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第120話 葬儀

 本日はイステリア皇国の全土が喪に服す日だ。

 第一皇女フィオナ・イリア・イステリアの葬儀が執り行われるからだ。


 ミラグレイス大聖堂には各国からの参列者だけでなく、聖七神教会の教皇様の姿まである。俺は最前列にて彼女への祝詞を聞いていた。


「偉大なる七柱女神様の使徒フィオナ・イリア・イステリアは天へと旅立たれた。彼女の勇敢さは……」


 有り難いお話だが、俺にはまるで届かなかった。

 再び見たフィオナの亡骸に涙が止まらなかったんだ。


 教皇様のお話が終わり、俺たち遺族は再び棺に近づく。純白の花を添えて、彼女を見送るためだ。


「フィオナぁぁっ!」


 皇王陛下も女皇陛下も号泣されている。

 俺も二人の隣へと歩み、棺の前に跪いた。


 保存術式にて遺体は腐敗を免れている。加えて結婚式と同じように美しく化粧が施されていた。


 そっと肌に触れると、とても冷たかった。最後の時にあった温かみは既になくなっていたんだ。


「フィオナ……」


 どうして俺は最後まで彼女を拒絶していたのだろう。もっと親密になっておけば世界は最後の運命を書き換えたかもしれないのに。


「俺のせいだ……」


 魂のない身体は抜け殻だった。叫べとも反応などなるはずもない。


「フィオナァァアアア!!」


 しかし、声を張らずにはいられない。一日限りの夫婦であったけれど、時間は関係なかった。俺は彼女を失いたくなかったんだ。


 棺に頭を垂れ、嗚咽を漏らす。周囲の目など気にする余裕はなく、俺は泣き続けた。教皇様に諭されるまで棺の前から動けなかったんだ。


「最低だ……」


 俺はこのような結末を想定していなかった。

 世界救済のコマとしてフィオナを見ていただけ。精霊術士が有能だからと仲間に引き入れたかったんだ。


「どうして俺が生き残っている?」


 そもそも俺は代行者なのに、身代わりになれなかった。俺の存在は悲運をまき散らすだけであり、俺に関わる者は総じて不幸になっているじゃないか。


「やはり俺には価値なんてないな」


 世界の救済だけは遂げる。しかし、そのあと俺は世界から退場すべきだ。俺のせいでこんなにも不幸が蔓延しているのだから。


 長い鐘が鳴らされ、フィオナの棺が皇王家の墓へと運ばれていく。

 もうお別れなのだ。魂だけでなく、フィオナの痕跡もこの世からなくなってしまう。


「天界で待っていてくれ。近いうちに逝くよ……」


 ゲームではやり直しが利く。だからキャラクターの死がこんなにも重圧をかけてくることなどない。でも、現実はまるで違ったんだ。俺の心は押しつぶされそうになるほど圧迫されていた。


 フィオナへの罪悪感によって──。



 ◇ ◇ ◇



 葬儀の後、俺は皇王陛下と会っていた。失意に暮れる俺に配慮してくれたらしい。


「ルカ、元気を出せ。お前の存在は我らの希望でもある。フィオナが残した光だ」


 いや、違いますよ。

 たとえるなら俺は闇だ。どこまでも澱む深い青に他ならない。


「まあ頑張ります……」


 気持ちの切り替えは簡単じゃない。だが、フィオナのためならば俺は俺にできることをこなしていかなきゃダメだ。


「父上、ダリア前線基地を視察させてください。できれば俺を東部司令官に任命していただきたい」


 フィオナの願望を汲むこと。天界での謝罪よりも前に俺にはすべきことがある。

 世界を救う。そのためには皇国の東部戦線に介入しなければならない。


「なんと、正気か? 長らく東部と西部の戦線は分けられていたのだぞ? 全軍司令官になるつもりか?」


「全面攻勢を仕掛けられたとすれば、東部と西部の意思疎通が図れていないと大惨事を招く。俺はそういった危機を望んでいません」


 大規模な前線基地から小規模の砦まで。

 俺は全てを掌握し、動かしていきたい。ゲームプレイで見たように、世界平和を実現したかった。


「ルカは本当に尊い男だ。フィオナがこだわった理由も分かる。最高の男を見てしまえば、他の男を選ぶなどできぬ。全てが妥協に思えてしまうのだろうな」


 反応は悪くない。この分なら労せずして全軍の指揮を手に入れられるかもしれない。


「だがな、東部の司令官は公爵家の重鎮なのだ。会って話をして欲しい。彼女を説き伏せられたのなら、障害はなくなったも同然だ」


「女性……ですか?」


 ぶっちゃけゲームにおいて司令官級はモブだった。皇国の許可を得ることが問題であって、司令官に取り入るというミッションは含まれていない。従って俺は現状の司令官について何も知らなかった。


「ロザリエ公爵家の女傑だ。魔女という稀有なジョブを持っておる。かといって彼女は長槍を振り回す。怒らせると手に負えない女性なのだよ」


 かなりヤバそうな女性がいるんだな。だけど、魔女ってのは有能そうなジョブ。しかも物理攻撃まで兼ね備えているなんて、皇国におけるリィナみたいな存在かもしれない。


「承知しました。帰路の前にダリア前線基地へと赴きます」


「私からも一言伝えておく。まあルカならきっと問題ない。気に入られると思うぞ?」


 気休めにしかならないけれど、会うしかないな。


 やはり全軍を指揮してこそだ。最短でのゲームクリアを目指すしかない俺は全てを動かしていきたい。


 このあと俺はダリアへと向かうことに。女傑という司令官に指揮権限を委譲してもらわなければならなかった。


「気が重いけどやるしかない……」


 俺は女神の使徒であり、フィオナの夫でもある。

 魔王と会うわけでもないのだから、気が進まなくてもやり終えなくてはいけない。


 全ては愛する人たちのために。

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