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第110話 善戦のあと

 交戦が決定してから三時間が経過しました。


 地平線の先には砂塵のようなものが見えています。どれだけの数が進軍しているのでしょう。黒く見える地平線を見る限りは万単位での侵攻に違いありません。


「戦うの。怯えちゃ駄目ですわ。わたくしは精霊術士。雑兵などレベルアップの糧でしかないのです」


 心を強く持つ。

 魔物とは何度も戦いましたが、大戦になりますと話は別。足が震えてしまいますけれど、元よりわたくしは後衛です。最前線に立つリィナほど危険な状況にはありません。


「やるしかありません。戦うしかないのです」


 徐々に迫る影。どうやら敵軍の最前線はゴブリンで占められている模様です。


「ゴブリンなら戦えますわ」


 勇気が湧いてくる。

 こんなときルカ様との特訓が役に立ちます。もっと強い魔物の相手をしてきましたの。ゴブリン如きに蹂躙されるわたくしではなくてよ?


「出でよ、イフリート!」


 わたくしが先手を取らせていただきます。


 ゴブリンでしたら特に属性を考える必要性もありません。イフリートは中位精霊でありましたけれど、広範囲のブレスにて焼き尽くしてくれることでしょう。


 わたくしの精霊術に感嘆の声が上がります。剣術科の皆様には初めてのお披露目となりますものね。


「良いですわよ! もっと称賛をお願いしますわ!」


 次々とゴブリンを焼き尽くしていく。纏まって倒せるものですから、一つ二つとレベルが上がっていきますわね。


「いけます! 魔国など恐るるに足らずですの!」


 剣術科も交戦に入っているようです。


 苦戦を考えていたわたくしたちなのですが、蓋を開けば楽勝ムードさえ漂っていました。


 ところが、ゴブリンを退けたあと現れたのはオークの軍勢です。

 卑しい亜人種であり、ゴブリン同様に好んで女性を襲うとのことで注意が必要かもしれません。


「焼き尽くしてしまいなさい!」


 戦場は明確に分けられていました。


 剣術科の背後には支援科が付き、わたくしたち魔道科の前には最小限の人員だけとなっています。


 それは全てわたくしたちの魔法攻撃が威力を発揮していたからであり、剣術科の皆様は邪魔になると察知して進路を明けてくれているようでした。


「レベルがどんどん上がってますわ。わたくしは戦えます!」


 敵がオークになろうとも、結果は同じでした。的が大きくなっただけ。イフリートのブレスに対抗する術はないようです。


 加えて他の魔法攻撃も撃ち放たれるのですから、敵としては戦いにくかったのではないでしょうか。


 ところが、雲行きが怪しくなる。どうも剣術科が押されているようです。魔法科の援護がない状況で剣術科はオークの軍勢に対処できかねているみたい。


「皆様、剣術科の援護を願います! ここはわたくし一人でも問題ございません!」


 戦線を抜かれてしまうと危うくなる。従って、わたくしは魔術科の八名を剣術科の後方へと向かわせます。

 わたくしであれば一人でも戦えるだろうと。


 戦線は候補生たちの壁だけでなく、五千という正規兵たちの壁がありました。


 教官たちは中央に陣取って戦っておりまして、わたくしは東側のエリアを守護しております。


 今のところ、抜かれそうな場所は候補生たちだけであり、剣術科が守護する西側エリアのみ。五千という正規兵たちは戦線を押し上げるかのような勢いでした。


「わたくしも戦線を上げましょう!」


 中央が押し上がっていくのなら、東側も進んでいくだけ。そうしなくては一方に魔物が集まってしまうからです。


「出でよ、スプリガン!」


 イフリートに続いてスプリガンを召喚。


 スプリガンは魔法を操る精霊ではありませんが、物理にて攻撃と防御を得意とします。わたくしは一人でありますので、彼に守られながら進むという戦法ですの。


「エレメンタルタクトを使うまでもないですわ……」


 今のところ、中位の精霊召喚だけで間に合っています。

 大精霊を呼び出すエレメンタルタクトは一日に一回しか使えませんので、やはり魔将軍との戦いに温存しておかねばなりません。


 戦線を押し上げようと進み始めた直後、どうしてか眼前のオークたちが次々と倒れていく。


「どうしたというのです……?」


 イフリートが焼き殺したという事実はありません。というより奥側から倒れているような気さえする。

 押し寄せる波の如く手前側へと倒れ込むオークの群れに、わたくしは戸惑いを隠せません。


 幾ばくもなく、わたくしはその理由を知らされていた。


「豚共は邪魔なんだよ……」


 眼前に現れた巨大な陰は言葉を操っている。それだけで雑兵ではないと分かります。ゴブリンやオークは意思疎通ができないのですから。


 長く大きな身体をくねらせて現れたものは魔将軍に他ならない。敵将であるというのに最前線まで来てしまったようです。


 魔将軍は告げる。まるで、わたくしが極上の餌であるかのように。


「ぐははぁっ! 処女の良い匂いがすると思った!」

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