、長剣でも長過ぎませんか?」


「お主、ルカ殿下じゃったか? 失礼な若者じゃが仕方ないの。ほれ、妾の槍を持てい」


 エリザベートが声をかけるや、瞬く間に鬼長い槍が届けられた。それを受け取るや、彼女はブンブンと振り回して見せる。


「すげぇ……」


「じゃろ? 妾は先天スキルのせいで、背丈が伸びておらん。強さと引き換えに十五歳の頃から歳を取っていないのじゃ……」


 スキル魔女については初めて聞く。しかし、デメリットのある先天スキルって何だよ?


「いや、十五歳の見た目なんですか? 俺にはその……八歳くらいかと」


「馬鹿者! 十五歳で洗礼の儀を受けるじゃろ? あのとき妾は自身が持つスキルを発動させてしもうた。思わず口にしただけなんじゃが……」


「ひょっとして女神様と祝福の儀において会話されたのでしょうか?」


 何となく俺と同じじゃないかと思う。俺はシエラに誘導されて、ディヴィニタス・アルマを使用してしまったのだ。


「いいや、そうじゃない。しかし、あの瞬間、妾の頭に呪文が流れたのじゃ。【永久の代償】というスキルがの……」


 それは思わず口走ってしまっても仕方ないな。全然意味が分からないし。


「そのスキルはどういったものなのです?」


「うむ、魔女が持つスキルじゃ。大幅に身体能力を向上させられる代わりに、経ていくはずの時を失う。妾は今年115歳になるのだが、当時のままなんじゃよ」


 一応は成人しているどころか、一周してんじゃねぇかよ。

 それでいて今も十五歳のなりをしているとか、本当に時を失ってしまったのかもしれない。


「まあしかし、一度だけ女神様が降臨したことがある……」


 ふと興味を惹く話題に。使徒ではなかったようだが、エリザベートは女神と会った経験があるらしい。


「どの女神様でしたか?」


 時を操るのだから、嫌な予感がしていた。百年以上も前に魔女なるジョブを与えた女神とは誰なのかと。


「愚者の女神ルシアン様じゃ」


 ところが、俺の予想はハズレてしまう。

 結果的に良かったというべきなのかもしれないが、エリザベートをこんな姿にしてしまったのはミリアに錬金術士を与えたルシアン様だという。


「ルシアン様が? ジョブを与えたのは彼女なのでしょうか?」


「その通りじゃが、ルシアン様は間違えたと仰っていた。まあ、愚者じゃからのぉ」


 いやいやいや、そこは怒って構わないところだぞ?

 特に女神様は愚者だから愚者の女神をしているわけじゃない。愚かな使徒が見たいだけだと思う。


「気付いたときには妾がスキルを実行したあとだったらしい。一度、実行するとあのスキルは延々と作用してしまうようだ。よって妾は常にピチピチの十五歳なんじゃよ」


 しれっと桁を削るんじゃない。てか、間違ってジョブを授かることってあるんだな。


 俺は女神様たちが割と人間味に溢れていると知っているけれど、簡単な失態をしでかしたりもしてしまうらしい。


「魔女っていうくらいだから、大魔法でも操るのかと思っていましたよ」


「当然、魔法は扱うぞ? 妾はかつて、この地に飛来した飛竜を魔法で追い払ったこともある。それなりの強者じゃ」


 すげぇな、エリザベート。俺は昔話としてダリアの街が消失したことを聞いたのだけど。

 それなのに当事者であるだなんて、強さよりも経過した時間に驚きを隠せない。


「よく分かりました。俺は先日、西部の司令官に選ばれましてご挨拶にと伺ったのです」


 もはやエリザベートが強者であるのに疑いはなかった。

 背丈は伸びていないそうだが、飛竜を追い払えるものが他にいるはずもない。兵たちが敬意を払う理由はロリだからではなく、純粋にその強さであるのだろう。


「ルカとやら妾は陛下にこの地位を譲ってやってくれと頼まれたのじゃが?」


 根回ししておくと話していたけれど、皇王陛下はなかなか素早いな。既に伝え終えているとは思わなかったぜ。


「端的にいうと、その通りです。俺は魔国の侵攻に対して全体的な指揮権を欲している。現状で兵の配置は国ごとに動かしていますけれど、それだと融通が利かない。魔国と戦うには不十分なのです」


 俺は誠実に意見を口にした。

 現状の体制では駄目なのだと。ゲーム内でアルクがしたように、全ての決定権を手に入れたいと。


 ところが、思うようには運ばない。彼女の返答は俺が望むものではなかった。


「嫌じゃ――」

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