特級狩人・灰狼ロウ
「これは、ほんの謝礼金です」
富豪層の住人から渡されて来る包み紙。
茶色い封筒には確かな重みを感じ取れた。
「……」
灰狼ロウは、笑みを失った顔で、封筒の中を確かめる。
札束が三つ、たった一つの仕事で、これ程の金を手に入れる事が出来た。
しかし、灰狼ロウは歓喜も興奮もせず封筒を握り締めたまま踵を返す。
「また御用があればお呼び致します、特級狩人さま」
にこにことした笑み。
恐怖など存在し得ない表情だ。
化物退治は安全圏からの鑑賞会に近いのだろう。
一連の劇を観終えて、彼らは現実へと戻り出す。
灰狼ロウが離れた所で、住人達は笑顔を解く。
「……相変わらず薄気味悪い奴だ」
「実力は確かだが、社会不適合者だな、あれは」
「まあ良いじゃないか、金さえ払えばどんなバケモノでも殺すのだから」
「例え死んでも……狩人など他にも居るからな」
地位が高い住人たちの会話。
既に、遠くに居る灰狼ロウには聞こえていないと思っているだろう。
だが……灰狼ロウの耳にはきちんと届いていた。
「……」
封筒を握り締めたまま、灰狼ロウは歩き出す。
ゆるりと、二時間程歩き続けた時、富豪層地区の端へと到達。
其処では、複数の子供たちが居た。
何処かの孤児院の子供たちなのだろう。
大人が一人、保護者として立ち尽くしている。
その周囲に、膝を抱えた子供や、大声を張り上げている子供の姿が居た。
「化物による被害で親を亡くした子供たちに支援をお願いします!」
声を荒げる女性の職員。
灰狼ロウはゆっくりと近付くと、彼の存在に気が付いた女性の職員は笑みを浮かべた。
精一杯の、現実を生きる為に作った笑顔だ。
「お願いします、どうか支援を、あっ、ありがとうございえぅえぇええ?!」
そんな彼女達に、灰狼ロウは、ずっと手に持ち続けた札束がぎっしり入った封筒を、募金箱の上に置いた。
驚きの表情を浮かべている女性職員。
封筒の中を広げると、札束が詰まっていた為に、驚きの声を漏らしている。
唖然としている女性職員、何が起こったのか心配している子供たち、それを尻目に灰狼ロウはその場から離れた。
そして、二秒程フリーズしていた女性職員は、我に返ると、既にその場から離れていた灰狼ロウの背中に向けて大きな声を荒げる。
「こ、こんなにいっぱい……い、いえ、ありがとうございます!!」
職員の張り上げた声に、余程良い事があったのだろうと認識した子供たち。
子供たちも同じ様に、不揃えではあるが、声を荒げて感謝の言葉を口にした。
「ありがとうございます!!」
灰狼ロウは声を聞いて、特に反応を示さなかった。
しかし、これで一文無しである。
灰狼ロウは、金銭に関して頓着が無かった。
得た金は慈善活動者に渡す事もあれば、後輩や配下に労うカタチで消耗し、泡銭を捨てる様な行為をするのだ。
「……」
再び歩き出す灰狼ロウ。
足取りは酒を飲んだかの様に千鳥足となっていて、次第に体の力が抜けていく。
其処で、灰狼ロウの腹の虫が鳴り出した。
自分が空腹である事に気が付いた灰狼ロウは、ポケットを弄る。
既に、現金など無い無一文。
そんな彼がポケットに忍ばせているのは、複数の鍵の束であった。
じゃらり、と、鍵の束を見詰める灰狼ロウ。
この周囲の地区で、一番近い場所は何処か、鍵を見ながら探る。
そして、彼女の顔を思い浮かぶと、鍵をポケットに仕舞い込んで、再び歩き出した。




