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第109話 並び立つこと

「フィオナ殿下、皇王陛下より騎士学校を辞めるよう命じられております!」


 わたくしを捜していたのは皇国の兵でありました。というよりお父様は、なぜ今になって騎士学校を辞めろというの?


「兵よ、それは本当ですか? わたくしはお父様の許可を得て入学しておるのですよ?」


「状況が変わったとのことです。既にバリウス帝国は完全制圧されたとの推測が成されております。このレザルの街も危ういとの話です」


 お父様は何を考えているのでしょう?


 わたくしは遊びに来たわけではありません。戦うために入学したのです。危機が迫っているから戻れというなんて馬鹿にしていますわ。


「わたくしは帰りません。お父様に伝えてください。わたくしは自分の意志でここにいるのだと……」


 もうお父様なんか知りませんわ。

 わたくしは子供ではありませんの。皇女であることよりも、女として決めたことなのです。


「残念ながら、ここにおるぞ?」


「お父様!?」


 どうしてお父様までシルヴェスタ王国にいるの?

 国政を疎かにする場合ではないというのに。


「早くお戻りください。世界情勢は酷く乱れております。大国の施政者である自覚がおありでしょうか?」


「だからこそ迎えに来たのだ。従者では説得できないだろうからな……」


 お父様は何も分かっていません。

 わたくしは一方的な破談をまだ許したわけではないのです。お父様に従うつもりはこれっぽっちもありませんの。


「嫌ですわ。お父様、実をいうとルカ様は生きておられます。あの方はわたくしたちを逃がしただけでなく、ファイアードラゴンをソロ討伐されたのです」


「まことか? いや、竜種を単独討伐とか……」


「あり得るのです! 素敵で強く優しく格好いいルカ様に不可能などございませんの。わたくしは再会をして操を捧げました。もう身も心もルカ様のものですわ」


 リィナが薄い目をしておりますが、気にしては負けですの。ルカ様以外に婚姻などできない。わたくしの殿方は彼以外に存在しないのです。


「なんと!? お前は皇女であるのだぞ!?」


「知りませんわ! わたくし、皇国を捨てたとしても彼と結ばれます!」


 頭を抱えるお父様。わたくしの決意をどうか察してくださいまし。

 わたくしの心は一目見たときから、ルカ様のもの。国や世界を敵に回したとしても、わたくしの想いは変わらないのです。


「強情な娘だと考えていたが……」


 知ったことではありませんの。

 愛よりも大事なものなど存在しませんわ。わたくしは美の女神イリア様の使徒なのですから。


「お帰りくださいな。わたくしは騎士学校に残って戦うだけですの」


「許さんぞ! シルヴェスタ王国との同盟も破棄だ!」


「やめてください! お父様は大馬鹿者です!」


 結論を見ない口論が続きます。

 同盟破棄などあり得ない。ルカ様が望む世界の安寧は皇国と王国が手を取り合って進む道にしかないのですから。


 平行線を辿るだけかと思われた矢先、警報音が騎士学校に轟く。

 それは非常事態を告げる警報であり、北部を見張る兵により知らされたものでした。


「魔物!?」


 基本的に強大な魔物が現れたという知らせ。

 北東の街レザルには五千程度の兵が配備されておりますので、竜種が現れない限りは問題ないかと思われます。


『騎士候補生全員に告ぐ。直ぐさま集合されたし。繰り返す……』


 警報だけかと思いきや、放送によってわたくしたちは集合を命じられました。


 こうなると単なる魔物被害の可能性は低くなったかと考えられます。恐らくは正規兵だけで対処できない強大な何かが迫っているはず。


 お父様を引き連れて、わたくしは集会場まで来ていました。全候補生が緊急的に集うだなんて異様な雰囲気です。


「早速だが、要件から始めよう」


 グレン学長は全員が揃ったとのことで話を始めています。一体何を知らされるのか全員が固唾を呑んでいました。


「魔国の軍勢がレザルへと向かっているらしい」


 一度にどよめく集会場。それもそのはず、双国の前線基地ではなく、都市を狙うなんて誰も考えていなかったからです。


「魔将軍の姿も確認された。よって我々はレザルを放棄するか否かで話し合わなければならない」


 レザルは王国内における北東部の主要都市です。

 特産品は農産物なのですが、割と食糧需給率に寄与しているらしく、今後を見据えると安易に手放せない土地なのだとか。


「はい、学長様!」


 わたくしは手を挙げました。

 ここは意見すべき。幸いにも女神の使徒が二人もいるのですから。


 レザルを放棄したとして、次戦で勝てる見込みなどありません。ならば、総力を挙げて戦うべきだと。


「レザルを失っては後手に回ります。大戦の長期化を考えた場合に、ここの食糧生産力は必要不可欠。戦う以外の選択肢などございませんわ」


「おい、フィオナ!?」


 お父様は驚いていますが、間違ったことなど口にしていないと断言できます。


 もしここにルカ様がいたとして、同じことを述べられていたことでしょう。わたくしは彼の志に背くような真似はできませんでした。


「逃げたい者がいるならば、逃げても構いません。ですが、わたくしは戦う。女神の使徒として、最後まで戦う所存ですわ」


 わたくしの発言には拍手が返されていました。有り難いことに候補生たちは、わたくしの意見に賛同してくれたようです。


 このあとも同じような意見が続き、グレン学長は大きく頷いています。


「戦闘への参加は自由とする。しかし、人類のために戦うつもりであるのなら、戦線に立ってくれ。魔国の進軍を許すわけにはならない」


 グレン学長は具体的な指示を出します。


 恐らく戦いは決まっていたのでしょう。自由参加としてくれたのは、わたくしたちがまだ候補生であるからだと思います。


「お父様、早くレザルを発ってくださいまし。もうすぐここは戦場となります」


「いや、いかんぞ! お前を置いては戻れぬ!」


 お父様はこの期に及んで帰国を拒否されています。わたくしとは違って、本当に強情ですわね。


「お父様、わたくしは愚かにも帝国や世界を憂慮しておりません。自分自身の命でさえも。わたくしは愛にのみ忠実に生きるだけですの。よって逃げ戻る道など存在しない」


 国民や家族には申し訳ないと考えております。ですが、わたくしは愛を信じるのみ。勇敢な彼と同じ生き方を選びたいだけなのです。


「あの方に寄り添って生きるために戦わねばなりません」


 わたくしは弱さ故に一度逃げたのです。とても後悔した。やはりあの場所に残るべきだったと。


 従って、わたくしはもう逃げない。ドラゴンだろうと魔将軍だろうと戦いを選択します。


「お前……」


「お父様、先に伝えておきます。もしものときルカ様を恨まないでください。わたくしは自分の意思で戦うだけですから」


 魔国の軍勢がどれだけいたとして、わたくしは抗う。あのとき助けられた命は研鑽を積み、強さを得られたと信じているから。


「わたくしの死後、皇国の後継者はルカ様にしてください。王国に許していただけるのなら、わたくしの皇配として迎え、その上で後継者に」


「いや、そんなこと不可能だろう!?」


 試す前から諦めすぎですわ。

 わたくしが魔将軍と戦って勝つ方が、よほど不可能だと思いますの。


「これは遺言です。どうかご配慮くださいまし」


 万が一の場合も考えているのよ。どうか願いを聞いてください。

 死後であっても番いになれるのだとすれば、わたくしは無心になって戦えることでしょう。


「皇国へ戻られないのであれば、せめて校舎にいらしてください。わたくしは戦って参りますので」


「本当に……戦うのか?」


「冗談を申し上げる場面ではありませんわ」


 ここで逃げていたのではルカ様に顔向けできませんの。

 騎士学校を守り切り、堂々と自慢話の如く武勇伝と募る愛を語りたいですわ。


 わたくしはルカ様の隣に並び立ちたいだけなのです。

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